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夜のひそやかな打ち明け話・1

 予定通り馬車で上流まで行き、貸し切ったボートで泊まる。料理人は先に着いていて、舟の内で夕食となった。


 薄ピンク色のワンピースに着替えて食卓についたリリーは、カトラリーを上手に使い「初めて」と嬉しそうに温かい魚のグリルを味わった。



「ウサギを見て、鹿の赤ちゃんも見たし、お舟でお魚を食べて、お舟で寝る。楽しいことばっかり」


そう評しながらリリーは眠りについた。





 ここはどこだったか。

リリーが目覚めたのは見慣れない部屋。少し揺れていることで、ここは舟のなかだと思い出した。


 隣に寝ているはずのエドモンドがいない。ベッドをおりて探しに出た。甲板に続く扉が開いている。


 見つけたエドモンドは、甲板に出した椅子に座り水面を眺めていた。月の光を浴びた姿はあまりに静かで、邪魔をしてはいけない気持ちになる。


 こんな時、やっぱり坊ちゃまは天使さまだったのだと思う。リリーはベッドに戻ることにした。



「どうした、目が覚めたか」


 いきなり涼やかな声がして、思わず飛び上がった。見つかっていないと思ったのに、ここにいると知られていたらしい。


「まるでウサギだな」


 振り返るといつもより輝いて見える金茶の瞳がリリーに向けられていた。エドモンドが両腕を広げる。


 来いと誘ってくれているのに。同じ月明かりの下に行くのがためらわれて、影が足を止めさせる。自分では一歩が踏み出せない。


「迎えが必要か」

 呟いたエドモンドが立ち上がって来ると、リリーを慣れた手つきで抱えあげた。そのまま元いた椅子に腰掛ける。


「坊ちゃま、何をしていたの」


 ようやくリリーが声を出した。見たところお酒もない。おじ様ロバートも休んでいるらしく、甲板にはエドモンドとリリーふたりきりだ。


「寝つかれなくて出ただけだ。――私を探しに来たのか」


問われてうなずく。


「悪いことをしたな」


 すっかり目が覚めてしまったけれどかまわない、と伝える。


「楽しんでいるか。――その割には浮かない顔だ」

リリーの頬を指で撫でたエドモンドが指摘する。


浮かない顔かどうかは自分では分からないけれど。

「そんなことない」


「気になる事があるのなら、言ってみろ」

リリーの否定を聞き流したエドモンドか、穏やかに促した。


 気になるというほどでもない。きっとうまく言えないと思うリリーの頬をするりと撫でるエドモンドは、話すまで待つつもりらしい。


「うまく言えないと思う」


 慎重に伝えると「かまわない」と返る。そうまで言うならとリリーは口を開いた。



「ウソをついてはいけないのに、したい事をするとウソばっかりになるの」


 母さんには「門番の仕事をする」と伝えた。そうしなければお出掛けができないから。


「みんな私のことを『親孝行ないい子だ』って言ってくれるけど本当は違うの。いい子に見えるようにしてるだけで、母さんのことは」


 そこで言葉を切った。言っていいのかもわからない。エドモンドの視線に促されて勇気を出して言う。


「そんなに……好きじゃないの」


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