2章 過去の未来(ゆめ) 【大好きなあのコのために】
「みんな〜!こんばんわー!」
俺の元気な声。早く動きはじめるチャット欄。たくさんの"こんばんわ"と"わこつです"と"ありがとう"。毎回同じ言葉を何回でも言ってくれる。そんなみんなのために、頑張りたいと思う。
そんな、この空間の全てが好きだった。
「りつだよー!みんなー!今日はなんの日か知ってる〜!?」
ユメミライの黄色担当りつ。
それが僕だ。
「"なんの日?"さぁ~、なんの日でしょーか?"何かの記念日?"お?"初めてのオリ曲から一年の日じゃないですか?"おー!せーかーい!もう一年かーって感じだけどね。今日はなんと初のオリ曲〔りーちゅ!〕の投稿記念日なんですよー。」
画面越しのリスナーさんの笑顔が見えてくるようで、こっちも笑顔になる。
「"おめでとうございます!"ありがとー!__今日はりーちゅ!一年記念で、そのあと3曲くらい投稿してきましたけど、なんと、今週末に!?、、、まぁ、お楽しみに、ということで!今日はこんな企画やっていきます!失敗するたびにセリフを言う!?音ゲー実況ー!やってきまーす!!」
音ゲーは得意だ。
大好きだった“あの子”がよくやっていたから。
よくよく考えれば、“あの子”のおかげで今の俺がいる。
なんて、昔の話。
「〜〜〜ということで、ありがとうございました〜!いやー、久しぶりに音ゲー楽しかったー!"音ゲー実況そんなにやってたっけ?"んー、あんまないかも。俺、ちっちゃい頃音ゲーよくやってたんだよねー。"そうなんだ!""意外かもw"えー?意外かなー?実はね、音ゲーが得意な友達がいたんだけど、俺、全然その子に勝てなくて。めっちゃ練習してたっていうエピソードがあるんですよ。"なにそれかわいー!"え?ありがとー。」
音ゲーが終わってたくさんの子のコメントを読みながら返す、雑談タイム。
「"初見です"初見さんいらっしゃーい。あ、雑談タイムのルールの説明してなかったね!雑談タイムは、ゲームが終わってからの雑談する時間なんだけど、ルールがあって、1!リスナーさん同士で会話しないでほしい。これは、俺だけと話してほしい、、、っていうか。喧嘩の種とかになっちゃったりもするから、やめてね。2!アンチにはいちいち反応しないこと!あとで全部スタッフさんから注意が行くから嫌だと思っても反応しないでね。こっちで対応するから!3!お名前呼びタイムもあって、名前読んでほしい子はスーパーチャットっていう、お金がかかるチャット略してスパチャって呼ぶんだけど、それをしてくれたら必ずお名前呼びします!あとは、時々名前に反応したりとか。あとは質問とか、「今日誕生日です」っていうチャットにはなるべく反応するようにしてます!、、、て感じかな?ね、みんな。」
みんなは「そうですね」と答えてくれる。
雑談タイムの前に必ず取るのがルールの確認。
初見さんもいるし、何回も見ている子はわかってくれていると思うけど、復習で言うようにしている。絶対ルールは守ってほしいし、みんなのことは大好きだから、傷ついてほしくない、という配慮からである。
「そうだ!お知らせ忘れてた!今週末にね、また新しいオリ曲投稿しちゃいます!曲名は"莉都"です。有名なあのひとに描き下ろしてもらった曲なんだけど、実はちょっと俺が作詞してたりしてます。歌詞を見ればわかると思うんだけど、ちょっとさみしい恋の歌っていうか。女の子の主人公の悲恋が描かれている歌です。"うわー!嬉しいです!"ありがとう。楽しみにしててね!___うー、なんかお腹空いてきたかもー!"ご飯食べました?"実はね、まだなの。隣りにあるんだけどね、、、冷凍グラタン。"美味しいですよね"わかる!"りつくん好きです"え、告白??俺も好きー!、もちろん、みんな大好きだよ。画面の前の君が一番!、、、てことも、ないような、、、。"え?泣く。"泣くwww俺が好きなのは、ユメミライのみんなだよ。でもやっぱ君が一番かな。"りつくん、活動を始めたきっかけを教えてください"えーと、それは長くなっちゃうから、今度動画で出そうかな!」
なんて、はぐらかすけど本当は、言ったら思いが溢れて止まらなくなりそうで怖いだけ。
俺の本名は悠太だ。
じゃあ、りつはどこからって?
