02 ドラデモ的キャラ決定ついて/騎士は回想する、少女との邂逅を
ワタシは何も迷わない。
大いなる存在に救われ、愛され、導かれているから。
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自販機前でどのコーヒーにするか悩む時間が癒し。迷える幸せって、あるよね。
はい、というわけで! いもでんぷんです!
今回の実況は「ドラゴンデーモンRPG・DX」をやっていきたいと思います。
視聴者の皆さんは知ってますかね、このゲーム。オープンワールド形式のアクションRPGで、自由度が高いのはいいんですけど……ぶっちゃけ、マゾゲーです。「剣と魔法の世界で大冒険を」なんて宣伝文句が馬鹿らしくなる鬼畜仕様です。
まず、タイトルに罠あり。
ドラゴンもデーモンもいるにゃいますが、敵として出会ったなら死にます。ぶっ殺されます。ほとんど強制死亡イベントです。
あー、オープニングは素敵ですねぇ。さすがはデラックス版。ゴージャスでハピネスな感じです。イケメンが勝鬨上げたり美少女がニコってしたり。でも嘘。夢も希望もない世界設定ですもん。心折設計ですもん。
ま、そこが面白いんですけどねー。
さて、操作キャラは……すぐ死んじゃうかもですけど、やはり美少女ですよね。とりあえずランダムメイクで……って、あれ?
これ……この子って……。
ま、まあいいや。なんか、すごくいいの来ましたね。これにしちゃいましょう。名前……名前は……クロイでいいか。黒髪だし。
君の名は、クロイ! 君に決めた!
ところで、気づきました? このゲーム、種族と性別と外見しかいじれないんですよ。あとは全部運任せ。なんという博打仕様。「無限の運命が君を待つ」とか、ホントいらん煽りだと思います。
種族は見ての通り、人間です。超絶不人気種族です。まあ、その方がこのゲームの魅力が伝わりやすいかと。絶望の海で溺れ楽しむ的な?
決定ボタンをポチッとな。
さあ、運命の「開始地点ロール」の始まりです。これの結果で能力値やスキルも決まりますから超重要です。生まれでほぼ全部決まるとかホント夢のないゲームですよね。無駄なリアル仕様。余計なお世話ですマジで。
さてさて、何が出るかな……貴族とか高級軍人だと初期ステータスが色々とおいしくて、多少は難易度下がるんですけどね……うっわオワタ。これはオワタ。
奴隷て。よりにもよって奴隷て。
人間で奴隷って文句なしの最劣悪スタートですよ。奴隷の二乗ですよ二乗。だって、人間ってだけで基本的に奴隷みたいなもんですから。ゲーム内で抜群のマゾ度を誇る最弱種族なんですもの、人間。
このゲーム、ドラデモ、世界設定が人間に対してえげつないんです。
大陸の四割はヴァンパイアが支配してて拡張傾向あり。もう四割はエルフが支配してて防衛中。残り二割を人間が支配……というか、緩衝地帯として住まうことを許されてる的な感じなんです。被差別対象の隷属種族ってやつです。ひどい。
そもそも、戦闘力が違うんですよね。生物として。
身体能力としては「エルフ<人間<ヴァンパイア」で、魔法能力としては「ヴァンパイア<人間<エルフ」なんですけど、種族ごとの不思議補正がバランスをブレイクしてます。人間を徹底的に冷遇する方向で。
ま、おいおいその辺の理不尽さをお見せしていければ……って。
読み込み長いなー。どんだけー。
ちなみに奴隷スタートは確定ですけど、何奴隷かっていうのはこれまたランダムだったりします。このゲームは自由度を履き違えてるとこありますからね。
剣闘奴隷だと戦闘スキル取りやすくていいですね。鉱山奴隷でも腕力的に……あ、駄目か、女キャラだとむしろ縛りプレイになるか。他には魔術師の実験奴隷もワンチャン狙えます。前に一度、化け物じみた感じに……あ、読み込み終わった。
農奴かー。うーん。しょっぱいなー。
体力あるけどスキルがなー。魔法も取得条件満たすの絶望的だし。
