10 ドラデモ的エルフについて/竜侍は警戒する、未知の地の危険を
時に、身を委ねる。神の御心のままに。
時に、命を懸ける。神の御心に叶わんとして。
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大作RPGでRTAする人って、もうある種の哲学者だと思う。悟ってるもの。
えー、はい、いもでんぷんです。ちょっとトラブってます。
高速進行モードがですね、できなくなっちゃってて……うーん……イベント続いてますから問題ないっちゃないんですけども、睡眠スキップすらできないとか。
なぜゆえ? クロイちゃんの寝顔観察実況でもやれと?
まあ、それは冗談として。こんなトラブルも実況の醍醐味ですわ。醍醐ってチーズ? ヨーグルト? まあ、いいけど……元気だったらぶっ通しで能力値上げで、挫けたら観戦モード放置になると思われ。し、仕事あるし。
ところでさてさて、面白な展開になってきましたね。
衝撃の謎展開でもあるんですけどね……やっぱバグってんのかな、これ……。
ええとっと。マッチポンプな犯人はエルフだったわけですが、火消しな騎兵隊はエルフ六百人、眷属四百匹、計一千兵力でした。これってばエルフでヴァンパイア相手に不正規戦やるときの編成だったりします。
手頃な数なんですよね。隠れやすいし、襲いやすいし、逃げやすい。
開拓地マッチポンプからの応用として、壊滅した開拓地を調査に来させて殲滅するってのもありますからね。一千兵力あれば百や二百は封殺できるし。
とーころがどっこいしょ。
ホワイ? ホワッツ? なんでどうして使徒がまじってんのさ。場違いじゃん。いやまあクロイちゃんも使徒だけど。自領か他領かの違いは大きいわけで。
だって、使徒ってば最強職です。各種族の切り札ですからね?
普通、エルフに三人とヴァンパイアに三人います。枠が決まってるんで、それ以上は増えません。両勢力が拮抗する要因の一つですな。デラックスでスペシャルな今プレイでは、人間族にも一人素敵な子がいますけど……それにしたって。
しかもなことに、謎の登場をかましたエルフ使徒ってば。
サチケルちゃん! サチケルちゃんじゃないか!
エルフ側三使徒の紅一点にして唯一のロリ使徒! 公式サイト人気投票第二位のキャラですよ!
まあ、ステータス的には全使徒中最弱で、召喚魔法も≪コール≫系までしか使えませんけどね。でも、対デーモン戦では欠くことのできないキャラなのです。いわゆる防御特化型なので。
こんなところで会えるとはなあ……いよいよ何でだろ?
っていうか、従僕はどこだ? あの恐ろしいねーちゃんは……いた。そこか。白マントでカモフラージュして上空とか、さすがはエルフ随一の飛行者ですわ。
『鷹羽』のフレリュウ。
『万鐘』のサチケルの従僕にして、多くのプレイヤーに「気づいたらゲームオーバーになってたんですけど」を体験させた女。俗称サドンデス子。
ああも索敵警戒してるってことは、この謎イベント、局地戦か何かに発展していくのかもです。そのための戦力としてってことなら、まあ、サチケルちゃんがいるのも納得でき……ないなあ。サチケルちゃんだしなあ。
まさか大物が出てくる?
デーモンはないとして……ヴァンパイアの使徒とか?
いやないわー。さすがにそこまでいくと人間涙目ですわ。あって精々が中規模戦のはず。願望。で、エルフから仕掛けるのか、ヴァンパイアが襲ってくるのか……どっちにしても開拓地へのコラテラルダメージ待ったなし。やっぱり人間涙目。
おっと、エルフ軍が開拓地へ入りますね。割と整然とした感じですが、力関係的にトラブル不可避。昨晩、偵察用眷属をプチってもいることだし。
さーて、先回りして対処しますよ!
