望まない褒章
俺が王宮に戻るとすぐに父と鉢合わせになった。
「別に門から戻ることもないだろう? お前の魔法を使って戻ればいいのに」
父はそう言う。
俺が女王の毒殺を阻止したのだ。門なんていちいち通らないで勝手に戻ってくればいい。というのが父の考えだが一つや二つ手柄を立てたところで、そこまで調子に乗るのもどうかと思う。
『いやまて。こういう考えがいけないのか?』
俺はあれから謁見室にまで招かれた。相変わらず赤いきれいな絨毯に壁の彫刻などがある荘厳な見た目の部屋だ。
俺は女王に向けて傅き、シィは俺の後ろで一緒になってかしずいていた。
今、俺は女王の言葉を待っているところだ。
「エーリッヒの言うようになかなか御しにくいやつのようだな。たかが十歳の身で完璧な軍人になれというのも無茶な話か」
女王は言う。俺はその言葉よりも、今回の事でどのような判断が下されるかが気になっていた。
女王の暗殺を防いだはいいが無礼な事を言ったり、いきなり逃げ出してこの国に対する忠誠心に欠いた行動もとった、と言った感じにとられることもありええる
ただ単純に褒章を期待していいという状況でもない。
「素直に胸を張ればいいんですよ。この状況で処分なんて下されるわけもないです」
俺の後ろで一緒に傅いているシィは言う。
つっても、それはシィが決めることではない。女王のカンにさわるような事でもあれば、シィの甘い考えなんてまったく無になるのだ。
「今回の件。大儀であった。褒美を取らせよう」
女王の言葉に「ほら考えすぎです」とシィが言う。
まてまて、そう考えるのは気が早いぞ……褒章とは言うが、どんな厄介ごとを任されるかもしれん。褒美が金貨なら万々歳だが、父が女王についているからには、俺の喜ぶような『褒章』は与えられないはずだ。
「もう、勝手に心配していなさい」
シィは呆れ果てていると言った感じだ。
しかし、シィの考えは俺から見れば甘すぎる。向こうにはなんていっても父が付いているのだ。重ねて考えるが、父は俺が喜ぶことはしない……
「エーリッヒ。おぬしに我が国最高騎士の身分をやろうと思う」
出世か。まあ、そういうところだろうな。
「はっ。ありがたき幸せ」
とりあえずそう言った俺。横で小さく「ふっ」と笑う声が聞こえた。この声は完全に父だ。おそらく『本当は金貨でも欲しがっているんだろうけどな』とでも考えて含み笑いが漏れてしまったのだろう。
「ネリフス。出てこい」
女王がそう言うと、ウエディングドレス姿のネリフスが玉座の後ろから出てきた。
「げっ!」
俺はこの状況を理解してそうつい口から言葉が漏れた。
「くくくくく」
また俺の事を笑う声が聞こえてくる。これ笑っているのは完全に父だ! 絶対この状況も父が考えて作った状況だ!
俺は父に恨みを感じながらも女王の次の言葉を待った。
「く。ふふふふ」
ちょっとまて。俺の後ろからも笑い声が聞こえてくるぞ。これ完璧にシィだ。この状況で笑っているのかよ!
この状況で女王も「ふっ」と笑った。これはこの状況を面白がっているというよりは、俺から一本を取って愉快な気分になっているという感じの笑い方だ。
俺はずっと頭を下げながら周囲で俺の事を鼻で笑う奴らの楽し気な笑いを聞いていた。
「おもてを上げい」
女王に言われて俺が頭を上げると、とてつもなく不満そうな顔をしたネリフスがいた。
『なぜ、私がこんな男に元に嫁がなくてはいけないのだ……』
と心の底から思っているのが分かる。
「私には許嫁が」
「ならばおぬしにだけは、一夫多妻をゆるそうではないか」
俺が絞るようにした言った言葉に、女王は先に用意していたようにして即答をした。
っていうか、完全に今の言葉は用意をしていたな。これも父の入れ知恵だろう。父の方を見ると真面目な顔をしているつもりなのだろうが口元がニヤついている。
イラッとくる
「ネリフス様はこの事に同意をされて」
「確かに多いに不満があるようだったな。だがこれも女に産まれた者の定めだ」
またも、すでに用意をしていたような即答が返ってくる。
これは周囲から見れば最上級の褒章だ。
ネリフスは騎士の中でも一番位の高い騎士。
しかも昔から女王と一緒にいて、女王への顔をつなぐことができる。
高い貴族としての地位と女王へのパイプの二つを手に入れることができるのだ。これを喉から手が出るほど欲しがっている者もいるだろう。
ネリフスは俺の前に歩いてきた。俺のすぐ前に立つと俺の頭を掴んだ。
そして、おもむろにキスをしてきたのだ。
女王はそれを見て満足げにしていたし、父はわざとらしいくらいに大げさな拍手をした。
女王は周囲に向けて言う。
「何をしておる! 皆も二人を祝福せぬか!」
そう言われ、謁見室にいる兵士や女官たちが慌てて拍手を始める。
この一斉の喝采の中後ろからは紙にペンを走らせる音が聞こえてくる。
シィが、ネリフスと俺がキスをした事をメモっているのだろう。そんな事をこの場にいないフェリエにでも教えられたら完全に修羅場である。俺は殺されるかもしれない。
『調子に乗るなよ。隙あらば殺すからな』
ネリフスも小声でそんな事を言ってくる。調子に乗ってないんですけど。
何? この四面楚歌?
女王の命を助けたのだというのに、これでは褒章どころかペナルティを与えられているのと同じだ。
俺達の事を祝福する拍手の中で俺一人だけが取り残されているような気分になってきた。




