第78話 大魔吸石
『ゆくぞッ!!』
『『『オオオッッッ!!』』』
フラードを始めとした、龍達が"息吹"の構えを取る。
俺やヤマヒメ、グレッシャー達はすぐに後方へと退避する。
ガード恐竜ロボットは放置だ。射線上にはいないので多少被害を受けても
恐らく、完全な破損とまではいかないはずだ。
そして、フラード達が"息吹"を放った瞬間だった。
『……ッ!?』
『……何だアレは……ッ!?』
不意に城を覆っていた結界が消え、無数の息吹が城を撫でた。
しかし、城が消滅するどころか、
逆に息吹が何かに吸い込まれるかのように消えていく。
息吹を吸収している、何か。
……それは、遠巻きに見ると、何かの塊に見える。
『フラード……アレは一体なんだッ!?』
『……恐らく……"大魔吸石"……だ……!
普通はダンジョンの奥地にしかない希少な鉱石のはず……!』
『……あの、結晶みたいなのが?……名前と今の現象を見るに、
魔力を吸収する鉱石ってことか…………?』
『……それだけじゃない……!……反射してくるぞッ!!』
『……反……ッ!?』
俺が声を漏らしたところで、大魔吸石が眩く輝き……、
膨大な魔力が無差別的に解き放たれた。
『やばいッ!!』
『分かっているッ!!』
フラードが大地を一気に隆起させ、帝都を覆うように巨大な壁を創り出す。
しかし、光線が一瞬で壁を抉り、溶かした。
「"吸魔"ッ!」
ヤマヒメを中心に薄い墨のような膜が広がる。
その膜に反射光線が触れると、魔力に分解されて吸収されるようだ。
「うっく……何という、濃密な……魔力ッ…………」
『過剰供給になっている!すぐに吸収を止めろッ!』
フラードが強引に尾で吹き飛ばす形でヤマヒメの魔法を解除する。
そして、フラードは光線の中に飲み込まれていった……。
『……はぁ、はぁ……おお~い……皆さぁん……』
そんな中、土の中からミスリルが這い出てくる。
その後に続いて、ダマスカスとヒヒイロカネもよろよろと姿を見せた。
『お前達、無事か!』
火龍レッカたちもどうにか光線をやり過ごして合流してきた。
だが状況はよろしくない。
見たところ、ダマスカスは魔力切れを起こしている。
病み上がりであることが祟ったのかもしれない。
ヒヒイロカネは身体の一部が欠けている。
光線を躱しきれず、掠ったらしい。
あのヒヒイロカネのボディが掠っただけで消し炭になるとは、
凄まじい威力であるとしか、言いようがない。
ミスリルは外傷はないが、疲労の色が見て取れた。
他には海龍アビスが少々肉体が光線で焼かれていたり、
ガード恐竜ロボットの幾つかが巻き添えを受けたり、
逃げ遅れた昆虫族の仲間が光線に飲まれている。
そして、ヤマヒメが光線の魔力を
取り込み過ぎて、身体を壊してしまった。
「す、すまぬ……ゴホッ……」
座り込み、青い顔をして、咳き込むヤマヒメ。
しかし彼女が咄嗟に周囲の光線を取り込んでくれなければ
被害はより甚大だった。彼女は十分な働きをしてくれたのだ。
『ありがとう。おかげで、ここにいる皆は何とか助かってる』
「……そう言ってくれれば、ゴホッ……ありがたい、のう……」
『無理はするな、少し休め』
ヤマヒメは飛んできたハイパーホーン達に任せよう。
今は、どうも目の前に集中しなきゃならないらしいからな。
よく見れば、ぽつぽつと周りに騎士も集まって来ている。
……まさか、増援がもう……?……何処から……。
……いや、今それを考えていても仕方がない。
向こうの態勢が立て直される前に叩かなければ。
『フラード……大丈夫か……?』
『……む、ぅう……』
フラードは少しフラつきながら起き上がる。
僅かに、鱗が焼け焦げていたりするものの、
目立った外傷は見られない。
あの強烈な光線をまともに浴びていたはずなのに、
そんな軽傷で済むとは、余りにも馬鹿げた耐久力としか言いようがない。
『……やってくれたな。……人間共……』
フラードからは怒りの感情が伝わってくる。
仲間が傷つけられたことがかなり頭に来ているらしい。
『……出るぞ。戦える者は、各々雑魚を殲滅しろ!
