②
一度目の人生は——
敵国の王子と恋に落ち、裏切られて二十一歳で命を落とす、その結末を除けば。
間違いなく、恵まれていたと思う。
大陸の小国、アルザス。
その王家に生まれた私は、一人娘として大切に、大切に育てられた。
幼い頃から不自由は何ひとつなく、愛情に囲まれた日々。
けれど同時に、王族としての責務もまた、当然のように背負っていた。
そして十八歳になった時。
病に伏した父王に代わり、私は王位を継いだ。
小さな国ではあったが、誇りはあった。
信頼できる重臣たちに支えられながら、私は懸命に国を治めた。
贅沢ではなく、民のために。
慎ましく、けれど誠実に。
——だからこそ。
私の人生の過ちは、あまりにも単純だったのかもしれない。
敵国の王子と、恋に落ちてしまったこと。
隣国の大国ゼウス。
その不可侵条約の証として、王城に留め置かれていた第二王子——アラン。
“人質”とはいえ、彼には城内での自由が与えられていた。
そして年の近かった私たちは、自然と同じ時間を過ごすようになった。
最初は、ただの話し相手だった。
孤独を紛らわせるための、互いにとっての逃げ場。
けれど気づけば——
兄弟のように笑い合い、
誰よりも近くで心を通わせる存在になっていた。
それが、恋に変わるのに、そう時間はかからなかった。
しかし、運命はそれを許さなかった。
私たちの想いが深まるのと時を同じくして、ゼウスは領土拡大を掲げ、アルザスへの侵攻を開始した。
戦火は瞬く間に広がり、国は不安に包まれる。
その最中——
私は、両親を相次いで失った。
原因は流行病。
あまりにもあっけない別れだった。
気づけば、支えをすべて失っていた。
その空白を埋めるように、私の心は、アランへと強く依存していった。
彼だけが、そばにいてくれる存在だったから。
だがその姿は、周囲にはどう映っていたのだろう。
敵国の王子を匿い、恋に溺れる女王。
重臣たちの信頼は、次第に離れていった。
民の声も、冷ややかなものへと変わっていく。
もともと軍事力に乏しいアルザスにとって、
内部の乱れは致命的だった。
戦況は、長くは持たなかった。
敗戦が目前に迫った頃。
私は死を覚悟し、籠城を決意していた。
王として、国と運命を共にするために。
——けれど。
アランは、違う選択を差し出した。
一緒に、ゼウスへ逃げようと。
その言葉に、私は激しく揺れた。
王としての責務。
ひとりの女としての想い。
どちらを選ぶべきか——答えは、分かっていたはずだった。
それでも私は。
国を捨てることを、選んだ。
彼と生きる未来を、信じたから。
そして——城を抜け出し、たどり着いた街で。
私はアランに殺された。




