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ゲーム実況による攻略と逆襲の異世界神戦記(アウタラグナ) 作者:かすがまる

第1部

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12 騎士は堪忍し待望する、人間の誇り輝くその時を

 天と地の狭間に、赤く燃える地平がある。
 ワタシは征きたい。そこへ。神の望むままに。


◆◆◆


 エルフの傲岸不遜は、今更に腹を立てるほどのことでもない。

「軍尉、何度も言わせるな。不十分だ。豆と芋と小麦粉、そして牛馬もな」
「何度でも申し上げよう、二等帥殿。我らにはこれ以上を供出する義務がない」

 部下を遠ざけられ、飲食するエルフに囲まれて、もうどれほどの時間を直立不動でいることか。フェリポ司祭の首尾やいかに。

「度し難いことだ。こうも忍耐を試される」

 同意だ。わざわざそうとは示さないが。

「敬意が感じられん。残念なことだ」
「幕舎の設営ばかりか、炊事もお引き受けした。既に十二分な協力を致している」
「エウロゴンドの民に寛容を乞う。ヒトらしいことではあるが」
「バルトリアル条約を遵守し、履行致すのみ」
「古法にして古則。いや、それを口実にした姑息と評そう。恥を知らん」

 四方八方からの嘲笑か。エルフのそれはまるで木々の騒めきのようだな。どこか楽団の音合わせにも似る。音楽に長ける種族ならでは、といったところか。

「……腰に下げているそれは、剣か」
「然り」
「武装したつもりか。それで」

 手を変え品を変え、だな。どうしても私を激昂させたいらしい。

「左様にござる」
「我が軍の弓矢を前にしてはまるで届かず、吸血種の金棒を相手しては容易く折れるものが、頼りか」
「心より」

 執拗だ。苛立っているようにも窺える。

 彼をしてそうさせるものは何か。驕りか、侮りか。焦りか、憤りか。

 いずれにせよ、これは戦いだ。私は攻勢を強める敵中に孤立している。今のところ隙無しの陣構えでいるものの、来援が不確かである現状、居着きの先には引き分けなし。惜敗とて望むべくもなし。

「ご覧になるか」

 であれば、動くべし。後の先をとって。

「……見よう」

 行け。我が剣。我が先鋒。

「ふむ、落とした。重くてな。野蛮な音を立てるものだ」
「百錬鋼の剣なれば、軽々しく扱えず、軽はずみに鳴らず」
「ふん。拾ったのは、いい。だがなぜ汚れを払わない」
「軍人とは戦場の土に枕する者。いわんや武具をや」
「まさに荒野の妄念だな。しかも……うむ……抜けん」
「抜かぬがよろしかろう。白刃は血を呼ぶゆえ」
「斬れるつもりか。エルフを」
「ただ刃の意味を知るのみ」
「斬れるつもりなのだな、ヒトのごときが」

 地へ放られた剣を再び拾う。触れるなり伝わる強情がある。私に似て頑固者のひと振りということだな。

「試してやろう。それが頼るに足る武器か否か」
「試合うには、立場が重く得物が鋭いと存ずる」
「問答無用。臆したとて試す。そう決めた」

 激したように見せて、その目配せの素早さよ。強かな将校だ。

「矢を射かける。応じてみろ」

 言うが早いか弓弦音。正面からにあらず。側面と背後から。空裂の二矢。肩と脚とに先触れの風あり。エルフの弓術は魔術を伴う。致命傷を狙わないそれが、そのままに、これが謀りであることの証左。この者は我らの暴発を望んでいる。

 ゆえに、抜剣一閃。

 高速をもって二矢を斬り払った。

 静かなものだ。種族は違えど武は武、兵は兵。相手の技量を推し量らんとすれば黙り視る。ふ、唾飲む音を隠すか。名も知らぬ弓手よ。恥じることはない。実は私も技の冴えに感じ入っているのだ。自惚れではないぞ。

 加護だ、これは。

 人間が刃を握ることを、神は祝福してくださっている。

「何をしているのか!」

 怒声が空から降ってきた。エルフの飛行者か。

「アルクセム二等! 説明せよ!」
「何を、というほどのことでもない。ヒトが剣を抜いた。私の前でな」
「馬鹿な! それ以前に軍をもって囲い、射掛けたではないか!」
「見ていたのなら説明させるな。竜侍官」
「貴様……殿下のご意志を蔑ろにするつもりか」
「さて。私は糧食を確保しようとしただけだ。職責の範疇でな」

