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愛する人と、幸せになること ~前世で死んだ私を、彼だけが覚えていた~  作者: rara
第5章 守りたかったもの、守れなかったもの
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39/55

②

演劇のあと、私たちはそのまま食事をすることになった。


落ち着いた店の中で、ようやく日常の空気が戻ってくる。


そのときエレンが、少しだけ視線を落として言った。


「実は私も、気分転換がしたかったんです。少し……マリッジブルーみたいで。」


「そうだったんですね……。」


「私たちの結婚って、昔から決まっていて。ずっと幼馴染で、友達みたいな関係だったから……。いざ結婚となると、ちゃんと覚悟ができているのか分からなくて。」


「……でも、エレン様ってリュート様のこと、好きですよね。」


その言葉に、エレンは目を丸くした。


まさか気づかれているとは思っていなかったような顔だった。


「ルーナ様秘密ですよ……私、リュートのこと、大好きなんです。」


「やっぱり、そうだったんですね。」


「え?分かってました?」


「見ていれば、分かりますよ。」


そう言うと、エレンは少し恥ずかしそうに笑った。


「ふふ……リュートって、口も悪いし。」


少しだけ困ったように笑う。


「意地悪だし、偉そうだし……」


言いながら、ほんの少し視線を逸らす。


「なんでこんな人のこと好きなんだろう、って思うんです。」


小さく息をつく。


でも——すぐに、表情がやわらぐ。


「でも、気づいたら……好きになっていて。」


声が、少しだけ柔らかくなる。


「リュートから“好き”って言われたこと、一度もないんです。」


ほんの少し、苦笑する。


「だから……私の片想いかもしれないって、思うときもあるんですけど。」


そこで言葉を区切って、少しだけ、迷うように指先を触れる。


「でも……誕生日に花をくれたり。」


「元気がないときに、外に連れ出してくれたり。」


一つ一つ、思い出すように。

大事に置いていく。


「そういうのに……すごく、救われていて。」


声が、少しだけ震える。


「だから……」


一瞬だけ言葉を探して、


それでも、ちゃんと口にする。


「結婚したら、きっと……」


小さく笑う。

少し恥ずかしそうに。


「もっと好きになってしまいそうで……それが、少し怖いんです。」


頬を赤くしながら話すエレンは、とてもまっすぐだった。


私は自然と微笑んでいた。


その幸せを、少しだけ分けてもらったような気がしたから。



そして同時に、思い出す。


少し前の私は、同じような温度の中にいたことを。


辛い過去を忘れさせるように、ただそばにいてくれた人。

何も言わずに寄り添ってくれた人。


今はもう信じられなくなってしまったけれど。

それでも、あれが嘘だったとは思えなかった。


すれ違っているだけなのかもしれない。


もう逃げようと思えば逃げられるのに、私はなぜか離れられない。


そんなことを考えていたときだった。



「見つけた。」


背後から声がして、空気が少し変わる。


リュートだった。


彼はそのままエレンの手を取ると、何でもないように言った。


「ルーナ、エレンを攫ってもいい?」


「え?攫う……!?リュート?」


「今こいつ、絶賛俺のこと避けててさ。もう限界なんだよ。ちょっと二人で夜に消えるわ。」


私は思わず小さく笑った。


「ふふ、どうぞエレンを連れていってください。」


エレンは困ったようにしながらも、顔を赤くしてリュートの手を握り返していた。


その様子を見て、確信する。


これは片想いなんかじゃない。


リュートは不器用なだけで、ちゃんとエレンを大切にしている。



リュートはエレンを自分の馬に乗せると、そのまま夜の中へ消えていった。


その背中を見送りながら、胸の奥にあたたかいものが残る。


――ああ、そうだ。


この温度、知っている。


気づけば私は、キースのことを思い出していた。

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