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家令の息子、花を買う・1

 道向こうを男の子が楽しげに歩いている。

リリーより四・五歳年上に見える。その内にリリーの見知った顔があった。

「おじ様の息子さんエリック」だ。



 今日よりずっと前。道案内をした後、初めて雨が降った日にエリックは現れた。


「君がリリーちゃん?」


朝からひとつも花の減らない篭を下げて、雨上がりをひたすら待っているところに、名を呼ばれた。


「そうよ。お兄さんは?」


 声を掛けて来たのは、リリーより幾つか年長の男の子。布のカバンと袋に入れた細長い物を持っている。


「僕はエリック。父が前に道案内でお世話になったね。市庁舎まで行ったの覚えてる?」


 リリーはコクリと頷いた。まだそんなに前じゃない。「父」と呼ぶならおじ様の息子さんか。髪色が同じだ。


「おじ様はお元気?」


 リリーが聞くとエリックは驚いた顔をした。まさかこんな子供に聞かれるとは思わなかったのだろうけど、商売用の慣用句だ。


「おかげさまで変わりないよ。リリーちゃん……えっと君は?」


言い直そうとするのをリリーが止める。


「リリーでいいわ。お友達はみんなそう呼ぶから。元気じゃないわ。今日は花が出ないもの」


リリーの言っている意味がわからない様子のエリックに教える。


「朝から今にも雨が降りそうだったでしょう。こういう日はお出掛けは止めるものよ」




 ああそれで。エリックは朝の会話を思い出す。

出掛けに父――エドモンド・セレストの家令を務めるロバート――が「リリーお嬢さんを見つけて花を買ってきたら、小遣いをやろう」と言った。


普段、小遣いは必要な時しかくれない。珍しいこともあるものだと思った。


 買った花はエドモンド様の宮に届けるようにと、カードに一筆書いたものを渡された。家紋入りのカードだ。紛失したら大変なことになる。


 父母のしていた会話から、どの辺りに「花売りのリリーお嬢さん」がいるのかは見当がついた。

会ってみると可愛い女の子だった。自分の周囲の女の子達と違って、男の子のようにはっきりと物を言う。


花を買い宮に届けて家に帰った。


帰宅した父から様子を事細かに聞かれ、小遣いをもらった。思い付いて聞いてみる。


「また花をあの子から買ったら、宮に届ける?」


父はつかの間考えるそぶりをして、胸のチーフに手をやった。


「雨の日以外は探さなくていい。見かけたらで」

逆を言えば「雨の日は探して買ってきなさい」だ。


「他の客と話し込んでいても、もしお嬢さんが『キレイに』笑っていたら、行って花を買いなさい。花を買うのなど直ぐに済むのだから、前の客が去るのを隣に立って待てばいい」


そう言ってチーフをくれた。チーフの紋を見せれば外門も内門も通して貰えるようにしておくからと。


 あの子は確かにかわいいけど「キレイに笑う」って何だろう。浮かんだ疑問は考える前に忘れた。



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