 身内とすら敢えて争う。なるほど。そうまでして場を乱したい……つまりは狼煙を上げたいのだな。この地に闘争を招く、そのために。

 させるものか。この私の目の前でなど。

「誰知らずや行禍原いくまがはら、丘波打つこと嵐の海のごとし……」

 粛々と吟じはじめる。曲目は古の戦歌。剣を手に、舞って。

「南より吹く紫雲の魔風、遥かに仰ぐ天境の峰々……」

 朗々と吟じ、舞いに舞う。合いの手の変わりに剣風を響かせ、鼓の代わりに大地を踏み立てる。ただ聞け。ただ見よ。これもまた戦の作法であるぞ。

「聞けよ千軍万馬の声、槍林原野に影を成し、矢石豪雨と為る……」

 過日、この地は死地であった。未だ戦地ではあるも、生地になりつつある。いや、そればかりか聖地になろうとしているのだ。

 吟じようとも。舞おうとも。武芸を献じる喜びを全身に満たして。

「……強者果てるところ、月影静かなり。一竿の戦旗、漠地へと伏せる」

 音の終わりは、刃が鞘へと潜みきる鍔鳴り。剣帯へと戻して威儀を正す。一礼。

「お粗末。拙き芸なれど、貴軍の武勇威容に敬意を表さんと披露仕ひろうつかまつった」

 ああ、静かだ。静かだから、草葉のこすれるような音が聞こえる。兵卒のささやきにこそ軍の本質がある。

 神妙な驚きと、好奇、関心……といったところか。

 やはり、人間もエルフも、戦う者の純情にはさしたる違いなし。兵とは本質的に素朴で野蛮だ。敵に猛り、敵を恐れ、敵へ挑む。そこが同じであればこそ、戦術が通じる。殺し合えるからこそ、時に、共に戦うこともできよう。

「貴殿は、確か、この地の代表代行だったか」

 来たのは竜侍官の方か。この場だけは、とりあえず治まったということだ。

「開拓軍尉代行、アギアス・ウィロウと申す」
「うむ。見事な武舞であった。叶うならば笛で伴奏をしたかったほどだ」
「光栄にござる。機会あらば」
「そうか。嬉しく思うぞ。しかし、それはそれとして、緊急に話さなければならないことがある」
「居住区で起きた騒ぎについて、ですな」
「そうだ。アルクセム二等、貴官にも同席してもらうぞ」

 幕舎へと招き入れられ、薦められるままに着座する。既にして植物で飾り立てられた内装が、ここが敵地敵中であることを教えている。

「早速だが、報告を頼む。竜侍官」
「うむ。残念ながら両軍に被害が出る形となった」

 フェリポ司祭の到着を待たずに始める、か。竜侍官の方にその意図がなくとも、二等帥の方は違うな。急いでいる。あの男に対して随分と苦手意識を持ったようだ。気持ちはわかるが。

「此度のこと、竜帥殿下は大変にお嘆きだということを告げておく。今も悲しみに臥せっておられる。そもそも事の始まりは……」

 説明する竜侍官の面持ちは、沈痛といっていい。それが犠牲者に対するものかどうかはわからないが。

「……なるほど。それで三人の兵士が犠牲に」

 人間の居住地へエルフの軍が進駐する……もとより無理のある話だ。しかも魔物の襲撃があって混乱しているところへなのだから、むしろこの程度で済んだと評すべきなのかもしれない。人死にが出てなお。

「重ねて言うが、竜帥殿下のご意思によるものではない。むしろ止めようとなさっていた。取り乱されながらも、私へそう指示されたのだから。ただ、その、私には理解しがたい内容で……」

 およそ察せられるものがあるが、言葉には出すまい。エルフにとって人間とは重んずるに値しない存在なのだから。

「待て。三名六匹が全滅だと? 我が軍の者がか?」
「非はこちらにあるぞ、アルクセム二等。進駐地で暴行略奪など」
「その是非など、後だ。殺めたというのか。エルフを、ヒトが」
「……そうだ。私が目撃した」
「信じられるか、そんなこと」

 信じがたいことをするとなれば、脳裏に思い浮かぶのは黒髪の彼女だ。

 クロイ。先ほどは私とフェリポ司祭を遠巻きに見守っていて、街の異変を察するや駆け去った。そして子を救い仇を討ったか。エルフを相手取って。

「……我らは」

 クロイの行動を思えば。それを通して神の意思を推し量れば。

「我らが軍は」

 今、この地の兵権を任された私が為すべきことは……宣告だ。

「人間を守護するために、在る。右の手には刃を、左の手には火を、それぞれに万端準備している。無闇には戦うまい。されど戦うことを厭うまい。我らが軍は炎である。一度燃え広がれば、敵を灰燼と化すまで、猛り狂うことを躊躇わず」

 エルフとヴァンパイア。人間に理不尽を強いる二つの脅威。

 どちらに対しても、人間は力を具体的に示す必要がある。そうしなければ拓けない未来があり、その未来のためにこそ身命を費やしたいのだ。私は。

 だから今は……押して忍ぼう。忍ぶれど押しもして。

 譲れない一線を明らかにし、人間の誇りをいたずらに損なわせず―――

「光輝ける貴軍におかれては、ゆめゆめ、忘れなきよう」

 ―――機会が巡り来ることを、待ち望んでいようとも。
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