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ゲーム実況による攻略と逆襲の異世界神戦記(アウタラグナ) 作者:かすがまる

第1部

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15 竜侍は失意し狼狽する、吸血の襲撃と衝撃の連続に

 事の終わりに滅ぼされるのを、待ちぼうけるなんて。
 ワタシは認めない。まだ死んでいないだけの、生なんて。


◆◆◆


 なぜだ。どうして、こんなことに。

「ひゃわ、わわわ!」

 おいたわしやサチケル様、か細い御手をお振り回しになって。

「ぜ、ぜったいに、わりゃは子供たちを……!」

 我が身の無力が口惜しい。霊験なる浮鈴クラゲ空鐸マンボの操作使役は誰に代われるものでもない。従僕を務めるこの私とて。

「フレリュウ!」
「はっ、お側に」
「アルクセム、アルクセムに! 怖いの、追っ払うよう……!」

 離れがたい。しかし眷属を配せば、少しの間だけは。

「直ちに!」

 もとより屋上だ。飛ぶ。既に戦端は開かれている。飛行者たちが《風矢》で牽制する先には吸血種どもの汚影。数は百数十といったところか。小勢だ。

 アルクセム二等は……そこか。西の門前、陣容を整えて。

「出陣の前にしばし! 二等!」
「竜侍官か。拝命に来るとは殊勝なことだ」
「何を言っている。殿下からの言葉を申し伝えるぞ。吸血種を、追い払え。殿下はニンゲンに被害が出ることを嫌っておられる」
「そうか。では当軍の指揮官として命ずる。空から支援せよ。以上」

 何だ、それは。

 非常時ゆえに跪かずとも見逃したが、その目その顔その口振り。それが竜帥殿下のご下命を受領する態度だというのか。

「アルクセム二等……!」
「命令不服従か。軍法会議ものだ。しかし功罪相半ばではある。主の功を従が潰す形だがな」
「何を、貴様」
「召喚の御術をもってする演奏は、見事、吸血種どもを誘引した。この位置この時刻だ。実に効果的であったと言えよう」

 こいつは、この男は何を言っている。鼻を鳴らして。

「目立つ魔法だ。上手くすれば次々に吸血種を呼び寄せよう。うむ、そう思えばまだ功が勝るか。当初思い描いた形よりも余程に戦争を望める。殿下が専守防衛の御方というのもいい。戦果は全て私のものだ」

 違う。違う。サチケル様は戦争など望まれておられない。

「……いや、やはり相半ばか。三名六頭のことがあるからな」

 評議会よりこの地へ向かうよう指示され、笑顔をお浮かべになられた。楽しみであると仰られた。ニンゲンの子らと語り合いたいと。叶うならば共に遊びたいと。

「いずれにせよ、邪魔にならなければそれでいい。好餌であれば、それで」

 泣かせてしまったからには、せめてと、精一杯に音楽を奏でられて。

「命令を撤回するぞ、『鷹羽』の。好きなだけ侍り仕事をしていろ。殿下には御心のままにここをお守りいただかねばならん。この、素晴らしい狩場をな」

 そう言い捨てられて、何を言い返すこともできない。

 罵ったところで、どうなる。愚かさを際立たせるだけではないか。サチケル様へ演奏を進言したのは……私なのだから。この男の策を見抜けず、この男に薦められるまま、良かれと思って。

 認識が甘かった。ここまでするのか、前線を駆け回る指揮官というものは。そうまでして戦功を稼ぎたいのか。

 軍が行く。西の門より出でて布陣していく。

 水使いが前衛。風使いが後衛。銀豹は温存して中衛か。多数の利を活かしての長い横陣。石弾を風矢と放水でしのぎつつ、地を濡らしてゆく。戦場を整えていく。展開が早い。練度が高い。アルクセム二等の実力が窺える。

「何だい何だい! それっぽっちなのかい?」

 あれが敵将か。年のいった吸血種の女。大柄で、戦槌を得物にしている。

「景気よく大魔法をぶち上げたんだ! 千でも二千でも兵を出したらどうだい! 吹き溜まりの枯葉でなしに!」

 呵々大笑するそこへ、強風に乗った矢が三本―――全てを片手で鷲づかみとは。

「名乗らず、名乗らせずたあ、見下げ果てた雑兵枝どもだ。興が削がれたね。お前たち、撤収するよ」
「……よく吠えると思えば、逃げ口上だったか」
「おや、今更になってカサカサと何か鳴ったよ?」
「逃げたくば逃げろ。獣に相応しく、どこまでも追い立ててやる」
「はん、名無しの落ち葉が言うもんだ」
「アルクセム二等帥だ。死んで汚獣の王へでも告げろ」
「ベアボウ百牙長だよ。苔生しの巣穴で泣き寝入るんだね」

