美女を連れた貴公子と花売り娘・1
中央公園は市民憩いの場であるが、その市民とは貴族と富裕層を指す。
生活に追われる人々には、散歩などという趣味はない。
寒い季節がようやく終わりを告げ、黄水仙やブルーベルが咲きそろい散歩に適した四月。
公園では花の品評会を兼ねた種苗の展示即売会が開かれていた。
毎年の話題は黒いチューリップと青い薔薇。
どちらも品種改良は未だに成功していないが、「黒っぽく見えるチューリップ」と「青いと言えなくはない薔薇」は今年も注目されていた。
「あれは黒と言うより濃い紫だろう」とか「青というには無理がある、どう見ても薄紫だ」などと言うために、わざわざ見に来る人も多い。
普段リリーが花を仕入れている市場の花屋も、種苗を売るために店を出しており、リリーもこの三日間は日雇いで売り子をする予定で今日がその初日。
リリーの売るのは、この花市の定番の花冠。
冠とは言うものの手の平大で、帽子をかぶっている貴婦人方は頭には乗せずに手首に通す。
買った一日それをしていれば、中央公園に行ってきたとわかり「今年のチューリップはどうでした?」などと話題の中心になれる。
男性には下襟のフラワーホールに挿す花を勧める。女性のドレスと色を合わせれば断る紳士はいないので、もれなく買ってもらえる。
リリーは朝から公園の入口付近を走り回っていた。
まだ夜には暖炉に火が欲しいものの、木洩れ日の落ちる公園は春になったと実感させる。
一昨年、昨年と同様に、今年も春らしい色合いのシンプルなドレスを着た淑女が紳士と共にそぞろ歩きしている。
女性同士、男性ひとりも目につくが、男女ふたり一組のほうが何故かお財布の紐が緩みやすい。
そう気づいたリリーは狙いを絞って売り込みをかけていた。
「今日はリリーが一番売ってくれてるよ。この調子で夕方まで頼むわね」
手提げ篭へ何度目かの花冠の補充をしてくれながら、花屋のおばさんに激励されてリリーは力強くうなずいた。
「任せて、おばさん」
少し疲れてきたところに、一番と聞けばヤル気が出る。買ってくれそうな客を探しにリリーはまた公園の入口へと戻った。
たくさんの来訪者のうちに、一際目を引く紳士と淑女がいた。
山の高い帽子をかぶり濃い青色の上着を着た男性と、リリーが今まで見たことがないほどキレイな女の人。ドレスは緑と白のストライプで羽のついた帽子も素敵だ。
リリーがポカンとして見とれていると、男性がリリーに目を留めた。
あまりに整った顔立ちでつい失礼を忘れて見いってしまったと、慌てて目をそらす。よく見れば紳士は坊ちゃまエドモンドだった。
いつも室内で会うのですっかり忘れていたが、明るい陽射しの下で見るエドモンドは、すらりとして凛々しく目立つ容姿で、自分とはまるで違う世界の人のようだ。
腕を組んでいるビックリするほどキレイな女の人と並ぶと本当にお似合いで、眩しすぎてもう一度見ることなど出来ない。
自分の持つ花が急にくすんで見えてくる。




