表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/108

05 童女は挨拶する、少女の握る剣に/ドラデモ的信仰について

 ワタシには、もう、生い立ちがない。

 この身も、この名も、大いなる意志により定められてここに在る。



◆◆◆



 シラのお父さんは冒険者。大好きな、大好きな、お父さん。


 でも、隊商の護衛としてでかけたっきりで、もうずっと戻らない。数えきれないくらいの魔物に襲われたんだって、お仕事仲間のおじさんが教えてくれた。そしてそれは戦争のせいなんだってことも。巻き込まれたんだってことも。


 戦争。


 黄色い目のヴァンパイアと、白い耳のエルフとの、終わらない戦い。


 どちらも強いから、魔物を駆り立てて敵へけしかけるんだって。そうやって嫌がらせをするんだって。どちらも魔物なんてへっちゃらだから、少し困らせてやれってくらいの考えでそんなことをして。


 それで、シラは一人ぼっちになっちゃったから。


 だから、開拓地へ働きに出てきて。


 今日、たくさんの魔物の群れが襲ってきて。おじさんはシラを逃がしてくれて。きっともう会えなくて。逃げ込んだ神院も魔物に群がられちゃって。


 ここまでかなって。


 そう、思ったのに。


「皆さん、もう何の心配もいりませんよ」


 小太りの司祭さんは笑顔。いつもの、形だけの、冷え切った眼差しじゃなくて。今まで見たことのなかった、とろけるような本物の嬉しさで。


「さあ、元気な方は弱気な方の手を握ってあげてください。大丈夫。大丈夫。僕らは神の家に集った敬虔なる迷い子。無邪気に信じて頼りましょう。なんとなれば、神はすぐそこまでいらしておられるのですから」


 神様。人間のための神様?


 祈っても、祈っても、お父さんをシラのところへ帰してくれないのに?


 シラは誰にも手を握られたくないし、誰の手も握りたくないから、窓へ寄ってみた。バカみたい。外なんて見たってしかたないのに。お父さんもおじさんも帰ってこない世界なのに。神様なんているわけないのに。


 ねえ、なんで?


 なんで、あんなに魔物が死んでいくんだろう。すごく弱いみたいに。そんなわけないのに。お父さんもおじさんも、食べちゃったくせに。


 あの黒髪の人が、特別に強いの?


 でも、変だ。強いのに。あんなに魔物を殺せるのに。


 どうして、あの人は嬉しそうじゃないんだろう。なんで笑わないんだろう。だからって、大きな声を出したりもしない。怖がっても怒ってもない。すごく真剣。真面目で、熱心で、どこか透き通るような眼差し。


 まるで、祈ってるみたい。


 神様が、そこにいるの?


 だから騎士さんたちも行くの? そうやって、一生懸命に戦うの? すごい勢いだね。いつもよりも強い気がする。魔物をやっつけられてる気がする。それも神様が来ているからなのかな。もしもそうなら、わかるな。シラもお父さんが見ていてくれると、お料理やお洗濯、いつもよりもがんばれるから。


 あ、れ?


 黒い髪の人……誰よりも強い人……いつの間にか剣で戦ってるけど。


 え、なんで?


 その剣……持つところ、汗で滑らないようにって黒い革を巻いた剣……飾りもほしいねって、シラが赤い糸の房をつけた剣……それって。


 お父さんの剣だよ?


 それが、どうして、そこにあるの? どうして、それで、戦ってるの?


 すごい。すごい。お父さんの剣が魔物を斬る。どんどんやっつけてく。そのたびに糸飾りが揺れて、黒髪も舞って、魔物が死んで死んで死んで。


「待て。どこへ行く気だ」


 肩をつかまれた。枯れ木みたいな指。誰だっけ、この怖い顔をしたおじさんは。そうだ、手品を見せてくれるおじさんだ。指先に火を灯すから、そのまま燃えちゃいそうって思ったっけ。


「ここにいろ。魔物は、どこに潜んでるか、わかりゃしねえんだ」


 震えてる。このおじさんは、怯えてるけど。


 自分のためじゃないんだね。誰かのために怖がってるんだ。そういう目だって、シラにはわかるよ。ここへ駆け込んできた時も、怪我した人を背負って、その人よりも青い顔をしてたもの。小っちゃい子の手も引いてたし。


