08 ドラデモ的補正について/童女は抱擁する、父の剣と温もりを
奇跡の力は、望みの力。
乞うて授かり、願って叶い、いずれ世界を変えるに至る。
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仕事休みたいです。でも辞めさせないでくださいお願いします死んでしまっ。
はい、というわけで、いもでんぷんなんですけども。
今の火魔法、普通にすんごいですね。思わず衝撃の反復横跳び円陣ですわ。後ろの正面常にクロイちゃんですわ。へいへい魔術師焦ってるう。
改めて結論。DX版って、やっぱり人間救済パッチっぽい。
ステータスを見るに、この≪猛炎≫って魔法はヴァンパイア倒せます。並のやつなら一発で。エルフだと魔法抵抗値と属性相性的に少し厳しいですけど、ダメージは通りますからね。そうなりゃ後は工夫次第だもの。
ん? おお、見る間に魔術師の信仰値が上がっていく。
よしよし。鬼神の総信仰値も上昇継続待ったなし。騎士も信仰値跳ね上がったし、神官は相変わらずだし、一般兵や開拓民も徐々にだけど信仰値増えてるし。
でも、今、いもでんぷん的に注目株はシラちゃん。
この子やばいですね。そのうち「使徒」になれんじゃねってくらい。なんかもう≪アセプト≫系をゲットしてるし。「従僕」ボーナス込みの制限版とはいえ。
んで、我らがクロイちゃんはといえば……もどかしい、っていうか勿体ない。
クロイちゃん自身の信仰値は既にMAXで、「使徒」としてのボーナスを受ける条件はほとんど満たしてるってのに、肝心要の鬼神のパワーが足りてないんです。ぶっちゃけ、鬼神さん弱いっすよ。竜神や魔神に比べると。
さすがはドラデモ。人間救済パッチでも人間冷遇を忘れない。
鬼神さんがこのままじゃあ……結局、人間滅ぶんじゃね?
まあ、要は総信仰値の問題なんですよね。数字が低けりゃパワーも低い。総人口としては、ヴァンパイアもエルフも人間もさして変わらないんですけどねえ……宗教がうまく機能してない感じかな、人間は。祈り先を間違ってる的な?
とりあえずクロイちゃんの周りはいい感じなんで、これを広げてくしかー。
うーん。能力値高いし≪アセプト・ブレード≫あるしで、クロイちゃんの生存はもう楽勝なんだけどなあ。開拓地守るってなると≪コール≫系が……鬼神ェ…。
何とかなんないかなー。何とかしたいなー。
どうにかして、この開拓地を存続させたいですねえ。
魔物襲撃からのリカバリー、素晴らしいんですよね。高速進行で飛ばし見してたんですけど、治安度の回復といい民満足度の向上といい、ちょっと目を見張るものがありましたよ。貯蔵物資が駄目にならなかったってのが大きいかな。
再軍備再防衛の流れも芸術的ですねえ。実にいい。ええと……負傷兵は除くとして、兵数は三百二十八人か。軍馬はそれより多くて五百三十頭。よしよし。
軍馬大事。騎兵が鍵ですからね、人間で戦争する時は。
ドラデモの特徴として、種族により上手に扱える武器が限定されるって点があります。守護神の恩恵だか呪縛だかは魔法属性のみならずってことですな。
人間の場合は刃物系で、剣、槍、斧など。ヴァンパイアは鈍器系で、棍、槌、拳など。エルフは弓矢ほぼ一択。これにヴァンパイアの怪力とエルフの魔力とを加味すると、自ずと戦闘方法も限定されていきます。
別に人間だと弓矢を使えないってわけじゃないんですけどね?
エルフ相手に矢射っても、風魔法使われて当たりゃしません。逆に向こうのは最悪ホーミングして射抜いてきます。怖い。ヴァンパイアと金棒で勝負すると地獄絵図になります。子ども相手に力士がガチで張り手してくるイメージ。惨い。
で、騎兵に望みを託すしかないわけです。ヴァンパイアもエルフも馬に嫌われていて乗馬できませんからね。
それにしたって、どれだけ粘れるかって話でしかなく。
人間が負けるのは大前提……だった。過去形語り。
鬼神ありのDX版は……もしかしたら……もしかするかなあ?