俺の、好きな子から。
"莉都"それがその子の名前で。
漢字ではりつとも読めるから、俺の活動名はりつになった。
可愛く「ゆーた」って呼んでくれるのが大好きだった。
「ゆーた。りとね、アイドルが好きなの。このひと。かっこよくてね、りとのタイプなの。」
柔らかく、ふわふわ喋る莉都がたまらなく愛おしかったはずなのに、その言葉で一気に落ち込んだのを覚えている。確か、十歳の頃だ。
大きくなってもふわふわと、特にゆ"う"たの伸ばしても言えるとこなんて、必ず伸ばすし。とにかく幼さが抜けなかった。だから、俺が守らなくちゃ、とも勝手に思っていた。
「アイドルってね、スーパーヒーローみたいな感じでね、守ってくれるの。」
当時の俺にはアイドルがかっこいいとかわけわからないと思っていたし、よくわからなかったけど、でもなぜか興味を持ってしまった。
昔から莉都のことが大好きで、でもその気持ちはずっと隠していた。
「ゆーた。あのね、今日ね、がっこでね。」
と話す姿は可愛くてでもたくさん勉強はできた。
最初は恋とか何もわからなくて、でもやっぱり感情は恋愛感情だった。
「りと、お前前見て歩けよ。」
「えー?だって人と話すときは目を見て話さなきゃいけないでしょー?」
「そうだけど、歩いてるときは前を見ないと転ぶぞ、、、って」
「い、ったぁ、、、。ゆ〜た〜(泣)」
なんて、泣き顔で。すがりつくような眼差しは、俺にしか向けることはなかった。11歳になった頃の話である。
そして、俺の12歳の誕生日なんかは
「ゆーた、たんじょーびおめーとー!」
って満面の笑みで言ってきて誕生日プレゼントに莉都自作のハンカチをくれた。
莉都は絶対手放したくないって、そう思っていたのに。
13歳の頃あっけなくアイドルに取られてしまった。
悔しくて、でもなぜかやる気に満ちていた。
莉都を取り返してやるって、そんな気持ち。
今考えたらちっちゃな恋だったし、可愛い莉都に惚れて埋もれて、周りが見えていなかっただけだと思うんだけど周りが見えていなくて、幸せだった。
莉都だけに一生懸命で、友だちと遊ぶより莉都を優先していたし、何でもかんでも莉都、莉都。
そんなに莉都に一生懸命だったから、アイドルにだって嫉妬してしまったんだと思う。
歌い手に興味を持ったのは莉都のおかげで莉都がいたから。
「ナニコレ、イラスト?」
莉都のスマホのホーム画面に向かって俺が言った言葉。
「うん。推しの、ゆらくん。」
「ヘェ。」
「アイドルなの。」
「え?いるの?現実に?アニメキャラとかそうゆーのじゃないの?」
「うん。ゆらくんねー、かっこよくてぇー、特に歌ってるときとか!ウタイテっていうんだよ。」
莉都が幸せそうに語る、"ウタイテ"がなんなのかわからなくて頭の中で勝手にカタカナに変換される。
「歌う、に手って書いて歌い手。まぁ、歌手の漢字の間に"い"を入れたかんじかな。」
「ふぅん。」
と言った俺はちょっとニヤニヤしていたと思う。
俺はもともと歌がうまいと思っていたし、顔もイケメンと言うほどではなかったけど割とモテたほうだ。絶対になれると思った、莉都のいう、歌い手に。そして、俺が莉都を魅了して、今のゆらくん、とかなんとかいうやつよりも好きにさせてやる、当時の俺の願望は、そんな感じだった。
「ゆーた。これ見て。」
