暗闇に黒い玉を見つけた貴公子・2
続けても楽しい話でもないが。
「最近、母親の客は減っており、その新しくついた客は払いが良いのだそうです。お嬢さんは気付いていないようですが、肉屋の主人は『最近ポツポツとついた客は母親ではなく娘込み、リリー狙いの客だ』と申しておりました」
若き主人の前ではさすがに口にしないが、成長を待っている男はまだいい方だとロバートは思う。男の中には幼い少女を好む者もいる。今まであの子が何もされていない訳はない。そう思うほど可愛らしい。
これまでも嫌な目には数多く合っているだろう。どうやって切り抜けたのか。切り抜けられたのか。
「異能持ちだ」
一言エドモンドが口にした。
「誰も教えていないだろうし、本人も気付いていないが、精神系の異能持ちだ。それで何とか切り抜けて来たのだろう。今までは」
ロバートは主人の言葉に納得した。自分は異能とは縁がないが、異能持ちは勘が鋭く危険を回避したり、相手の気持ちに働きかけたりする事も可能なのだと聞く。
そして主人エドモンドは、極めて能力の高い異能持ちだ。それにしても、どこでリリーが異能持ちだと気づいたのだろう。
「手ですか。初めて会った時に手を引いて案内されて、お気付きになりましたか」
外の暗がりから目を離さずにエドモンドが肯定した。
「ずっと手から伝わってきた。大丈夫、間に合う、怖いことは何もない、と」
「……エドモンド様に、でしょうか。それとも自分に言い聞かせて」
「分からんな。本人は使い方も満足に知らないのだろうし」
とうとうロバートは切り出した。
「今晩だけ、連れ帰りますか」
主人エドモンドの住居は、別宮とはいえ宮殿の敷地内だ。離宮内には使用人も多い。人目につく。
連れ帰るならロバートの屋敷だ。妻子がいるが説明すれば問題はない。
「今すぐ何か事が起こるというわけでもないだろう。家にいるよりもあの場所が安全だと本人が思ったのなら、そう問題はないはずだ」
常と変わらぬ口調でエドモンドは、ロバートの提案を退けた。あっさりとした返答に違和感を覚えながらも、ロバートは頷くしかない。
沈黙のなか屋敷に着くまで、エドモンドの考えについて思考を巡らせる。
「異能持ちだからその身に危険はない」
「まだ子供だから本気で襲われることはない」
「花売り娘が気にかかる存在ではなくなった。つまり飽きた」
急な態度の変化には、どれもしっくりと来ない。
この主人がリリーに興味を失ったとしても、自分の出来る範囲でリリーを守ってやろう。
ロバートはそう決めた。




