↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛する人と、幸せになること ~前世で死んだ私を、彼だけが覚えていた~  作者: rara
第1章 地獄の果てで、出逢ってしまった
PR
6/55

⑤

その悪夢のような日々から、六年が過ぎた。


ウェルは、あの出来事の後まもなくジョセフによって解雇された。

理由は知らされなかったが、考えるまでもなかった。


私はサラと、わずかなメイドたちと共に、離れで暮らし続けた。


サラはあれから半年ほどかけて、ようやく部屋の外へ出られるようになった。

けれど完全に回復したわけではなかった。


夜になると、今でも錯乱し、叫び声を上げることがある。


そして——


私に対する執着は、異常なほど強くなっていった。


決して離れから出さない。

一歩外へ踏み出そうとするだけで、激しく取り乱す。


過干渉と呼ぶには、あまりにも重い束縛。




時折、心が擦り切れそうになることがあった。


この家から——

母から——


逃げ出したい、と。



そんな私を救ってくれたのは、一人の存在だった。


「ルーナ、会えて嬉しいよ。」


やわらかな笑みとともに現れる、婚約者——ソラ。


侯爵家の嫡男である彼は、私より十も年上だった。


学業や家の仕事で忙しいはずなのに、それでも時間を作り、週に一度は必ず会いに来てくれる。


ソラは優しかった。


どんな愚痴も、どんな小さな不満も、最後まで静かに聞いてくれる。


幼すぎる婚約者を、面倒だと思うこともなく、大切に扱ってくれる人だった。


彼の存在だけが——

私にとっての、唯一の希望だった。


結婚できるその日が、ただただ待ち遠しかった。




七歳になった頃。


私はソラに連れられ、社交パーティーへ出ることを許された。


もちろん、それは兄の許可のもとで。


貴族同士の腹の探り合い。

笑顔の裏に隠された思惑。


パーティーそのものは、決して楽しいものではなかった。


けれど——

馬車に揺られ、屋敷の外へ出る時間だけは。


私にとって、唯一の救いだった。



しかし。


私が外へ出るようになってから、サラの様子は明らかに悪化していった。


再び部屋に閉じこもる日が増え、

顔を見ることすら難しくなっていく。


嫌な予感は、ずっと胸の奥にあった。




そして——

夏の終わり。


再び、悪夢は訪れた。



社交会からの帰り。


屋敷へと戻った私の目に飛び込んできたのは——

炎だった。


離れが、燃えていた。


夜空を赤く染めるほどの火の手。

爆ぜる音と、焼ける匂い。


「お母様……お母様は?」


私は我を失い、炎の中へ駆け出そうとした。


その身体を、後ろから強く抱き止められるーソラだった。


「だめだ、ルーナ!」


必死な声。


振りほどこうとしても、びくともしない腕。


鼻を刺す、肉の焼けるような匂い。

視界が揺れ、意識が遠のきそうになる。



その時。

近くで、声がした。


聞き覚えのあるメイドの声。


「死ぬかと思いました……奥様が、離れに火を付けたんです。」




——やはり。

心のどこかで、分かっていた。

それでも。


現実として突きつけられた瞬間、世界が暗転する。



「ルーナ、ルーナ!」


呼びかける声が遠い。


呼吸が乱れる。

立っていられない。


私はその場に崩れ落ち、意識を手放した。




目を覚ましたのは、数日後だった。


見慣れない天井——いや、本邸の部屋。


ひとりだったーソラの姿はない。


静けさだけが、重くのしかかる。




医者の診察が終わり、入れ替わるように現れたのは——ジョセフだった。


「ふっ。命拾いしたな。」


間近で見るのは、これが初めてだった。


整った顔立ち。

だがそこにあるのは、人の温度ではない。


「サラは死んだよ。お前が巻き添えにならなくて、本当に良かった。」


一拍置いて——


「お前は、私の大事な道具なんだから。」


軽く笑う。


あまりにも、不謹慎で。

あまりにも、自然に。


胸の奥が、冷え切っていく。


私は唇を噛み、拳を強く握りしめながら、ジョセフを睨みつけた。


だが彼は気にも留めない。


そして、最後に——

信じられない言葉を残した。


「お前の母親は、二度も私の子を殺した罪深い女だ。」


扉に手をかけながら、振り返る。


「そんな女から生まれたお前が、幸せになれると思うなよ?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。