女王の毒殺
「ロドム=エーリッヒ。もし妾を楽しませることができなければどうなるか、分かっているだろうな?」
俺は王宮の中庭にいた。よく手入れをされた花が飾られているバラ園だ。
個人的には甘ったるい香りが漂っておりどうも虫の好く場所ではない。
西洋風の建築であれば当然であるのだろうか、バラ園の中心に小さな屋根の付いた日よけ用の小屋みたいなものがある。そこの日蔭で女王は座っていた。俺は当然その小屋の外でカンカン照りの中かしづいていた。おれは心の中で思う。
『王宮からの追放なら万々歳なんだが……』
出したお菓子がまずかったくらいでは処刑はされないだろうと、いうのも都合がよすぎる考えであるというのが悲しい。
だって前の世界にいた時、『痴漢』をした人間が『死刑』判決を受けた例があるのを思い出してしまったんだもん。
しかも陪審員をした小学生のコメントに笑ってしまった。
『みんなが何言っているか分からなかったから、とりあえず死刑にしてみた』
もちろんこの判決は控訴され、しっかりと妥当な量刑が言い渡される事になる。
「必ず女王の心を取り込んでみせましょう」
そう言った俺。そうとしか言えない。
それにおれの頭の中は女王を喜ばせられなかったらどんな量刑が科せられるか、という不安でいっぱいだ。
もしかしたら即絞首刑なんて事にもなりかねない。
俺はシィがソフトクリームを持ってくるのを待った。何度も味見をした。味見をしたシィとフェリエは美味しいと言っていた。たぶん大丈夫だ。
シィは俺の後ろからソフトをもって現れる。
シィはいったいどこで王宮マナーを覚えたんだろうか、どこかの女官のように一度礼をしてから女王の前に向けて歩いて行く。俺もマナーは父からしっかりと学んでいたのだがここまでの大舞台となると知識はない。この年で王宮で使える事になるとは思っていなかったのだ。
とにかく言われるまで顔を上げなければいい。
俺が父から聞いたのはこの作法だけだった。
「冷たいのでお早目にお召し上がりください」
俺はそう頭を下げながら言う。面を上げなさいの言葉がないため、ずっと地面を見つめたままだった。
そう考えている俺の耳にある声が聞こえてきた。
「女王よ。このバラをあなたに捧げます」
その言葉を聞いて俺はふとある事を思い出した。
バラの花びらに毒を塗っておいた。女がいる。
愛人との会食の時そのバラを愛人の飲もうとする酒に浮かべたのだ。何も気づいていない愛人、その酒を飲もうとするのを女は手で止めた。
その酒を侍女にのませると侍女は泡を吹いて絶命をしたのだ。
その事によって毒を盛った本人は『自分はあなたをいつでも殺せる。だけ今殺さないのはあなたを愛しているから』だという事を伝えたかったのだとか言われる。
その昔の逸話だ。
俺が顔を上げるとソフトクリームに一枚のバラの花びらがさしてあったのだ。
『これはもしかすると』
俺はその勘に賭けた。
「女王お召し上がりはお待ちください」
俺は女王の断りもなしに顔を上げた。ズカズカと女王の前に歩いて行く。
「何だ! 女王に対して無礼であるぞ!」
俺は女王の後ろにいた男がそう言うのも聞かずに前に進み出ていった。俺はその男の声を聞き、バラの花びらを刺したのはこの男であると確信した。
「お前。このバラの花びらを舐めてみろ」
俺はその男に向けて言う。
「なんだ。その事に何の意味がある?」
男は言う。女王は何が何だかわからないといった感じで顔をきょろきょろさせていた。
「ロドム=エーリッヒ。これは一体?」
俺は女王に言われて言う。その男に向けて言うつもりで言ったのでかなり乱暴な言い方になった。
「お前がこのバラに毒を仕込んでいるのではないか、と言っているんだ」
その言葉を聞きその男はニコリと笑った。
「それはいくらなんでも言いがかりですね……」
その笑顔は何を意味していたのか分からなかったが、内心ゾッとした。その笑顔の裏には何か深い闇が潜んでいるように感じたのだ。
「まったく女王。こんないいがかりを受けるなんて私は心外ですよ」
「妾が信頼を置くエッセルにそんな言いがかりをつけるとは。お前は命が惜しく無いようだな」
そんな事を言われてしまった。こりゃ、もし俺の勘違いだったら俺のワームホールでどこか知らない土地に逃げるしかなくなったな。
困った困った。とはいうがそれはそれで、この王宮から離れることもできるのでアリといえばアリだ。
「エッセル。お前舐めてみろ。この小僧に言いがかりをつけられたままでは、納得がいかん」
女王がそう言い花びらをソフトから取ってそのエッセルという男に渡した。
「はい陛下」
エッセルというその男はすぐにそのバラの花びらを口に含んだ。
『やっべぇ。勘がはずれた』
俺は密かにワームホールの準備をした。この場にいるシィだけは連れていきたい。だってここに残ったらシィは確実に殺されるしこの場にはいないフェリエも拾って脱出をしないといけない。
俺にはシィとフェリエを見殺しにする気はない。
俺の属性って本当に『闇』だったんだろうか? こんな時に自分の命を優先できないなんてな……冷たく慈悲もない闇属性を使う人間の考えではないな……
「ロドム=エーリッヒ……これで満足か?」
女王が勝ち誇った顔をして言う。エッセルのバラの花びらに毒なんて塗られていなかったのだ。そう俺は思った。
『あかんこれ。早く脱出しないと』
俺はそう思いシィのいる場所にまで走った。
「シィ! 二人で逃げよう!」
そう言い俺はシィと一緒にワームホールに飛び込んだ。
「お待ちください! ロドム様!」
そう言うシィだが俺は無視してワームホールの中に入っていく。俺は後ろなんて一度も振り返らずに先に走っていった。
「ロドム様! いったい何があったのですか!」
俺の部屋にワームホールで戻るとそこにフェリエがいた。
「俺処刑されそうになったんだ。逃げるよ!」
そう短く言う。普通ならもっと説明を求めたいだろうがフェリエはそれだけの言葉で理解してくれた。俺はワームホールを使ってこの王宮から逃げ出していった。
「ロドム様。ここまでくれば、説明をしてくださいますよね?」
王宮からかなり離れた場所にある森の中に到着した。木が鬱蒼と生い茂り足元に日の光はほとんど届かない場所だ。
そこでフェリエは言い出したのだ。
「そうですよ。私の話を先に聞いてもらっていいですか?」
シィは言い出す。
「エッセルという男は死にましたよ」
「はい?」
俺はシィのその言葉に唖然とした。
「だって、自分からバラの花を口に……」
「そうです。バラの花びらを舐めて死んだんです」
シィの言葉に俺はまた唖然とする。もしそのとおりならまったく逃げる必要がなかった。