 お父さんに似てるね、おじさんは。


 だから、シラは外へ行かないよ。ここで待つよ。黒髪のあの人が、ここへ来るのを待ってる。お父さんの剣が帰ってくるのを、じっと待ってる。


 それで、ちゃんと言うんだ。


 少しだけおかえりなさい、お父さんって。



◆◆◆



 勝っちゃったんですけど。


 うちのクロイちゃん、大勝利なんですけど。


 凄いなあ……そりゃ≪アセプト・ブレード≫あれば魔物相手くらい無双できるけど。作業ゲーに近いけど。それにしたって防衛成功なんて初めてですわ。はへー。


 ぶっちゃけ、開拓地なんて壊滅前提でしたからね。この戦い。


 だからこそ、ヴァンパイアへの従属を予定していたわけで。


 ちょっとドラデモ的常識の話をすると、エルフとヴァンパイア、基本的には人間を攻めません。戦力的には併呑どころか皆殺しも余裕なんですけど、やらない。


 なんでか。答えは簡単。


 それぞれの守護神様が、そーゆーのを好まないんですな。


 ヴァンパイアプレイでやらかそうとした時には、魔神から神託下りました。なんかゴチャゴチャ叱られましたけど、要約すると「イジメカッコワルイ」という理屈。逆らうと物理的に殺されます。エルフだとダークエルフ化させられて社会的に殺されて、遠からずツミます。祟り怖い。


 そんなわけで、人間の土地は緩衝地帯化するんですけど……抜け道があります。


 魔物を使えばいいんです。


 魔法やら眷属やらで魔物を追い立てて、ぐわーっと襲わせるんです。それで、しっちゃかめっちゃかになったところへ駆けつければオッケー。魔物を追い払って、保護の名目で駐屯すれば作戦完了。強気の善意で属領化待ったなし。


 開拓地は狙い目ですな。防衛力が低いから。


 今回のもまず間違いなくそんなイベントですわ。はてさてどっちが仕掛けてきたのやら。そのうち騎兵隊よろしく名乗り出てくるでしょうけど。


 ま、それはそれとして。


 クロイちゃんってば……何なんでしょうねえ?


 ステータスを見ると職業が「使徒」になってます。はいこれレア職です。守護神に仕えるスーパーエリートのことです。なんてこったい。


 そりゃ≪アセプト・ブレード≫くらい使えますわ。信仰値稼いでけば≪コール≫系や≪サモン≫系もいける最強職だもの。エルフやヴァンパイアだったら爵位とか城とか貰える最高職だもの。どうしてこんなことに。


 鬼神……鬼神かあ。


 それが人間の守護神なんでしょうねえ。


 DX……デラックス版になって実装されたんですかね? 無印はともかく、こっちはやり込んでないから判断ムズイっす。新要素だとして、話題にならないわけないんですけど。


 でも、ま、未知を遊ぶワクワク感がありますね!


 鬼神の使徒の黒髪のクロイ……なんかドキドキしますね!


 なるべく生存する方向でプレイしていくとして、敵軍が来る前にやれることやっときますか。まずはコンパニオン設定。「使徒」なら「従僕」をつけられますからね。信仰値が高いNPCの中から選択ですよ。


 さて、どいつにしようか……ありゃ、イケメン騎士は駄目かー。こいつ鬼神のこと全っ然信仰してないなー。ステータスもスキルもいいのになー。


 お、やたら信仰値高いのが二人いますね。これはおいしい。


 一人は、チビでデブな神官か。うーん、笑顔が胡散臭い。腹黒そう。ステータスはかなりいい感じ。内政や謀略に強い感じの弁舌スキル持ちで……おっほ、何こいつ、ヴァルキ姓とか王族なんですけど。何でこんな最前線にいるのさ。


 もう一人は……はい決定。こっちに決まり。銀髪の小っちゃい女の子とかもう選択の余地なし。


 シラちゃんね。よし、設定完了!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ぅゎょぅι゛ょヵゎぃぃ
ん?今、チビでデブなハゲの神官って言いませんでした?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