いつの日か、莉都が持ってきた用紙に俺は目を奪われた。
「"アイドルオーディション”?」
「そー。歌い手になるためのオーディション。男子だけだから、ゆーた、どーかなーって。」
莉都がちょっと気恥ずかしそうに言う。
その時の用紙がユメミライの応募用紙だった。
期日は無限にあるわけではない。全国の中学生以上の人に応募して2年後から始動する歌い手グループ。2年のうちの、3ヶ月で書類審査。6ヶ月で面談。3ヶ月で選考。で一年。残りの一年は仮グループを決めてみたり、選考された30人ほどのメンバーで実際にあって決めたりする。
なんて、当時の俺には怖くて、でもやるしかないと、思っていた。
その時からこっそり応募用紙を書いて、応募して結果を待つ間、ただひたすら練習した。
いろいろな人と話す。ダンスや歌。
合唱部に見学に行って声の出し方を教えてもらったし、1ヶ月くらいは合唱部にいさせてもらった。
さらに家の近くでやっているダンス教室に通い、ダンスを習った。
当時の俺にとっては苦痛で仕方ない毎日だった。
部活に入ったら莉都とは一緒に帰れないし、遅くに終わった部活の後、ダンス教室を一時間くらいやって、帰ってきて、テストの点を莉都と戦っているから必死に勉強して、寝るのは日付が変わる、本当に少し前で。
でも、その時の目標は歌い手になることだったから苦痛で仕方ない毎日も、寝る少し前に歌い手の歌を聞いて、少しでも目標に近づくために、ひたすら頑張っていた。
そんな多忙な日々の中、支えてくれたのは莉都と、歌い手のゆぅなって人だった。
その人はキラキラしてて、莉都のいう歌い手って救いの存在って言ったら大袈裟に聞こえるかもしれないけど、本当にそんな感じだった。
「莉都、俺、歌い手になってみせる。」
そう宣言したとき莉都は
「ゆーたならなれるよ。大丈夫。」
と優しく笑ってくれた。
いつからか、本気で莉都を意識するようになった。
一緒にいると気恥ずかしくて、でも幸せで。
矛盾ばっかの気持ちに悩んだ。
それでも莉都を支えるために、歌い手に、アイドルになりたいっていう気持ちだけは揺らがなかった。
告白するまでは。
「莉都、俺、莉都のことが好きだ。」
そう伝えようと決心したのは、バレンタインデーにチョコをもらったから。
ホワイトデーのときに告白するってちょっと変な感じがしたけれど、莉都にちゃんと想いを伝えたかった。
でも
「ごめん、ゆーた。ゆーたとはずっと幼馴染だし、、、私、今、歌い手さんにしか興味がなくて、、、。」
と言われた。
突き放されたような感覚。
眩暈がして、突然明るく進んでいたはずの道が真っ暗に閉ざされてしまった。
俺は必死に頑張っていた歌い手を、諦めた方がいいのか。
莉都のために頑張っていた俺の未来を一気に失ったような感覚だった。
そんな時一通の手紙が届いた。
それは、3ヶ月前に出した審査結果。
一次審査、通過の知らせだった。
その時はもうどん底に突き落とされた気分で、莉都無しでどうやって歌い手を目指すのかわからなくなっていた。
自分のことなのに、自分のことがわからない。
歌い手になろうと決めたのに、あんなにたくさん頑張ったのに、もう何もやりたくない無力感。
莉都に突き放された絶望感。
全てがうまくいかない日々で、救ってくれたのは、ずっと聴いていた歌だった。
