美女を連れた貴公子と花売り娘・2
近寄らないほうがいいとリリーが思った時には、エドモンドはもうそこまで来ていた。
「ここに来たからには、花冠を着けねばならないな」
隣の美女にそう声をかけている。
「ええ、エドモンド様。この後は友人宅へ顔を出すのですもの。当然いりますわ」
花市は今日から三日間開かれるが、話題には鮮度が大切で初日に来る事に意義がある。だから貴族は今日が多い、とリリーは教えられている。「せんど」の意味が分からなくて、後からおじ様に聞こうと思っていたのだった。
「この小さな娘から買ってやろう――娘」
自分に言われていると思えずぼんやりと見上げたリリーに、エドモンドが硬貨を渡した。花代には過分な額だ。
「花冠をこちらのご婦人へ」
「まあ、愛らしい花売りさんだこと。花屋の看板娘さんかしら。ひとつ選んでくださる?」
品良く彩られた唇から出る声も美しい。キレイな人は優しい人でもあるらしい。リリーはペコリと頭を下げた。
こういう華やかな美女は案外かわいらしい物がお好きだ。真っ赤や紫ではなくピンクや白が。
リリーは高価ではない花を組み合わせたピンクと白の花冠を差し出した。
「お買い上げありがとうございます。こちらをどうぞ」
「あら意外だわ」と目を見張ったあとに笑みが広がる。
「この子の目には、こう見えるのかしらね?」
エドモンドに同意を求めながら手を通したところを見れば、正解だったのだろう。
ほっとするリリーの頭上から声が降った。
「私の花飾りは」
驚いて見上げる。
「薔薇がもう挿してあります」
確かに対でお勧めしているが、エドモンドのフラワーホールには開きかけの白薔薇の蕾が挿してある。だから花冠にも白の入ったものを選んだのだ。
「そうか」
初めて気付いたというように下襟に目をやるエドモンドを、美人が可笑しそうに見る。
それをまた周辺の人々が憧憬を込めて眺めるので、ちょっとした人だかりになってしまっている。
「では、こうしよう」
エドモンドが薔薇を抜き、リリーの耳につっとかけた。
その手で篭から白い花の小さな束を取り、自ら胸ポケットへと挿す。美女と同じ種類の花だ。
「これでお揃いですわね」
美女が嬉しそうに浮かべた笑みは、リリーから見ても惚れ惚れとするほど美しい。
「行こうか」
「ありがとうございました。良い一日を」
美女を促すエドモンドにリリーは精一杯の笑顔を向けた。美女が「あなたもね」と返す。
「まだ初日だ、あまり頑張り過ぎるな。では、またな」
「また?」
花売り娘にエドモンドが掛けた言葉に、美女が反応した。
「明日は品評会の審査委員長として、明後日は優勝者の授与式で、またここだ」
背中を見送るリリーにも聞こえるように説明しているのだろうエドモンドに、「そういう事」と美女が納得する。
「『では、またな』だって」
リリーはつい呟いて慌てて周囲を見た。
人垣はとうになくなり、気に止める人は誰もいない。耳に挿してもらった薔薇から、いつもの坊ちゃまの香りがする。
三日も続けて坊ちゃまに会える。
「頑張れそう」
リリーは篭を抱え直した。