あ、でも、初期位置が面白いですね。人間の領域の外縁部なんで、割と早い段階でドラデモの醍醐味をご紹介できるかも。魔物に苦労したり、エルフに支配されたり、ヴァンパイアに虐殺されたり……ろくでもないなあ。
よっしゃ、そうならないためにも、序盤は手堅く能力値上げですよ。ミニゲームの連続です。フッフッフ。匠の技術をご照覧あれですよ。
ポチポチーの、ポッチポチっと。
そういえば皆さんって、ゲーム、攻略情報を予習するタイプですか? それとも困った時のヘルプとして利用するタイプ? いもでんぷん的にはですね……おっと日暮れ。ヴァンパイア時間。小屋の中でのお薦めミニゲームはー。
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私が見るに、その少女は変わり者であった。
黒髪黒目で、細身で、無口で、無愛想で……働きものだった。
危険地帯の開拓など懲罰的なものでしかなく、事実、従事しているのは農奴と受刑者ばかり。不安も不満も諦観に塗り潰されて、真面目に鍬を振るものなど皆無であるのにも関わらず。
彼女だけは手を抜かない。懸命に耕す。黙々と働く。誰よりも成果を出す。毎日毎日、飽くことも知らずに。
そんな彼女は、不思議な習慣を持っていた。
重労働の合間の、ごく僅かな自由時間に、それは見られた。
ある時は薪を跳び越すことを繰り返していた。ある時は岩へ小石を投げ続けていた。またある時は桶に張った水を瞬きもせず見つめていた。延々と麦粒を数えていたこともあったな。
細かなものも挙げると十数種類に及ぶそれら奇妙な一心不乱を、順繰りに行っていた。睡眠時間を最低限に切り詰めて。
月の夜、私は問うことにした。
問わずにはいられなくなった。当時の私は他者、特に剣を握らぬ民にはまるで興味がなかったはずなのに、衝き動かされるようだった。あるいは運命に引き寄せられたのかもしれない……今にして思えば。
「お前は、どこから来たのだ?」
「……そこから」
底から。
子売りか、それとも捨て子か。どちらもよくある話でしかなかったが。
「親兄弟は達者なのか」
「いない」
「孤児院育ちか」
「ちがう」
経てきた道程が、窺い知れなかった。星を仰ぐその横顔にはいかなる諦めも窺えず、悲しさも感じず、寂しさも見られなかった。迷いなき決意とでもいうべきものが、双眸の奥で静かに熱を発していた。
「いつも何をしているのだ? 色々と不思議なことをやっているようだが」
「準備」
「……何の?」
「生きるための」
「むしろ、疲れるなり飢えるなり、しそうなものだが」
「そうでもない」
「そ、そうなのか」
「うん」
「ううむ……そうかなぁ?」
話したところで、つかみどころのない少女だった。
彼女は周囲をすげなく拒絶しているように見えもしたが、実際には熱心な奉仕者だった。並ぶ者なき勤労で、揺るぎなき在り様で、隠れなき美貌で、穢れなき振る舞いで、彼女を見る者の心に爽やかなものを残した。
彼女は、あるがままに、彼女であった。
衆目に構わず、何も求めず、常に自分らしく在った。もとより、彼女の目に映る世界は他人のそれとはまるで違っていたのかもしれないが。
つまるところ、彼女は独立していたのだな。この残酷なる世界で、真直ぐに。
で、あればこそ。
いや……で、あれかしと言うべきか。
森から魔物の大群が溢れ出で来たその日、悲鳴と怒号が空に満ちたその時、血肉と臓腑が地に散らかされたその地で……彼女だけが有効に戦えた。逆境に抵抗して勇躍した。彼女は人間の内の抜群だった。
まさに神に愛されていた、彼女は。
彼女の名は……クロイ。
後に「ドラゴンスレイ」と「デーモンキル」のどちらをも成し遂げることになる大英雄の、その記念すべき初陣を。その凄まじさを。
私、アギアス・ウィロウは目撃することとなったのだ。
まさに敗死せんとする、弱き騎士の一人として。