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愛する人と、幸せになること ~前世で死んだ私を、彼だけが覚えていた~  作者: rara
第5章 守りたかったもの、守れなかったもの
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⑦

あれから一週間が過ぎた。


王も、王妃も、友人たちも――そして私も。


入れ替わるように、何度もキースのもとを訪れていた。


しかし、そのたびに突きつけられるのは、変わらない現実だった。



彼は一度も、目を覚まさない。


わずかに上下する胸だけが、時間が止まっていないことを示している。


それ以外は、何も。

何ひとつ、変わらなかった。


私は、ほとんど眠れていなかった。


夜が来ても、目を閉じることができない。

閉じれば、あの瞬間が蘇るからだ。


倒れたキースの姿。

血の匂い。

遠のいていく意識。


そのすべてが、瞼の裏に焼き付いて離れない。


身体は限界に近いはずなのに、


それでも、彼の傍を離れることだけはできなかった。



ロイは何度も私に声をかけた。


休むようにと。

せめて部屋に戻るようにと。


けれど私は、首を横に振るだけだった。


大切な親友を失うかもしれない恐怖。


それだけでも十分なはずなのに。


その上で――姉まで失うかもしれない。


そんな不安を、ロイは隠しきれていなかった。


それでも、私はキースの手を離さなかった。



「……キース様……」


彼の名を呼ぶ。


ひび割れた声が、静かな部屋に落ちる。


返事はない。


呼吸の音だけが、変わらず続いている。


それだけなのに――どうしてこんなにも遠いのか。


涙が、彼の手の甲に落ちた。


その時だった。


ほんのわずかに、指先が応えた気がした。



「……え……?」


息が止まる。


見つめる。


けれど何も変わらない。


今のは、願いすぎたせいの幻――そう思いかけて。


「……っ」


もう一度。


今度は、はっきりと。

指が、微かに動いた。


「……本当に……?」


震える手で、そっと包み込む。


逃がさないように。

消えないように。


「……キース様、聞こえてますか」


小さく、問いかける。


「……私の声」


その瞬間。


呼吸が、わずかに乱れた。

規則だったものが崩れる。


「……っ」


胸が締めつけられる。


――届いた。



「……お願い、戻ってきて」


祈るように、零す。


その時、まぶたが、かすかに震えた。


そして――ゆっくりと、わずかに開く。


焦点の合わない瞳が、揺れる。


ここにあるのに、届かない。


「……ル……」


かすれた音。


それでも、確かに。


「……っ」


涙が溢れる。


怖いほどに、嬉しい。


「ここです」


短く、強く。


「ルーナはここにいます」


指先に力を込める。


キースの瞳が、わずかにこちらへ向く。


「……ご……めん……」


その一言で、すべてが崩れる。


堪えきれず声が出る。


「謝らないでください……」


言葉が続かない。


涙が落ちる。


やがて。


その瞳が、ゆっくり閉じていく。


意識が、また沈む。



「……待って……」


引き止めるように、手に力を込める。


返事はない。


呼吸だけが、元に戻る。


それでも――


確かに、触れた。

確かに、繋がった。


震える声で、呟く。


「何度でも、キース様を呼びます」


その手を、握り直す。


「だからまた、戻ってきてください……」


願いが、静かに落ちる。



――その直後。


呼吸が、変わった。

浅く、不安定に揺れる。


指先が、もう一度動く。


今度は、はっきりと。


そして弱く――、握り返された。


「……っ」


息が詰まる。


現実が、追いつかない。


その時、まぶたが再び開いた。


さっきよりも、確かに。


揺れていた瞳が、探すように動く。


そして――こちらを捉えた。



「……ル……ナ……」


途切れながらも、はっきりと。


「……はい……」


声が震える。


それでも、答える。


「ここに、います……」


視線が、わずかに定まる。


まだ不完全で、それでも確かに。


私を見ている。


「……無事……か……」


最初の言葉に、胸が締めつけられる。


「私は大丈夫です……」


何度も頷く。


「大丈夫ですから……」


キースは、わずかに息を吐いた。


それだけで、ひどく疲れたように。


「……よかっ……た……」


そのまま、意識が沈みかける。


「キース様、待って……!」


思わず引き止める。


けれど――今度は違った。


指先が、わずかに応える。

繋がっている。


まだ、ここにいる。


「……ごめんなさい、まだゆっくり眠ってくださいね」


静かに、言う。


支えるように。


「私は大丈夫ですから」


呼吸が、少しずつ落ち着いていく。


完全ではない。


それでも――途切れていない。


私は、その手を握ったまま。


涙が、また一滴落ちた。


それでも――もう、さっきの絶望ではなかった。


まだ終わっていない。


それでも確かに。

失ってはいなかった。


その小さな確かさだけが、胸の奥で、静かに灯り続けていた。

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