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第40話 隣に座っていた人

*

その頃、B-ブロードの拠点。

ジョウは長椅子に寝転がり、天井を見上げていた。記憶の断片が戻るたびに、胸の奥に、懐かしいような切ないような何かが滲む。うまく言葉にならない。


「ジョウ」


ヨシが声をかけてきた。


「何してるの、そんなところで」

「考え事」

「珍しいね」

「ワシだって考え事くらいするよ」


ヨシが隣に腰を下ろした。いつもの表情のまま、少しだけ遠い目をしている。


「よっさん」

「うん」

「ワシの母さん、どんな人だった?」


ヨシの手元が、ほんの少し止まった。


「……莢さんの記憶、あるの?」

「ある。子供の頃に、少しだけ」


ヨシは視線を落とし、記憶を探るように黙ってから、言葉を零した。


「真っ直ぐな人だったよ」


言葉を選ぶ間があった。


「僕が泣いてると、何も言わずに、隣に座ってた。それだけなのに、不思議と泣き止むんだ」

「……ワシ、そういうの、できないな」

「うん。ジョウは、隣でうるさいから」

「ひど」


ヨシの口元が、柔らかく緩んだ。


「でも、ジョウみたいな人かな」


喉の奥が、かすかに鳴っていた。

戦いの振動とは違う、もっと深い場所から来る、温かい共鳴。


「そっか」


ジョウは目を閉じた。扉の向こうの母のことは、まだ正確に思い出せない。

でも、ヨシの言葉が、その面影をほんの少しだけ鮮明にしてくれた。


「よっさん」

「うん」

「ワシ、全部思い出したとき、ちゃんと前を向けるかな」

ヨシは、少し答えなかった。

「向けるよ」

「根拠は?」

「莢さんの息子だから」

「それ、根拠になってる?」

「なってるよ。大真面目にね」


部屋の奥から、トウゴの声が飛んできた。


「うるさい。寝るなら寝ろ、話すなら話せ。どっちかにしろ」

「両方同時にやってるんだよ、ごーさん」

「そんな器用なことが出来るか」

「ジョウはできるんだよね、なぜか」

「……意味が分からん」


ジョウは、そのやり取りを聞きながら、深く息をした。

来縁《らいえん》が話してくれる日が、もうすぐ来る。

宝璽《ほうじ》との決着も、扉との向き合い方も、全部まだこれからだ。

記憶が戻るたびに、世界が少しずつ重くなる。

それでも今夜は、この声たちがここにあった。

トウゴの低音が、ヨシの高音が、ジョウの中音が、

小さな部屋の中で、静かに重なっていた。


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