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見られた。
今、何かが私を見た。視線が、この身を矢のように貫いた……いいえ、穿った。透明無音の恐るべき槍のようにして。
高度を下げよう。慎重に。風を編み込んで。
揺るがずの大地に降り立つと、はっきりとわかる。身体が震えている。こんなことは初めてだ。デーモンと戦った時ですら、私は誇り高く在れたのに。
危険だ、ここは。
ここには、何かとてつもない危険が潜伏している。
吸血種ではない。夜に巣食うあの者らは、日満つりの空に対してひどく無力だ。今であれば、たとえ使徒であっても恐るるには足らない。
危険……やはりデーモンにまつわる何かだろうか。
だとすれば、この土地自体に何か秘密があるのかもしれない。この頃になってヒトが住みつきはじめたという土地だ。地下に何が埋まっているとも知れず、闇に何が溶け込んでいるともわからない。
そう、たとえば……旧世代の戦争で封印された古デーモンであるとか。伝説多き不死王の呪いであるとか。それならば評議会の緊急決定にも合点がゆく。
すぐにも、サチケル様のお側に侍らなければ。
そして警戒を厳に。昼にも月無き夜のようにして。
「どこへ行く、竜侍官。持ち場を離れて」
「く、アルクセム二等」
「雲間に潜み吸血どもに備える。それが貴官の役割だろう」
面倒な。さては監視されていたか。
「私の職責は竜帥殿下の身辺警護にある。まかり通るぞ」
「不許可だ。現状、いかなる脅威も確認されていない。持ち場に戻るべし」
「脅威……何かが起こってからでは!」
「不明瞭な発言はするな。格を下げるぞ、『鷹羽』の」
こいつ。融通の利かなさは織り込み済みだが、物言いに明らかな険があるぞ。
確かに不本意ではあろう。今回の出兵、本来であれば吸血種の誘引殲滅作戦であり、彼はその力量才覚を存分に振るえるはずだった。二等帥にとっては喉から手が出るほどに望んだ機会であったろうが。
「忘れるな。本作戦における指揮権は当官にある。竜侍官といえど従ってもらう」
未練がましい正論だ。
評議会は、本作戦を威力偵察任務と改めた。彼が手塩にかけたのだろう部隊は、今やサチケル様の護衛かつ安全確保のための捨て駒でしかない。
「飛べ。そして吸血どもの早期発見に務めよ」
「……殿下はその建物だな」
「復唱せずか、ならば」
「知れ。あるいは確かめよ。殿下の安全は、貴官らの身命名誉その他全ての合算よりも貴く、重い。これ以上邪魔立てすれば我が二つ名に懸けて排除するぞ」
ここで退け。アルクセム二等。主流によって脇へやられる無念には同情するが、それを堪忍してこその誇りだろう。
お前は水使い。腰の水筒へと手を伸ばせば……よし。それでいい。
「……二階の奥だ」
「感謝する」
あの態度。あの足音。もう少し冷静な男かと思っていたが、存外に激しい。それほど今回に賭けていたということか。
……危ういな。やはり、サチケル様から離れるべきではない。
警戒警備はまずまず。街路に居並ぶ兵員、屋根に配された風鷹、瓦礫に潜むカエルとトカゲ、屋内に伏せる銀豹……隙はない。
さりとて所詮はヒトの手による建造物。塗り物の壁では気休めにしかならない。
「おりょ? フレリュウ、戻ったのか」
「は、サチケル様のお側にて相勤めたく……あの、何をしておいで?」
なんという愛おしさ。
部屋の奥、窓にへばりついていらっしゃる様はまるで雨ガエルのよう。
「うんむ。人間をな、見ておるのよ」
「ニンゲン……ヒトをですか」
「ちょうどな、うんまいことに童らの集まりが見えるのよ。五人六人とおるおる」
手招かれるまま、窓辺へ。なるほど井戸端が見下ろせる。ヒトの子が数頭群れているようだ。
「桶に水を張っていますね」
「ぐふふ、ありゃ遊んどるのよ。水遊びじゃ。わりゃも好きだからわかる」
あれは、風に触れず土より浸み出でた水。すなわち、我らの魔法に適した水にあらず。拠点に不向きな土地だが。
「んん? なんじゃ、あやつら。獣らをつれて」
「ああ、あれは銀豹の水やりと―――」
補給は何とでもなりそうだ。牛馬が散逸せずに囲われているし。
「―――餌やりでしょう」
獣らの好物である、ヒトの子も多く残っているのだから。