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白いウサギは甘い苺の夢を見る・3

 留守の間も通いの人が部屋を整えてくれる、だから好きな時間に来ていい、と言われた。

それでも考えていると、ロバートおじ様が言った。


「誰もいない家は不用心ですので、ご都合のつくときにはなるべくお留守番をお願いできませんか」


「もちろん、お留守番代はお支払いします」というのをリリーは断った。


「もらえないわ。いつもお世話になってるもの。困った時はお互い様よ、留守番は任せて」


 リリーが胸を張るのを黙って見ていた坊ちゃま、エドモンドは「単純すぎる」と呟き、二三の注意をした。


「どこで寝てもいいが火がついていないからといって、絶対に暖炉の内では寝るな」

ウサギの丸焼きなど見たくないから、と。


「本当に困ったらここへ逃げ込むのではなく、肉屋へ行け」

鍵箱が開いてもさすがにあの距離では伝わらないと。


 おじ様が「距離が関係あるのですか」と問い「当然だ。異能は万能ではない」と坊ちゃまが返す。


「甘いものを置いていってやるが、一度に食べるな」

悪いクセがつくといけない、らしい。





 全てにうなずいたリリーは、今夜も湯を使っていつものように暖炉に背中を向けた。


 エドモンド坊ちゃま専用のようになっている一人掛けソファーの座面に両手をのせ顎を置き、濡れている内に三つ編みにした髪は乾かしもせず、ただ火の暖かさを楽しんでいる。


 今週は母の泊まり客が二人あったせいで、二回もここへ来ている。たくさんの部屋があり、どれも使えるように綺麗に片付いているが、この部屋――坊ちゃまの寝室と居間――以外使う気にならない。


 前回来た時もリリーは四十五分に一回、火掻き棒で薪の間に空気を通しながらのんびりと過ごした。普段のおじ様の仕事を見て、覚えてしまった。


 昨年の今頃は寒さに震えながら外にいた。

年々母の泊まり客が増えて家に居づらくなる中、この部屋は本当にありがたい。


 こんな幸運あるんだろうか。どうご恩を返したらいいのかわからない。こっそりおじ様に相談すれば「お嬢さんが幸せに暮らす事、それがご恩返しになりますよ」と頭を撫でられた。


 それがどうしてご恩返しになるのかは、全くわからない。大人になってもう一度考えたらわかるのかもしれない。よく覚えておく事にして、考えるのはやめた。


 いつも坊ちゃまがお酒を置いている小卓には、小分けしたお菓子が十個置いてあった。

十個食べ終われば、坊ちゃまとおじ様は戻って来る。


 今はお仕事で街を離れているのだ。戻るまであと二日。次に来る時には、坊ちゃまは戻っているかもしれない。


背中を火であぶりながら、リリーはソファーに伏せてトロトロと眠った。



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