第32話 帰還
『それにしても、何でこんなところで封印されたんだ?』
『知らん。……ただ、長い年月が経つうちに
洞窟がダンジョンに変わったのかもしれんがな……』
フラードに封印について質問すると機嫌を悪くした。
引き抜かれた剣を飲み込みながら返答をしているせいか、
表情には出てないけど俺はなまじフラードと
魂で魔力連結をしているから感情まで感じ取れちゃうんだよな。
これ以上フラードの機嫌を損ねることもないかと思い、
フラードの救出にも成功はしたため、
俺達はダンジョンからの脱出することにした。
道中で出会う魔物は手早く処理し、食料にしていく。
フラードは融合したことで隠密系のスキルを失ったらしく、
その関係で行きの時より帰りの方が少し魔物に出会いやすかったが
まあ、些細なことである。
数日かけてダンジョンの入り口まで戻る。
戻る道中で一度人間に遭遇し、襲われたが処分した。
強さ的には最初に襲って来た奴らと大差ないので同じような奴らだろう。
まあ、俺のレベルがさらに3つ上がったのは美味しかった。
人間は俺にとってはレベル上げに向いているようだ。
これからは正当防衛が通じる人間は積極的に狩ろう。
元人間としてはどうかって言われても、
命には代えられないからね、仕方ないね。
まあ、帰り道であったことはそんなくらい。
その後は大したイベントもなく、普通にダンジョンを脱出した。
そして、地下通路を越えてついに山に戻ってきた。
キラーアントの巣の出入り口まで来ると、
どうやら俺達が近付いているのを察知していたらしく
大勢のキラーアント達がワラワラと集まってきていた。
一糸乱れぬ動きで両端に整列するキラーアント達。
そして、ロイヤルガードナーアントに周りを固められた
マザーアントが俺達を出迎えてくれた。
『アス様。フラード様。お帰りなさいマセ。
此度の遠征、お疲れ様でしタ。フラード様始め皆サンのそのお姿を見る限リ……』
『ああ、見ての通りばっちりだな。
マザーもみんなもわざわざ出迎えてくれてありがとうな』
『いえいえ。留守を任せられた以上、当然ノことデス』
『そうか。それじゃあみんな少しは休みたいだろうし、
また改めて、俺達が留守にしていた間の出来事を教えてくれ』
『ハイ。お任せください』
その後、ハイパーホーンが巣穴に戻っていったのを見届けて、
それから俺達はそういえば神殿のようだった家に帰って来た。
俺達がダンジョンに遠征に行っている間に山の寒気は少し和らぎ、
次第に近付く春の足音を感じさせ始めていた。
『というか、以前グレッシャーがシャープだった時に
放った氷柱弾とかで出来た破損個所が修復されているな……』
『そうなのか?……そういえば、そんな気がしないでもないな』
俺達が久しぶりに家の内部を見ていると
見慣れない蟻達が大勢やってきて、俺達の前で整列した。
『アス様!フラード様!
無事ニ御帰還された事、我ラ一同嬉しく存ジマス!』
『ああ、うん。君たちは?』
『ハッ!失礼致シマシタ。
私は"ジェネラルアント"というハイキラーアントの上位種デあり、
ハイキラーアント達ヲ纏める指揮官でもアリます!』
『なるほど。ハイキラーアントの上位種なのか。
後ろに控えてる多種多様な蟻達は?』
『ハッ!私の後方ニテ控えてイルのは
防御能力に優レタ"シールドアント"、
毒を用イル戦法を得意トスル"アシッドアント"、
魔法を扱う"アントマジシャン"となりマス!
いずれもキラーアントから派生シタ上位種でありマス!』
『な、なるほど。随分色々なのに進化したんだな』
『ハッ!アス様の託けにより、建物の警備を担ったものに、
建物内の魔石ヲ自由に振る舞ってヨイとの事を受けてオリます。
魔石には時にヨッテは進化を左右するコトもアリます!
彼らハその恩恵ヲ強く受ケタ者達なのデス!』
『ああ、なるほど。そういう事か』
俺はかつて、ただの馬から魔石一つで
アクアホースという魔物に進化したことを思い出した。
そういえば、魔石は進化に関わるんだったなぁ……。
いくらレベルが上がってても、質のいい魔石を食していないと
上位の魔物に進化することは難しいってことなのかね?
