第一話 あーしが総理大臣!?
国会は、ざわめきに包まれていた。
拍手。怒号。喝采。
歴史に刻まれる一瞬を、誰もがそれぞれの感情を表に出しながら見守っている。
「——本院は、相田みく君を、内閣総理大臣に指名することに決しました!」
議長の声が響く。
衆目が、薄紅色のスーツに身を包んだ相田みくへと注がれた。
「……あーしが、総理大臣!?!?」
——静まりかえった講義室。
長閑な午後。窓の外では、小鳥のさえずりが春の風に乗って響いている。
教授が一つ、大きく咳払いした。
くすくすと笑いを堪える声があちこちから漏れる。
相田みくは寝ぼけているのか、状況をまだ飲み込めていないようだ。
学生たちは、期待と面白がりの入り混じった目で彼女を見つめている。
「あー……とりま、日経平均アゲてこー? みたいな」
——教室が爆笑に包まれた。
教授はあきれた顔で板書を続け、僕は笑えないまま、彼女の紅潮した横顔だけを見ていた。
結論から言おう。僕はギャルが苦手だ。
(将来の夢といえばプロ野球選手、大金といえば100万円、偉い人といえば総理大臣……。そんな呑気に生きてみたいものである)
とはいえ、相田みくの取り繕い方には若干の違和感があった。彼女はいつも講義中に寝ているし、寝言を言ったのも一度や二度ではない。寝ぼけていたというより、言ってしまったことに照れた——そんな顔に見えた。
講義後、学生たちは彼女の周囲に集まり、「よっ総理」「消費税下げてよ」などと囃し立てる。
(あほくさ……)
盛り上がる講義室を尻目に、僕はそそくさと立ち去ろうとした。
その時、背後から大きな声で、
「正田くん。あとで連絡すんね」
と言われた。
(おいおい。僕と直接話したことも、連絡を取り合ったこともないやん)
それによりさらに講義室は盛り上がる。
「早速内閣発足ですか総理」
「確かに学内主席、政界一家の正田は外せないよな」
「相田総理と正田大臣のアイショウコンビの誕生だ」
「ちょっともう、みんな解散するよ」
一同「解散総選挙だー!」
大学一年の春、僕は“相田みく”と出会った。出会ってしまったと言うべきか。
安穏と生きていこうと思っていた学生生活が、この女のせいで大きく変わることになる。いや、学生生活どころか人生丸ごと、か。
——そしてその夜、本当に連絡が来た。




