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ラウールの恩返し・2

初めて会った日は、どこもぼろぼろだったのに。


 今日のラウールは、短く整えた髪も冬なのにいい色に焼けた肌も、背はエドモンド坊ちゃまほど高くはないけど、外套を着ていてもわかる体格の良さも、お姉さん達の気を引きそうな要素ばかりだ。


 ここの市場で働いていたら、お姉さんからお母さんまで大人気だっただろうとリリーは想像した。

とっかえひっかえ、よりどりみどりだ。



 そんな事をリリーが考えているとは知らないラウールは、水をぐいっと飲んで熱心に誘った。


「本当にオレと来いよ。急な話で(わり)いが、ちびを探すのに手間取っちまって、公都を出るのは明日の朝だ」



――行くなら。リリーは考えた。

母さんに言えば大騒ぎになる。トムに言えば止められる。行くのなら、誰にも言わずに出なくちゃならない。


 坊ちゃまエドモンドの顔がよぎる。いなくなったら本当におじ様ロバートは探しまわるのだろうか。


 坊ちゃまは偉い人で、きっとずっと一緒にはいられない。このまま母さんといたら、来年の今頃には花だけじゃなくて春を売っている。


 ラウールと行けば、しなくて済むかもしれないけど、結局は異国でも同じことをするようになるかもしれない。


 それより何より、病気の母さんを置いて行ったら、明日から母さんは水汲みにも困る。お金はお客さんがくれても、雑用なんかしてくれない。生きていけない。


 どう考えても、ラウールについて行くなんて無理なことで。迷う必要のない話だった。



 考えた事が順に顔に出ていたらしく、隣で黙って見ていたラウールが「そうだよな」と呟く。


 そしてリリーの聞いたこともない国の名を告げた。街の名らしきものは、復唱してもラウールと同じ音にならない。


「母さんが死んで、身寄りがなくなったら来いよ」


 強い眼差しで念を押される。どれくらい大きな町かは知らないけれど、人ひとり見つけるのは大変だと子供のリリーにもわかる。そう伝えると。


「ちびが来る頃には、ラウールと言やぁオレの事だってなるくらいに名をあげといてやるよ」


 心配いらねぇ、と明るく言われれば、本当にそうなりそうな気がするのが不思議だ。リリーはコクリとうなずいた。



「明日の朝までは、待ってるからな」


 立ち上がりながら告げられた宿は、リリーでも歩いて行ける場所だった。


「まだ話してたいが、ちびは仕事中だろ。よそ者と長くいるのもよくねぇだろうし。続きはまたな」


リリーの頭を分厚い手でぐっと押さえて続ける。


「元気でな。いつか絶対に訪ねて来いよ。ちびひとり食わせるくらい何てことねぇんだから」


大きな笑顔があたたかい。


「ありがとう、お兄ちゃん」

胸がつまるようで、返すだけで一杯いっぱいだ。



「じゃ、お先な」

言ってひらりと手を振り、リリーに背を向ける。


 まるでまた明日会うような気軽さでラウールは通りへと戻って行った。


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