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ゲーム実況による攻略と逆襲の異世界神戦記(アウタラグナ) 作者:かすがまる

第2部

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39/44

39 モノローグ

 クローブとオレンジの濃厚な香り。微かに混じるシナモンのアクセント。

 それらを鼻腔から脳髄へと浸透させていって、ほんの上澄みだけ、紙コップから口に含む。舌に馴染ませるようにして、飲んだ。染み入るような甘さだ。

 気づけば木々を見ていた。目が緑色を求めているものか。

 疲れも、する。

 塵ひとつの落ちた音とて聞こえてきそうな電脳対策室で、たったひとり、地球の命運を左右しかねないミッションに取り組むなど……骨身に堪えて当然だろう。

 ドラゴンデーモンRPG、か。

 正体不明のデベロッパーがベータ版のままに発表したゲームタイトル。アーリーアクセスで資金を調達し、大規模広告戦略に打って出るという強気な販売手法……特に日本において人気を博したようだが。

 とんでもないコンピュータウイルスもあったものだ。

 購入者のパソコンやゲーム機を支配して演算能力を集約したことを手始めに、攻性AIとおぼしき高度高速侵入で主要暗号通貨のネットワークを完全に掌握、ついには対抗した複数のスーパーAIをもハックして影響下においてしまうとは。

 そして、史上最大の演算能力をもって何をするかと思えば……これだ。タブレッドに表示されたファンタジー世界。その大陸地図。

 ゲーム内のMAPと酷似しているが、本質的なところがまるで異なるな。

 あれらはフィクションで、これはノンフィクションなのだから。

 犯行現場であり戦場でもある、これ。

 この世界とは異なるところに実在する世界。すなわち異世界。そんな荒唐無稽な存在へと干渉し、悪魔的な『力』を収奪しようとは……神をも畏れぬ大犯罪行為。

 いや、神を騙った大侵略行為と呼ぶべきか。

 魔神……そう称する何者かめ。

 ヴァンパイアなどという奇怪な外来種を創出し、現地在来種を滅ぼしていくなど言語道断の蛮行だ。その罪深さは筆舌にし難いものがある。ましてや、その最終目的が国際秩序に仇為すものとあっては……我が合衆国が許すはずもない。

 青を見る。国防総省ペンタゴンの中庭から空を仰いで、五角形に区切られた青空の色を。

 白い雲も見える。青と白。美しい。まさにエルフのテーマカラーではないか。

 エルフ。合衆国の総力をもって介入している現地在来種。

 何とも白人的であり、正義を代行させるに相応しい者たち。銃火器と魔法の差こそあれ、射撃戦を主体としている点も極めて都合がいい。容貌も好ましい。

 この者らを統括し教導することが、ミッションを達成するための主要な方法だ。ネットワークを掌握されている現状、他の方法は気休めにすぎない。対抗ウイルスを仕込んだ「デラックス版」なぞ広めたところで、今更何の効果が望めよう。

 恐らく、魔神は東欧のいずこかに潜んでいる。通信ノイズのパターン解析などという地道を極めたアプローチによって得られた情報がそれだ。

 旧共産圏……事と次第によっては恐るべきボタンが押される可能性すらあるが。

 しかし、状況はまずまずだ。

 魔神の戦略を模倣して、大陸の情勢はエルフとヴァンパイアが拮抗するまでに至った。年間を通じてのミッションとなっているが、苦労が報われたというものだ。

 ()()の不安定性もここにきて解決されつつある。ともすれば現地時間で数十年に一度しか介入できなかったことを思えば、このところのやりやすさは感動的ですらある。情報技術部にシャンパンでも振る舞いたい気分だ。

 おっと、グラウンド・ゼロ・カフェにお出ましの彼らはまさに情報技術部の面々ではないか。今は紙コップを掲げて敬意を表わそう。ふふ、もう昼時か。

 この平穏をBGMにして、目下のところの懸念事項を考察してしまおう。

 接続の安定化と時期を同じくして多発する『干渉震』……魔神もまたスムーズに介入できるようになったと考えるべきだろうな。

 小規模部隊の運用で戦線を荒らしてきたことがその証左だ。細かな判断や指示を必要とする軍事行動など、従来には採られなかったものだ。各地にユニークユニットを配置することで急場をしのいだが……。

 それがまさか、ヴァンパイア最強のユニットを撃破することにつながるとは。

 ため息をひとつ。ホットサイダーをもう一口。

 わからないものだ。あちらの悪手ともこちらの好手とも思えないというのに。

 そして、わからないといえば人間……いいや、亜人と呼称するべきものたちだ。大陸南端に細々と生息している土着種。そのうち滅びるものと思っていたが。

 なぜ、北部に兵力を集め始めたのだろうか。

 砦以南のことならば、まだわかる。戦争の余波を恐れての行動と理解もできる。しかし、砦以北の開拓領域にまで軍を進めるとなれば話は別だ。何をしなくとも、それは係争地を刺激することにしかならない。

 まさか、我が軍とヴァンパイアとの戦いに触発されたものだろうか。それで、自らも力を示そうとでもいうのか。なけなしの軍兵を寄せ集めるなどして。

 いや……まさかな。

 観戦するだけで死に絶えそうな種族だ、亜人は。

 強いて気に留めるべきものがあるとすれば、エルフの長老が指摘するところの、種族の秘宝とやらか。エルフにとっての祖霊樹のように、亜人にもまた伝来の何かがある。そしてそれは、魔法の世界をして奇跡とされるほどの事象を引き起こす。

 奇跡、か。

 そんなもの、起こらないからこそ奇跡と言う。起きればただの現象だ。

 この異世界介入戦争などという度し難い現実も、此度ヴァンパイア最強のユニットが失われた結果も、全ては現象の積み重ねにより生じたものにすぎない。原因と経緯がある。それを分析し、対策を立て、最善の処置をとらなければならない。

 そう……この躊躇ためらいと迷いにもまた原因があるのだな。

 認めたくないことではあるが、認めざるをえない。

 恐怖だ。

 攻勢に出ることを、恐れているのだ。震えるほどに。

 ヴァンパイアの三大ユニークユニットの内で最も強力な一個が失われた今こそ、エルフは全面攻撃に出るべきだというのに……そうとわかっているのに……!

 どうした! ベストを尽くせ! 竜神などと崇められておきながら!

 ホットサイダーをひと息に飲み干して。

 紙コップを握り潰し、あのダストシュートへと放って……ああ外れる……いや、風が軌道を修正して……よし! やった!

 情報技術部の歓声へ手で応じつつ、さあ、ひとりきりの仕事場へと向かおう。異世界の戦争を決着させに行こう。全ては国際秩序のために。なかんずく合衆国のために。ひいては世界中の良き人々のために。

 ハンドリムを回す。颯爽と軽快に。

 車椅子用のエレベーターはすぐそこだ。
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