聴いている時だけ、莉都との日々を思い出して、少し幸せにしてくれた。
莉都と笑う帰り道。
嬉しそうに歓迎してくれた合唱部。
厳しく、でも楽しく指導してくれたダンス教室の先生。
そして、一番そばで応援してくれた莉都の「頑張って。」
全てを思い出して、思い出に浸った時、俺がここまで来るまでにたくさんの人に支えてもらっていたことを知った。
一次審査を通過したなら、たくさん支えてもらったんだから、俺もその成果を出したい。
何より、たくさんの人を笑顔にしたかった。
「アイドルになりたい、だって?真面目な夢はないのか。」
そう、先生に叱られた。
「俺の真面目な未来です!アイドルになって、たくさんの人に笑顔になってもらいたい。たくさんの人に未来を届けたいんです!」
俺がいうと先生が机を叩き
「あのなぁ、アイドルになりたくったって無理なものは無理だろう?アイドルになって稼げると思うのか?そもそもお前を見つけてくれなければお前はもう終わりだろう。なにも、届けられないままだろ。そんなのお前の望んでいるものか?無難な人生を生きろ。運だけで生きようとするな。人生、運だけでうまくいく人なんていない。」
といった。確かに正論だ。
でも、俺は運だけで生きていくなんて思っていない。
これまで、勉強とやりたいことをうまく両立してやってきて、寝る間も惜しんで努力した。
それを、否定された俺は必死に声を上げた。
「俺、運だけで生きていけるなんて思ってないです。そもそも、アイドルを運でできる仕事だとも思ってないです。アイドルは裏では、必死に努力してるんです。俺は、合格してます、アイドルの審査。それは、勉強でも学年30位に入って、でも必死にダンス教室も発声も、しゃべりも、練習した結果なんです。決して、運だけじゃないと思います。」
「、、。まぁお前がそれだけ努力しているなら、その道を行けばいい。ただ、その審査がもし落ちたら俺が親身になって入れる高校なんかを進めてやる。頑張れよ、アイドルの原石。」
今思えば、中学の先生は優しかったと思う。
俺に厳しいことを言ったけど、実際それは正論で、俺はアイドルになれない可能性の方が高かったし、いくら努力したって世の中うまくいかないことなんてたくさんある。
それでも、がむしゃらに頑張る俺を先生は応援してくれた。
どうしても、アイドル、歌い手だけは諦められなかった。
だれになんと言われようと、絶対。
中卒になろうが関係ない。
莉都のために頑張ろうと決めて、誰かを支えたいという未来になった。
「ゆーた!2次審査のお知らせだってよ。会場は、、、ユメミライ事務所、だって。めんせつー!」
莉都が騒ぐ。
「ゆーたが歌い手になったらさ、一番のリスナーになるから!絶対に見つけてね!」
俺が歌い手になること前提で話す莉都は嬉しそうで、悩み無し!って顔で笑っていた。
「こんにちは!りつです!」
「アイドルになりたい理由は?」
「えーと。誰かを笑顔にしたくて、ですかね。元々は好きな子を笑顔にしたくて、そのうちに歌い手さんたちに励まされて、俺もこうなりたいって思って、、、たくさんの人に笑顔になって欲しいって思ってるんです。」
初の面接は緊張しなかった。
第一審査の書類審査の合否が届いてから1ヶ月。ようやく面接の日付が来た。
明るく、元気を届けたいから、面接なんかで緊張してどうする!
