13 童女は誓約する、揺れる神の影に/ドラデモ的トラブルについて
神は示してくれる。戦技を、戦法を、戦術を、戦略を。
百戦錬磨の凄まじさ……万難を斬り裂く、神の刃そのものだ。
◆◆◆
エルフは、シラたち人間と違う。
真っ白な肌。薄い色の髪は、細くて、風にも水にも溶けてしまいそう。ひらひらした服と編み靴。空を飛んだり、すーって滑るみたいに歩いたりする。
絵物語に出てくる妖精みたいだけど……すごく怖い。
目が、冷たいんだ。氷のよう。
遠くからシラたちを観察していて、微笑んでくる。でも油断しちゃ駄目。弓の弦を鳴らしたり、豹や鷹をけしかけたりして、おどかしてくるから。慌てるシラたちを見て楽しそうに笑うから。
綺麗な石の飾りを放られたことがあった。拾おうとした子を止めたのは、シラ。だって矢がつがえられてたから。あのエルフは本当に射る気だったと思う。
クロイ様は、エルフを見張ってる。
ずっと見てる。魔物を見る時と同じ目で。夜も眠らないで、ずっと。ずっと。今夜も瓦礫の塔の上、夜よりも黒い髪をしっとりと垂らして。
「クロイ様は……エルフが嫌い?」
聞いてみた。聞いておかないといけないって、思ったから。
「ううん」
「人を殺すのに?」
「うん」
「……やっつけたのに?」
「うん」
好き嫌いじゃないのかな、クロイ様が戦う理由って。魔物を倒す時も、すごく真剣な顔をしてたけど、別に憎んでるって感じじゃなかったもん。
「なら……なんで?」
強いから戦うっていうのじゃ、嫌だな。そんなの。
「怒っているから」
「え?」
「だから、戦う」
そんな風には見えない。全然。クロイ様はいつも静かだもん。
「誰を、怒ってるの?」
「世界を」
「世界……この世界?」
「うん。このままにはしておかない」
世界。シラたちが生きる場所。死ぬ場所……殺される場所かもしれないけど。
「どうして?」
「人間がいなくてもいいから」
あ、それって。
「この世界は、人間を必要としていないから」
うん、うん。
「それが、ひどく憤ろしい……ワタシは」
わかる。わかるよ、クロイ様。
お父さんも言ってた。世界はとても薄情だって。だから、どんなに危険でも、戦うことをやめられないって。戦わないと、情けなくて情けなくて堪らないって。
人間には神様がいなくて。
だから何をやっても、弱くて。敵わなくて。何も叶わなくて。
それで、言葉を話す他の種族からは相手にされない。好かれない。嫌われない。無視されるわけでもない。もっと情けなくなるような雑さで……適当に厳しくて適当に優しい……どうでもいいっていう態度なんだ。エルフもヴァンパイアも。
そうか……相手にされないと、誰かを憎むこともできないんだ。
叫び出したくなるような、この思いは……うん……怒りだ。
シラたちもここにいるんだぞっていう、涙が出ちゃうような、大絶叫だ。
「……教えておく」
「はい」
「神は、ずっと側にいてくれるわけじゃない」
「え! え、それは、どういう……」
「神には神の戦いがあるからだと、思う」
神々の戦い……エルフの神とヴァンパイアの神はずっと昔から戦ってるって、司祭さんが話してたな。大変迷惑な取っ組み合いをしてますって。
「エルフの、トカゲの化物と……ヴァンパイアの、コウモリの親玉?」
「……人間の神は、鬼」
「おに?」
「戦の鬼。戦って戦って戦って、今またワタシを導き戦っている、火炎の軍神」
言い切るクロイ様の背に、ゆらゆらと、気配。とてもとても大きな。
座ってる……鎮座してる? 神院に飾られてる絵とか像とかと違って、何本も手があるわけじゃなくて、剣とか槍とかも持ってなくて……不思議な道具に囲まれてて……目を閉じてる。顔はわからないけど、目をつむっているのは、わかる。
神様がいる。シラに見えるこれは、たぶん神様の影でしかないけど。
でも、そこにいる。クロイ様の側にいる。感じるんだ。神様を。
あの目が開かれた時……また戦いが始まるんだ。きっと。
「シラ」
クロイ様の声。神様の力を宿した、綺麗な声。
「いつかワタシが倒れたら……その時は、あなたの番」
込み上げる悲鳴を噛んで殺して、聞く。聞かなきゃいけない。
「備えなさい。全てを懸けて」
うなずいた。命懸けのうなずきだ。
だって、これは誓約だから。神様との約束だから。
だから、ね、お父さん。シラも戦うよ。人間らしく、誇らしく在るために。
◆◆◆
んはっ、寝てた。今寝ちゃってましたよ。でも戦闘なかったからセーフ。
こんな時はコーヒー様だ! いもでんぷんはインスタントがば入れお湯ドバー派です。砂糖もミルクもスプーンも要らぬう。ああ、美味い……神の飲み物だよお。
さてさて、ここらでちょっと開拓地の現状を評価しときましょうか。
んー、まずまず。七十点。
エルフ軍の進駐って割と危険度が高いんですけどね。民満足度急降下の突発イベント多いから。なんていうか、こう、エルフさんってば煽り上手というか差別主義者というか……基本的に無神経なんですよね。やり方が。
いわゆる戦争犯罪は諸々犯されるとして……ドラデモ的リアリティェ……エルフ進駐で多発するのは、住居系のトラブルです。
森で暮らす種族だから、なんですかねぇ?