◆◆◆
シラ、目が覚めちゃった。ぬくもりが離れちゃったから。
まだ夜明け前。寝台はシラだけ。お父さんの剣は、これだけじゃ、冷たくて硬いばっかり。やっぱりクロイ様がいないと駄目みたい。
外へ出た。いた。すぐ見つかった。
クロイ様。
じっと遠くを見てる。真っ暗な空。あっちは夜明けが隠れてる方だ。なんだかクロイ様みたい。静かな黒の中にあったかな火。見えなくてもわかる、感じる、光。
あ、風。
クロイ様の、夜よりも真っ黒な髪がしっとりと流れた。きれい。魔物の血をたくさん浴びて、吸い取って、一本一本が剣になるのかも。
袋で包んだ剣を、ぎゅって抱いた。クロイ様が帰らせてくれた、お父さんの剣。
神様が、いるんだね。今も近くに。
うん。だからあったかい。お父さんの手のぬくもりが、戻ってきた。ぎゅってしてくれる。頭を撫でてくれる。ほっぺたをぷにぷにするのは、ちょっと嫌だけど、お父さんの癖だからね。
ほら、クロイ様が見てるよ? 変な顔にしないで。笑われちゃうよ。
「シラ」
ああもう、お父さんってば。クロイ様に呼ばれたよ。
「伏せて」
え?
クロイ様が跳んだ。わ、シラの肩を踏んだ? ううん、重くなかったから、きっとお父さんの手を踏んだんだ。
それで、もっと跳んで、星空高くで―――鳥を斬った。
夜なのに、鳥? それとも?
「シラ、灯りを」
クロイ様は斬ったものを見下ろしてる。手の細剣を消さないってことは。
まだ、何か来る? それは敵?
走る。厨房へ駆け込んで、竈へ。灰の中の種火を掘り出して、干し草を乗せて、吹く。強すぎた。落ち着かなきゃ。火を起こさなきゃ。
「シラ、どうしたってんだ」
手品のおじさん、いいところに。
「来て! クロイ様、外、灯りを……!」
「っ! わかった任せろ!」
おじさんは、たいまつだけじゃなく木炭もつかんだ。あれをやる気かも。一緒に外へ。クロイ様のところへ。
「クロイ!」
バチンって音でたいまつが灯った。今のも、おじさんの魔法?
クロイ様は、鳥か何かの死体のところに立ったまま。細剣も持ったまま。どこの誰が、何と戦った剣なんだろう。銀色の蔦草みたいな鍔と柄。
「これは……こいつは!」
たいまつが照らしたものを見て、おじさんが怖い顔をした。
やっぱり鳥。煤に汚れたような色の羽毛。黒いくちばしと脚。白く濁った目。
「忌鷺じゃねえか! 耳長どもの使役する、眷属の!」
「うん。夜の物見」
え? おじさん、耳長って。
それは、エルフのこと。魔法の力の恐ろしい、白い肌の、森の主。
それに、クロイ様、物見って。それって。
「はあ? 何だって、こんな、人間の開拓地に……」
「経過確認、です、かねえ」
小太りの司祭さんだ。慌てて走ってきたのかな。息がムフムフうるさいし、帯も結んでないし。
「エルフが夜に物見する。ムフ、ムフ。ヴァンパイア相手でもなしに。ムッフ。これの意味するところは明々の白々、我々がどれくらいに滅んでいるかを確かめたかったのでしょう」
「そりゃあ……そうか、魔物の……くそ! 耳長め!」
「トロールか群れか、どちらかだけを打ち払っていれば、我々は三日ほど抗って死に果てたでしょう。どちらにも叩き伏せられていたなら、一晩で滅んで、魔物同士の潰し合いがやはり三日ほどは」
「畜生が……随分と徹底的じゃねえか」
「そう、妙に徹底しているのですよ。東の方ではエルフに助けられた開拓地もあると聞きますが」
大人が二人して難しい話をしてる。悪い顔。あれ? 十人も二十人もの兵隊さんが、いつの間にか周りに立ってた。守ってくれてるのかな。
クロイ様は、うつむいている。薄目でじっとして……何かを探してる?
「あっ」
声が出ちゃった。だって、剣が。
お父さんの手が、お父さんの剣を、シラの足元へ突き刺したから。
「どうした! って、おお、お手柄じゃねえか」
「うふ、それもまたエルフの尖兵。本当に徹底していますねえ」
「怪我してねえだろうな、シラ。剣なんて重いだろうに」
剣は、一匹のトカゲを真っ二つにしてた。
水色の鱗で一つ目のトカゲを。冷たい血を流す、その魔物を。