そう、気持ちを奮い立たせて。
「なるほど、、、。じゃあ、自分がアイドルになったらどんなキャラで売りますか、りつさん。」
「元気に、明るく。自分のドジなところもいかして天然?キャラみたいな、、、」
結局、面接はそれだけで終わったのだけれど。「なんでも前向きに、ですね。じゃあ、この紙を、、、。これで面接は終了です。元気で明るいところはりつさんのいいところだと思います。頑張ってくださいね。」
そのもらった紙と言葉は、なぜかこれから明るいことが待っている気がした。
もらった紙は第三審査についてだった。
どうやら面接の中で良いな、と思った子には候補として配っているものらしい。
つまり、少し希望が持てるということだ。
嬉しいかったけど、第三審査ということはもしかしたら一緒に活動するかもしれないメンバーもいるかもしれないから、そこでなるべく交友関係を作りたかった。
だいぶ経った頃。
第二審査合格の通知とともに第三審査の日程が送られてきた。
「第三審査」
その言葉は重かった。
莉都を笑顔にしたくて必死に頑張った第二面接の後も、第三審査のために頑張った。
ここで頑張れば、未来の歌い手だ。
「よし。」
気合を入れて会場に向かう。
今日から3日くらい、このメンバーで過ごす。その人数は少なかった。
ひとクラス分もないくらい、約20人が集まった会場はユメミライの事務所。寝泊まりできる小さな部屋も、みんなと話せる部屋と、作業部屋。スタッフさんが働く、本格的な事務所の場所。
俺は元気を売るんだから、、、元気に振る舞おう。
そう決めて、近くにいる人に話しかける。
「こんにちは!」
「あ、こ、こんにちは、、、。え、と?お名前は、、、?」
緊張気味のその子の顔に笑顔はない。逆に俺は笑顔で
「俺はりつです!君は?」
「あ、ゆなっていいます。りつくん、よろしくお願いします。」
しっかりとした口調でそう言ったゆな。
「ゆなって呼んでも大丈夫?」
「あ、はい!全然!嬉しいです。あ、僕は慣れないので敬語なんですけど、大丈夫ですか?」
「りょうかーい。仲良くしよー!歳、って、?」
「13です。」
「へー、俺は14です。」
「わぁ、一個上!ちなみに、僕は今年で14になるんですけど、りつくんは15の年ですか?」
「そう!ゆなって頼りになりそうだよね。」
「え?そうですか?」
「うん、なんか強いっていうか。最初は緊張してたけどさ、話したらしっかり者って感じ!」
「えへへ、嬉しいです。」
その時初めてみた、ゆなの笑顔。オーラがすごくて、笑うだけで周りが華やぐというか、そんな感じだった。
「ゆな、って、ここまで独学?」
「小さい頃、子役のレッスンをしてたことがあるんですけど、結局はどこにも受からず、終わった感じです。その後中学生になってから歌い手になろうと未来を決めたんです。」
「へぇ、、。俺はここまで独学でさ。ダンス教室とか、合唱部とかは行ったりしたんだけど、専門的なところはどこも、、、、。だから俺ってから元気っていうか。ただ元気いいだけで俺の笑顔は届けられるのかなって。」
「すごいですよ、りつくんは。最初僕に声をかけてくれた時、救世主みたいな感じでした、、!笑顔だったので、すごく嬉しかったですよ。すぐ緊張が解けたし、笑顔にもなれたので。それに、独学で、っていう行動力の凄さは人一倍だと思います。そんなところが認められたんじゃないですかね。でも、このオーディション、実はレベルが低くて。だから、、あんまり練習しない人とかでもここまで来たりするんですよね。」
「、、、、、そうなんだ。」
「、、、!ごめんなさい、りつくんってすっごい努力してたんです、よね?」
ゆなの申し訳なさそうな顔を見る僕の瞳が揺れる。
だんだん視界がぼやけていく。
いつの間にか、涙が出そうになっていて慌ててごしごしと目をこすった。
