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愛する人と、幸せになること ~前世で死んだ私を、彼だけが覚えていた~  作者: rara
第1章 地獄の果てで、出逢ってしまった
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⑦

葬儀の後。


人の気配が少しずつ遠のいていく中で、私はまだその場に立ち尽くしていた。

足元が、どこか現実ではないみたいに頼りない。


黒い衣装の波が引いた後の空間は、やけに広くて、やけに静かだった。


——もう終わったのだと。


そう理解しているのに、何も実感が湧かなかった。



一人の臣下が、静かに歩み寄ってくる。

足音を殺すような、慎重な動きだった。


私の前で立ち止まり、恭しく差し出されたのは、小さな箱。


「ソラ様が、ルーナ様の誕生日に渡そうとしていたものです。」


その言葉だけで、胸の奥がひどく軋んだ。

私は震える指で、箱を受け取る。




そっと、蓋を開ける。

中には、エメラルドのネックレス。

深い緑が、静かに光を宿していた。


まるで、息を潜めるように。

主を失ったことを、知っているかのように。



「結婚式の日を、心から楽しみにしておられました。」


一瞬、言葉が途切れる。

その沈黙が、何よりも雄弁だった。


「——本当に、愛しておられました。」



「ソラ……」


名前を呼んだだけで、喉が詰まる。

声にならない。


「どうして……」


頭のどこかで、冷静な自分が問いかける。


どうして、こんなにもあっけなく。

こんなにも、簡単に。


「死んでしまったの……。」



涙が、落ちる。

ぽたり、と。


音がやけに大きく響く。

止めようとしても、止まらない。


まるで、自分のものではないみたいに。



——誕生日、おめでとうって。

ソラに言ってほしかった。



そんな場違いな考えが、ふと浮かぶ。


その瞬間、自分でも信じられなくて。

余計に、涙が溢れた。



膝から力が抜ける。

そのまま、私は崩れ落ちた。

ネックレスを、胸に抱きしめたまま。


壊れ物のように、強く、強く。

そうしないと、何かが完全に崩れてしまいそうだった。




「可哀想な、ルーナ。」


頭上から落ちてきた声に、身体が強張る。

ぞくり、と背筋を冷たいものが這い上がった。


この声を、私は知っている。

——嫌というほど。



ゆっくりと、顔を上げる。

視界に映ったのはー黒い影。

光を遮るように立つ、その存在。


ージョセフだった。



「また、大切な人が死んじゃったのか。」


愉しむような声音。

まるで、他人事のように軽い。


「結婚する前で良かったな。」


一歩、近づく。


「傷物になる前で。」


口元が、ゆっくりと歪む。


「さて——次は誰と結婚する?」




——同じだ。何も変わらない

この男は。

あの時と。


サラが壊されたーあの時と。



私は何も言わなかった。

言えなかったのではない。

言う価値すら、感じなかった。



ただ、見つめる。

感情の抜け落ちた目で。

空っぽのまま。



「なんだよ、その目。」


苛立ちが滲む。

そして——じっと、私を観察するように見つめる。


「あれ……」


ゆっくりと、笑みが深まる。


「金髪に、アイスブルーの瞳——」


一歩、距離が詰まる。

靴音が、やけに近くで響いた。


「随分、サラに似てきたな。」



その瞬間ー空気が変わった。



視線の質が、明らかに変わる。

先ほどまでの“人を見る目”ではない。


舐めるようなーまとわりつくような。

侵食してくる視線。



ぞわり、と。

背筋に冷たいものが走る。


皮膚の内側を、何かが這い回るような不快感。


息が、浅くなる。



——触られる。


そう思っただけで、身体が強張る。


逃げなければーけれど、動けない。


足先が床に縫い付けられたように、動かなかった。



「……私たちは、兄妹でしょう。」


震える声。

それでも、絞り出す。

最後の、抵抗。


ジョセフは、楽しそうに笑った。

否定も、肯定もせず。

ただ——愉しむように。



そして。

ゆっくりと身を屈め、私の耳元へ顔を寄せる。


距離が、近い。

息がかかる。


それだけで、吐き気が込み上げた。



「あれ、言ってなかったっけ?」


囁き。

甘い声色。

だからこそ、歪んでいる。



「お前の父親は——死んだ伯爵じゃないんだよ。」


思考が、止まる。

音が消える。

何も、聞こえない。


ただ一つ。


——逃げなければ。



その一念だけが、異様なほど鮮明に浮かび上がった。

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