 戦線が動いた。

 横陣の前面を浸していた水が、大小様々な蛇の群れと化して跳ぶ。襲いかかる。水使いたち渾身の《水蛇》だ。風使いたちの《風矢》も空から地から連射される。統率された一斉魔法射撃。見事な。

 吸血種たちは防ぐよりあるまい。地面から砂煙と共に数十の壁が立ち上がった。《土壁》や《石盾》だ。土使いが多いようだ。

 投石の止んだその隙へと銀豹が馳せる。矢を追う疾走。見事な差配だが。

 敵もさるものだ。壁の内側にいない。防御を目晦ましにして大きく退いていた。しかもそのまま後退し続けるだと? まさか本当に退却するつもりなのか。数の差はあるとはいえ。

 何にせよ、この退き際の良さ。アルクセム二等の舌打ちが聞こえるかのようだ。

「前隊、抜筒。直進して追う。後隊、左右より迂回して牽制せよ」

 水使いが水筒を握った。突撃の姿勢だ。風使いは《滑走》か。地を氷上のごとくに高速走破する魔法。追撃においても半包囲を狙うのか。

「行くぞ。一石とて逃すな」

 軍が先へ行く。西の森は針葉樹が多く勾配も激しそうだが、そこへ至るまでにぶつかるものか。それともなだれ込むか。飛行者が鍵を握るな。

 もしも伏兵のひとつもあったとして……打ち破るだろう。アルクセム二等なら。

 そう見切ってなお、胸騒ぎがする。

 サチケル様の元を離れているせいか。残った兵の少なさゆえか。

 飛び立つ。まずは戻ろう。投石の途絶えた今、既に浮鈴も空鐸も去り消え、渾天は不穏な色に染め淀んでいる。森を焼く赤と、吸血はびこる夜の黒とに。

 視線は、感じない。

 あの、危険極まる、とてつもない視線は。

 あれ以来、何の気配も兆候もない。錯覚だったはずもないが、かかる事態にも無反応では警戒のしようもない。

 異変は、ある。エルフを焼く火魔法と……エルフを斬ったあの少女だ。

 どちらも目撃してなお信じがたい事実だ。実際、アルクセム二等はまるで信じていないどころか、私が兵を処断したと疑う始末。

 やはり、一度評議会へ伺いをたてるべきか。

 サチケル様の安全が確保できていない現状、せめて作戦期間の目安がほしい。護衛として、風使い水使いそれぞれに五名ずつと銀豹を十頭を借り受けているとはいえ、デーモンが相手ともなれば時間稼ぎ以上の何物にもなりはすまい。

 サチケル様はまだ屋上におられる。白虎の御寝椅子に銀豹の御手置き、いかにもおくつろいではあるものの。

「おお、フレリュウ」

 相当にお疲れのご様子だ。それでも御寝所へ戻られない気丈と高潔……どうしてこの尊さを護ろうと思わない、アルクセム二等。

「どうじゃった? アルクセムは、張り切りおったか?」
「……はい。勇躍して早くも敵を追い払いました。今は追う形勢です」
「おお、そうか。それはよかった……よかったのう」

 花のかんばせをほころばせられても、ご心痛ご心労の暗影が色濃くていらっしゃる。慈心の御方であらせられるばかりに。

「戦場の風は肌を刺します。一度階下へお戻りになられてはいかがでしょうか」
「んー?」

 判断せねば。あるいは越権を承知で都へお連れすることも考慮して。

 そもそもこのような所はサチケル様がおわすのに相応しくないのだ。ヒトを愛護されるのならば、別段、ここでなくともよいのだし……。

「わりゃは、も少し、見守ろうと思うのじゃが」
「鷹の目がありますし、アルクセム二等も上手くやるでしょう」

 ……ヒトの子など、他に幾らも生息しているだろう。珍奇とはいえ。

「んーん。わりゃもの、わりゃのできることをしたいんじゃ」
「そうは申されましても……」
「ま、聞け。昔々のことじゃが、神様がな、ゆーとった―――」

 神との対話の内容を! 

 畏まって拝聴せねば。三竜の御方々のみが極稀に授かるという、神の言の葉……エウロゴンド共和国の国是や国策ともなった超越の言論だ。

「―――どぅー、よあ、べすと」

 呪文とは異なる、神秘の文言だ。響きが既にして力を持っているかのよう。

「わりゃへ下された御言葉じゃ。どんな意味かというと……おひゃっ!?」

 耳をつんざく破裂音。この聞き慣れた不快さ。雷魔法。どこからだ。あちらか。南側、恐らくは門の辺り。

 吸血種の別動隊か!
+注意+
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