「大丈夫だよ!レベル低いとか関係ないし、俺が頑張ったからここまでこれたんだし、ね!」
笑顔を作って明るく言うとゆなは
「、、!そうですよね!僕も負けません。」
と明るく笑ってくれた。
僕は、もしかしたらゆなのことを元気にできたのかもしれない。
次の日も、審査は続いた。
「りつくん、おはようございます。」
「おはよ、ゆな。今日は誰か他の人にも声かけてみるか。」
「良いですね。そうしましょう。、、、って、あれは、、みうみくん?」
ゆなが遠くを見てそう言った。
「みうみ、って知り合い?」
「あ、そうです。子役レッスン時代、同じところで、幼なじみで、中学も一緒で、、、。僕、このオーディションにみうみくんを誘ったから、、、。」
ゆなが不安そうに"みうみ"を見つめる。
「話しかけに行ってみようか?」
「え、いいんですか?行きたいです。」
ゆながびっくりしたように、でも嬉しそうにそういった。
"みうみくん"に近づきゆながつんっと背中を触る。
「、、、!え、、だれ、、って、ゆなじゃん!お互いここまで来たんだね!」
その、"みうみくん"がゆなを見て笑顔になる。
「俺、昨日は一人でさ〜。、、って、その人、誰?」
"みうみくん"が俺を見てそういった。
「あ、りつです。昨日ゆなと会って。」
「へぇ。俺、みうみって言います。え、と、昔からゆなと知り合いで、、、。とにかく、仲良くしてください!」
「よろしくお願いします。、、、タメ口でもいいですか?」
「あ、全然!俺もタメで行く〜!」
「じゃ。友達がいないみうみの友達探しでも行く?」
「うん!行きたい!」
「友達がいないってなんだよ!」
ゆなの笑顔と、みうみが怒る姿。
それを見ていると本当に仲良しなんだな、って伝わってくる。
そうしている間にスマホの一通の通知が来ていた。
「?なんだろ、、、今日のミッション?6人組を作れ、、、。って、まじか!でも3人はいるから、あと3人だねー。」
このとき俺達はこの6人組がまさか今のグループになるなんて思ってなかった。
「しっかし、意外と見つからないものなんだな〜。」
みうみが呑気にそういう。
「呑気だね、みうみくん。」
ゆながムスッとしながら言う。
「あれ、あの子、一人だね。」
俺が遠くを見て言った。
黒い髪のおとなしそうな男の子。
「ほーんとだ。」
「話しかけてみよっか?」
「じゃあ、りつくんお願いね。」
ゆなに頼まれてしまっては、もう拒否できない。
「わかった。」
本当、ゆなのリーダー感はすごいと思う。
人を動かす力を持っている。
「あの、君。」
「あ。はい。」
「ひとり、だよね?」
「そうですけど。」
ちょっとキレ気味で全然おとなしそうじゃない。
「6人グループ作るミッション、、、一緒に組まない?」
「、、、いいですよ。困ってたので。」
きれいな黒髪は、近くで見るとちょっと紫で染まっていた。
「ゆな、みうみ。」
俺が呼ぶとゆなとみうみが近づいてくる。
「お名前は?」
「あ。樹里っていいます。すでに三人いるんですね。ご迷惑かけます。」
さっきと違って丁寧にゆなとみうみに挨拶する。
「あ、りつです。こっちはゆなとみうみ。」
「りつ、ゆな、みうみ、、、。ありがとうございます。」
丁寧だけど、かっこいい。ちょっと悪っぽい雰囲気もあって。イケボで。
本格的に歌い手みたいだった。
「敬語とか、やめない?これからグループになるわけだし、、、。ミッションの一貫だし、、、。」
いつの間にか敬語が抜けたゆなが樹里に話しかける。
「あ、、、くせ、っていうか。まぁ、慣れてきたら抜けると思うんですけどね、、、。」
樹里が気まずそうに言う。
ちょっと、傷ついた顔で。
その後も順調に、、、とはいかなかった。
メンバーはなかなか見つからず、周りもグループ化してきて一人や二人の子を見つけにくい。すでに3人だとひとり別れないといけない。