奴らに防備を整える隙を与えるなッ!!』
俺の言葉を皮切りに昆虫族達が散開する。
それに合わせてレッカとクライが騎士達が
固まっている所へ魔法を浴びせていく。
龍の魔法に薙ぎ払われていく騎士達は気にするに値しない。
昆虫族も、数に物を言わせて騎士達を袋叩きにしている。
バトルビートルが攻撃を受け止め、アントマジシャンを抱えた
キラーアントフライが空中からの魔法攻撃でしつこく攻撃しているようだ。
当然、ジェネラルアントの指示によるものである。
数に物を言わせた消耗戦。個々の戦力差をカバー出来るので悪くはない。
騎士一人一人は昆虫族数匹程度、造作もなく狩れるほどの精鋭揃いだ。
しかし、今回は数が非常に多い。
俺はグレッシャースライムと、
フラードを伴い彼らに騎士達を任せて城へと直進する。
が、大魔吸石が目前に迫って来たところで、
三人の人間に道を阻まれた。
「おい、魔物どもがまた来やがったぜ」
「あの遠くにいるアレは……もしや……魔鉱龍!……こんなところで、
お目にかかれるとは思いませんでしたね」
「魔鉱龍なぞ今はどうでもいいだろう!お前達、油断はするなよ……!」
あの三人組だ。ガード恐竜ロボット達の猛攻を
しのぎ切っていたあの三人だ。城に誰も近づけさせまいと、
入口で立ちはだかっている。
『……グレッシャー』
『……分かっている、マロ』
『人間共……』
三人組の額には汗が浮かんでいる。
俺やグレッシャースライムよりも、明らかにその視線は
フラードの方へと向いている。俺はフラードに念話を飛ばした。
その念話を聞き取ったフラードは、あからさまに不機嫌な顔になる。
乱暴に、尻尾が振るわれた後、俺の方を睨んで答えた。
『……死ぬなよ』
『……ああ』
「「「「グオオオオオッッッ!!!」」」」
「ぬおおッ!?」
「キャッ……!」
「……ッ」
フラードが咆哮すると同時に、
その巨体の重みを感じさせないほど、跳躍した。
飛び掛かった先には、大魔吸石があった。
「何をする気だッ!?」
三人組のうち一人が叫んだ。
『邪魔だァァァァァッッッ!!』
フラードが尾の一本から剣を具現化させる。
天叢雲剣だ。フラードが元のサイズに戻っているからか、
そのサイズは今までに見たことがないほどに巨大だ。
剣先が光り輝き、その巨大な刀身は存在感を放っていた。
「ま、まさか……」
三人組のうちの魔術師らしい女が顔を青くした。
『よそ見かッ!』
一気にダッシュして魔術師の女へと迫る。
魔術師が、俺の接近に気付き、杖を構えた。
両脇から空気の乱れを感じた。風魔法の膜が斬られる感覚だ。
ガギギィッ!!と金属がぶつかる音が響く。
「ぬッ……!」
「な、なにィ!?」
『チィィィ……ッ!』
両脇にいた男の槍と盾は、俺の翼が防いでいた。
そして、俺の前脚による蹴りは魔術師の女の張った防壁に防がれている。
防壁は大きくひび割れているものの、破壊には至っていない。
全身に仄かに神力を帯びた
状態だというのに防がれた。両脇の攻撃が防げただけだ。
背後から氷柱が飛んでくる。グレッシャースライムの攻撃だろう。
両脇の男二人はそれをアッサリ躱した。
だが翼が自由になった。そのまま風魔法で
周囲に強風を巻き起こしながら二撃目を防壁に喰らわせる。
「クゥッ……!」
障壁が破れたことで、女が顔を顰める。
そのまま俺は立て直した左脚で頭を踏み潰しにかかる。
男二人は俺を止めようにも、風とグレッシャーの氷柱に
邪魔されて間に合わない。
(取った……!)
そう思った瞬間、女の姿が消える。
前脚が空振り、空気を撫でるだけに終わる。
『何……ッ!?』
俺が驚いた瞬間、ほぼ同時だった。目の前が強烈な閃光に包まれていく。
そして、城の上部で大爆発が起こった――。
※魔物解説
・グレッシャースライム
Aランク。スライム系の魔物。
全身が凍って、氷塊のようになっている大型のスライム。
リラックス時は普通のスライムのようにドロリとした粘体になる。
自身の身体を氷柱にして飛ばしたり、
その巨体で押し潰すのが主な攻撃手段。
身体が氷になってはいるが、熱に弱いわけではない。
アスと共にいる個体は、
非常に知能が高く将来の期待値は高い。
高位のスライムらしく、高い再生能力を持つ。
身体のサイズを大きくすることも可能で、
巨大化することで、文字通り氷河になる。
ただし、十分な量の魔力が必要なので、気軽にはできない。