そう考えると、中々よくできたシステムというか……。
ただ、熾烈な争いを呼ぶシステムだなぁ。
俺はどちらかといえば、平和に生きたいところなんだけどなぁ……。
……あ、そうだ。
『えーっと、魔石ってどのくらい使った?』
『ハッ。元々貯蓄してアッタものに加え、少量デスガ
奉納シテ補充されタ量から差し引イテ、およそ半分は残ッテオリマス』
『そうなのか……まだ半分なのか、
もう半分しかないと思うべきなのか……まあいいか』
俺はドロリととろけてだらしなくなっていた
グレッシャーを呼びつける。
そしてグレッシャーに収納していた
ミスリルゴーレムの魔石を吐き出させた。
『オオ。これはマタ、見事な魔石デスナ!』
『そうだろ?今回のダンジョンのお土産だ』
ジェネラルアントも魔石の大きさに驚いているようだ。
俺は魔石を四等分に砕く。そのうちの一つをアントジェネラルに渡す。
『これをマザーに渡してくれ。
ダンジョンのお土産だということと、子供達と一緒に留守番ご苦労様ってな』
『オオ!母上モさぞかしお喜びにナラれるでしょう!
喜んで運バセテいただきマス!』
ジェネラルアント達は喜々として魔石を運んで行った。
『さて、こっちはグレッシャーにな。今回のダンジョンでもありがとな。
特に身を挺して仲間を守ったのは凄かったぞ!グレッシャー!』
『フフン。当然マロ』
グレッシャーは魔石を受け取って建物を後にした。
『さて、これはハイパーホーンに……。……あ、フラードの分がないな』
『うん?私の分は必要ないぞ?』
『いやでも、フラードのブレスのおかげで
ミスリルゴーレムに致命傷を与えれたわけだし……。
俺達だけだと、回復を繰り返されて恐らく倒せなかっただろうし』
『……しかし、そもそも私が頼まなければ、彼らが重症を負う事もなかった……。
私には、その魔石を受け取る資格は、ない』
『……そんな事、無いと思うけどな』
『……え?』
『確かに、アイツラもピンチになったし、
俺もちょっとカッとなったところもあったけど……。
でも、俺からすれば、お前がいなかったらそもそも
マザー達含めてアイツラと仲間になることもなかっただろうしさ』
『……そう、なのか?』
『ああ。魔物の中にも優しい奴もいて、
念話とかそういう手段で意思疎通ができることを
教えてくれたのも、フラードだと俺は思っている』
『……』
『もしフラードがいなかったら、俺は右も左も分からないまま
ひょっとしたらあの洞窟で……それこそホワイトドラゴンとかに
殺されていたかもしれない。そういう意味でも、
俺はフラードには本当に色々と助けられてると思うんだ』
『……』
『だからまぁ、何だ。
こうやって俺が少し無茶して戦ったのも
お前への恩返しみたいなもんなんだよな。
それにもちろん、俺も仲間達を死なせるつもりはないけどな。
そもそも、そのために治癒魔法だって練習してるわけだし』
『……そうか』
『というわけで、俺の分はいいからさ。この魔石は、お前が食え。
……たまにはフラードが食べてもいいだろ?』
『……』
フラードは静かに砕いた魔石の一つを片方の頭で口に含んだ。
『アス……』
『……?』
もう片方のフラードが俺を呼びつけるので近くまで来る。
そして、そのまま俺は口に何かを押し付けられる。
…………えっ?
口の中に何かが入ってくる。
高純度の魔石であろう魔力の味が広がる。
「~~~ッッ!?」
ち、近い近い近い!?あわわわわ何コレどういうこと!?
状況を飲み込めないまま魔石の魔力だけが
身体に染み渡っていくのを感じる。
やがてフラードの顔が離れていく。
『こうやって誰かと半分ずつ分けるのも、悪くないな』
クスリと笑みを浮かべて、フラードが去っていく。
俺はただその様を茫然と見届けることしかできなかった。
……ただ、その時だけはフラードの
蒼い龍麟が一層美しく輝いているようにも思えた。