「あーあ、いないねぇ。」
そう、みうみが気だるげに呟いたときだった。
「え、お前、女なの?」
「っ、、、!やめて、ください、、、。」
「女って、参加していいの?コレ。」
「普通にミスじゃない?」
そんな、声が聞こえてきたのは。
「ち、違うんです、、、僕は、男で、、、。」
「は?お前、コレに女って書いてあるじゃん。」
「"元いじめ被害者(女)www"」
「情報提供ありがたすぎww」
そんな笑いとともに聞こえるのは否定する、小さな声。
「僕、男ですっ、、!いじめ、られると、、、昔のこと、思い、出して、、、。」
「はぁ?関係ねーだろ。いじめてねーし。」
「とにかくっ、やめて、ください、、、!」
その子がそういったときだった。
「やめてって、言ってますよ?そろそろやめたらどうですか?」
「、お前、なんだよ。」
「元アイドルバックダンサーって言ったら、驚きますかね?」
「、、、!すいませんでしたー!」
いじめてた奴らがとっさに逃げていく。
「大丈夫?」
と駆け寄る自称元アイドルバックダンサー(仮)さん。
それを見ていた樹里が驚愕の顔をして
「俺もいかなきゃ。」
といった。
突然のことによくわかってないようなゆなとみうみ。
なんでかわからないけど、俺もいかなきゃ行けない気がして、俺も樹里と一緒に駆け出す。
「大丈夫??」
俺が声を掛けるとその子達2人が安堵したように息を吐く。
「怖かった、です、、、。」
「名前は?」
「つくねです。」
"つくね"と名乗るのはいじめっ子の間に入った男の子。
「僕はちぃです。」
"ちぃ"と名乗るのはいじめられてた子だ。
「怪我とかは?」
「ないです。心配ありがとうございます。」
ちぃがそういう。
「良かった、。僕、助けてあげられたんですね。あー、嘘ってこういうときに役に立つんだ。」
「、、、、え?」
「あ、、、元アイドルバックダンサーなんて嘘なんですよね。そういうのに弱いので。ただアイドルをけなしに来てる人ってすっごい嫌いなんでついカッとなっちゃうんですよ。」
つくねの目は強く、決心がついていた。
「助けてくれて、ありがとうございます、つくねくん。」
「そんな、、!っていうか、僕って毒舌っていうか、、、。アイドルになるにも毒舌天使をやろうと思ってて、、、君とはなんだか気が合いそうだなって思ってたんですけど、、、ちぃくんって、なんだかすっごい元気な気がします。」
「、そう、かな?でも、そう思ってくれたなら嬉しいです〜!僕、明るい子になりたくて!」
「どっちでも、良いと思いますけどね。」
そんな天使を目指すつくねと、明るい子になりたいちぃが6人組メンバーに加入して、いつの間にかミッションを達成していた。
ここまで来る試練は、莉都のためにあった。
「莉都。」
久しぶりにあった莉都は大人びていた。
「久しぶり、ゆーた。」
相変わらずの伸ばし棒。
そんな変わらなさに笑みがこぼれる。
「俺さ。アイドルになったんだ、歌い手に。報告が遅くなってごめんね。」
やっと、莉都にそう言えたのは初のライブツアーが決まった、オーディションから2年後のことだった。莉都と合わなくなって、2年半過ぎていたということである。
2年半は短くて、あっという間だった。でも莉都と合わない日々はひどく長かった気がするのは、色々とあったからだろうか。でも、そんな忙しい日々で、莉都がいない日々も平気になって、莉都への失恋も執着心もあっという間に失せていた。
「知ってるよ。りつくん。ユメミライのライブツアー、3公演は行くんだから。しっかり最前列で見てるよ。」
「、、、!ありがとう。」
「じゃあ、またライブでね。りつくん。」
その約束は、いつも配信で俺がリスナーに向かっていう言葉。
嬉しそうにはにかむ莉都を見ながら、俺はもっと頑張ろうと決心した。




