表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/560

貴公子は「人形」を部屋に持ち込む・4

 夜更けである事と離宮には使用人が少ないこと、そして年明け初日の明日大公宮殿で行われる行事の準備へと、人を出しているのも都合がよかった。


「人形」か「樹」を抱えた宮の主エドモンドは、誰にも見られずに自室へと着いた。


 行き合う人があれば「家令であるロバートが抱えればいい」と思ったかもしれないが、エドモンドの方が若い上に身体系の特殊能力持ちである。


 精神系と身体系の能力を併せ持つことは不可能。通説ではそう言われているが、セレスト家は不可能を可能にしている一族だ。


 十歳の子を抱えて長く歩くには覚悟のいるロバートよりも、エドモンドが抱いた方が遥かに理にかなっている。



 エドモンドに教えられた浴室の使い方に、私室も入っていたらしく、途中途中でロバートを呼びながらもリリーはどうにか一人で入浴した。



「温まりましたか」

聞くロバートに、コクリとリリーが頷いた。


 浴室からは水音がする。リリーに先に湯を使わせたエドモンドが入浴中だ。


「坊ちゃまのおうちなのに、坊ちゃまより先には使えない」と言い張るリリー。


 それに対して業を煮やしたエドモンドが「なら一緒にはいるか」と口にした。

 少し考えたリリーに「そうする」と返され言葉に詰まるエドモンド。


「ですから――子供に冗談は通じないと以前も申し上げました」と小言を口にした事を、リリーの髪をタオルで拭きながら思い返すロバート。



「とにかく湯に入れ。入らないと後の予定が詰まる。お前が湯に入らないことには、何も始まらん」


 言い放つエドモンドの勢いに恐れをなしたリリーが浴室へ飛び込み、その後エドモンドが入浴して今だ。



 普段エドモンドが生活する豪奢な部屋に運び込まれた「動く人形」はあまりに不釣り合いだが、その違和感が可愛らしいことこの上ない。


 部屋が広すぎて落ち着かないらしく離れようとしないのも、ロバートから見ればいじらしい。


「おじ様」


 リリーがずっと握ったままのロバートの上着の裾を引く。

調理場から幾つか持ち出したカナッペをリリーのために小皿に盛りなおす手を止めて、ロバートは膝をついた。


 さすがにこの部屋には子供用のバスローブはなく、エドモンドのシャツを着せている。初めて湯に入れた日と同じ格好だ、とロバートは目を細めた。


「何でしょう」


 いつも湯から上がるとリリーは大人しい。潤んだ瞳でロバートをまっすぐに見つめる。


「わたし、坊ちゃまが好き」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