白いウサギは甘い苺の夢を見る・4
「濡れたまま髪を編んだな」
リリーの三つ編みを手にして、エドモンドは顔をしかめている。
二日早く狩りから戻り、宮殿へ寄りもせず隠れ家へ直行した若き主の眉間には、シワが刻まれてしまった。
まだ髪がしめっているのなら、リリーが来て湯に浸かりそうは経っていないのだろう。
「エドモンド様、先にお着替えを」
いつもはエドモンドが座るソファーの座面に顔を伏せて眠りこけているリリーの隣に、膝をつくエドモンド。
リリーが暖炉に近い床で過ごす事が多いせいで、公国一の貴公子も平然と床に膝を着くようになってしまったのは、果たして良いのか悪いのか。
ロバートには判断がつきかねた。
暖炉の前で眠ってしまうリリーの為に(そしてその寝台となるエドモンドの為に)、火の近い場所に使うには勿体ないほど良いカーペットが敷いてある。
火の粉で焦げでも作ったら並の家では青ざめる程の価値だが、厚みがなければ意味がない以上、仕方がない。
エドモンドは少しも頓着しないが、少しでもカーペットを守ろうとロバートは薪にまで気を遣っている。
「着替えよりコレの髪を乾かす方が先だ。全く一週間ばかり留守にしただけで、なぜこれ程ツヤが悪くなるのだ」
裾から順に三つ編みをほどくエドモンドに、櫛を差し出すロバート。オイルも隣に置く。
「普段ご自身ではオイルなどお使いにならないからでしょう」
おそらく井戸か公共の水汲み場で汲んだ水で洗うか拭くかして、水がたれないように三つ編みにしてしまうのだろう。もしかしたら、編んでから水気を切っているかもしれない。
「あり得ないほど編み跡がついてしまっている」
エドモンドがうんざりとした口調で指摘するように、髪にはきっちりとウェーブがついていた。
「これはこれで可愛らしいのでは」
リリーの髪は重めで、エドモンドが乾かせば真っ直ぐにおりるが、このウェーブもまた良いように見える。
咎める目付きでロバートを見、赤い髪に目を落としたエドモンドが横からリリーの顔を覗く。
こうまでされても起きない程、子供の眠りは深い。
こんな風に熟睡するようでは、母親の客が部屋にいる時にリリーを置いておくのは心配になる。
「いつもではない」
エドモンドがリリーの耳に髪をかけてやりながら、口にした。
考えを読んだかのようにエドモンドが応じるのは、珍しくない。ロバートはもはや驚かない。
「これの眠りが深いのはいつも、ではない」
「家では浅いはずだ。身体は休めても頭は休まらないだろう。どうも湯を切り替えの要にしたようだ」
いつもながらエドモンドの説明は、ロバートにはよくわからない。
「湯に浸かれるのは安全な場所、という訳だ」
エドモンドの眉間のシワは綺麗に消えている。
安全な場所だから湯に入る、湯に入れば安全と頭が理解して眠りが深くなるという流れ。ロバートはそう解釈した。
自宅が安息の場所ではないとは、子供にとってなんと過酷な事だろう。ロバートは嘆息をもらした。
「しばらくはツヤが戻りそうにない。これでは少しも留守に出来んな」
手入れの悪さを嘆く口とは裏腹に、エドモンドはどこか満足気だ。




