貴公子は過保護ぶりを発揮する・3
何とも言えない気持ちでロバートは視線だけをエドモンドに送った。
「いさかいの始めから周囲には何人も大人の男がいる。皆リリーと顔見知りだ。にもかかわらず、にやついて眺めるか『もっとやれ』と囃し立てて、止めようとする者がいなかった。」
世も末、とロバートなどは感じるが。
「肉屋の主人が大声で怒鳴りながら助けに入るまでに、スカートはめくれ服も破れたようだが、コレを通して見る限り男どもは面白がっている。あるいは色欲を持って眺めている」
コレはそれにひどく衝撃を受けている。
口にするのも醜悪極まりない、グラスを寄越せと目で指示したエドモンドは、受け取ったワインを一気に喉に流し込み、リリーに「辛かったな」と労りの言葉をかける。
よく眠っているリリーからは、何の反応もない。
「こんな小さな女の子に劣情を催すとは、全く理解に苦しみます」
ロバートの滅多に下がることのない口角が、これでもかと言うほど下がっている。今、気がかりなのは。
「それで、お嬢さんはエドモンド様や私も怖くなってしまいましたか」
「いや」即座にエドモンドが否定する。
「ただ単に心配されたくないのと、話しながら思い出して涙が出るのを嫌ったようだ」
本当に強情だな。と語りかけ頭を撫でている。
よい光景を目にしロバートが気持ちを立て直そうと努力を続けるところに、若き主がさらりと口にした。
「これに『裏口』を作る」
思いもよらない言葉にロバートは息を飲んだ。
エドモンドの言う「裏口」は、その昔浮気三昧の奥方に腹を立てた大公が、誰とどこで何をしていたかをより早く読み取れるように、また術が効きやすくなるようにと編み出した術。
相手への信頼を少しも持たないと明言するようなものであるし、施された側は隠し事のひとつもし難いことから、心情的にはなかなかに問題がある。
本来は奥方限定でほぼ禁術扱い。施せるのが大公家直系のみであることから濫用の心配がなく、禁術と定める必要がないだけだ。
「素直に話さないコレが悪い」
エドモンドなりの言い訳だろうか。ロバートは「止めは致しませんが」と前置きして、一応の確認をとる。
「生涯でお一人にしか使えない、なとどいう制約はございませんので?」
「ない。いくらでも可能だ。改良前は捕虜の自白にも使っていたと言うから汎用性も高い」
エドモンドは事も無げに口にするが、それはまた何と返していいのやら。
今日は言葉を呑み込むのではなく、返す言葉がないと思うことが多い。ロバートはあいまいに頷いた。