エルフ、家をオモチャみたく考えてて、すーぐに没収するんですよ。そんで特に意味もなく散らかしたり、記念品漁ったり、弓矢の的にしたり、アートを施したり……全部、人間には野宿を強要しておいてですからねえ。
あと、子供を狙う。レート大丈夫かってくらいに子供を弄ぶんですわ。
エルフキャラでプレイするとわかるんですけど、エルフにとって人間の子供って珍獣なんですよ。エルフ、育児しないから。幼生体の時は完全集団生活だし。
しかも眷属獣の好物がねえ……ラムとマトンじゃないんだから。んもう。
そんなわけで、先だっての戦闘イベントは一応予想していたのでした。別のとこ警戒してたせいで兵士に犠牲出ちゃいましたが。
ぶつかっちゃえば、楽勝なんですよねえ。
エルフの風使い二人に、水使い一人、そして銀豹六匹ねえ……今のクロイちゃんを止めたいのならその十倍でも足らんよー。はっはー。
何せ《アセプト・ブレード》がある上に、近接戦闘に特化させた《火刃》持ちですからね。エルフにとっちゃ、ヴァンパイアの《雷撃》持ち並みに天敵ですわ。あ、どちらも敵の魔法ぶち破る系のスキルです。物理で殴りたい人向け。
ただ、ねえ……こちらも油断大敵だったりします。
ほら、サドンデス子いますから。『鷹羽』のフレリュウが。
あいつ、あのねえちゃん、《アセプト・ホークテイル》って魔法使うんですよ。召喚系の、鷹の尾羽を呼び出すやつを。
んで、それを風魔法で自由自在に飛ばしてきます。要はホーミングするダーツ。しかも無音、無挙動、無限弾数でマルチロックオンあり。更には任意で毒を塗布。凶悪すぎます。どこの可変戦闘機だか超能力者専用兵器だかって話ですよマジで。
暗殺、されたくないなあ……!
主のサチケルちゃんは愛でときゃいいとして、あとはモブ将官かな。注意しとくべきなのは。あの中年エルフ、水の近接系っぽいし。
でもま、エルフは味方ですから。今のところとりあえず多分一応は消極的に。
とにかくも、次は対ヴァンパイア戦です。まず間違いなく襲ってくるんで。人間の開拓地にエルフが居座るのを、へーほーふーんって見過ごす連中じゃないんで。基本的に全員バトルジャンキーだし。人間のことリアルに食材扱いだし。
生き残るとは言いません。ここは勝ち残ってやりますよ。我らがクロイちゃんの《コール》系も間に合いそうですしね。
最大のネックは……直る気配なきシステムエラー。
やばいですよ。なんか中断セーブできないんですけど。高速進行できないよりよっぽど致命的なんですけど。っていうか、今回のプレイ始めてまだ一回も中断してないんで、その、色々と人としてまずい気が!
でもなあ……ここまで来てのデータ削除は嫌だしなあ……ふわーあ。失礼、あくびした……ここは、あれかな。最悪の場合は有給休暇で延長を……。
うーん……『黄金』と『水底』に、一撃ぶちかまさないと……。
…………すぅすぅ……もう食べられない……。