第22話 招かれざる声
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三人は、ほぼ同時に口元へ手を運んだ。
群青、白銀、淡い金色。三つの光が、路地に立ち上がる。
トウゴの相手は、黒い衣服の二人。囲むつもりだろう。
左右に開き、正面から一人が仕掛ける。
その展開を読んで、トウゴは溜息を噛み殺した。
動きが教科書通りすぎる。封印派の末端はいつもそうだ。
型を教わり、型通りに動く。先が読めすぎて、笑いそうになる。
「行くぞ、統護!」
正面の男が声を張った。かつての名で呼ばれるたびに、耳の奥がざらつく。
だが今は、それを噛み潰す方が先だった。
トウゴは動かない。二人の位置を、網膜に焼き付ける。
(来い。教わった通りに、来い)
正面の一人が踏み込み、鍵が伸びる。
トウゴは半歩だけ横にずれた。鍵が空を切る。
その腕が伸びきる、刹那。
「――クローズ」
息を吐くような呟き。腕ごと、動きが封じられた。
静かに、逃げ場なく、止まる。
「なっ――」
男の声が、途中で途切れる。声帯まで固まったのだろう。
すかさず左が肉薄する。速さは悪くない。これも読んでいる。
(お前もだ)
トウゴは群青を握ったまま、重心だけを沈めた。
床すれすれを這う光が、左の足元をさらう。
音はなかった。相手は、トウゴが動いたことにすら気づかない。
「何だ、今の……」
戸惑いの声が、体勢を崩す呻きに変わる。
崩れた体勢へ、沈めていた腰を伸ばし上げ、その勢いで群青の鍵を振り上げた。
横面を打つ。鈍い衝撃音とともに、男が膝から崩れ落ちた。
トウゴは振り返らない。
ふと、その動きの端々に、誰かの背中が重なった。
教わった記憶ではない。ただ隣で、何百回と見てきた誰かの型。
「二人がかりで、型通りに来る方が悪い」
独り言のような呟きだった。
歩き出した横顔に、一瞬だけ笑みが浮かぶ。
型をなぞるだけの連中を、型ごと封じた。
それだけのことだったが、今夜は少しだけ、気持ちよかった。
*
ジョウの相手は、緑がかった鍵を持つ白シャツの男だった。
鍵の引きが速い。間合いを広く取り、遠くから削ってくるタイプだ。
近づこうとすれば鍵が走り、下がればまた距離を開けられる。
そのループに嵌める気だろう。
「ほら、どうした。届かないなぁ?」
軽い調子の挑発だった。実際、届いていない。
ジョウの鍵は、三度続けて空を切っている。
(くそ、同じ手には乗るかよ……いや、待て)
三度目で、仕掛けが見えた。
一秒だけ考える。いや、答えは最初から出ていた。
――前だ。
下がるフリから、一転して踏み込む。相手の予測の逆を突く。
「――は?」
男の声が、戸惑いに変わった。
すれ違う鍵。届かない。届かせる気もない。
低く潜り込み、懐へ。鍵の死角だ。
引き戻そうとする焦りより、ジョウの突進が速かった。
胸元へ肩をぶつける。止まらない。
足を踏ん張り、体重のすべてを乗せて押し込んだ。
(下がるな。下がったら、終わりだ)
よろめく相手。一歩、二歩。
二歩目が地面に着く前に、ジョウの鍵が横一線に薙いだ。
淡い金色の光が、一閃。
考えて動いたわけじゃない。気づけば、鍵が走っていた。
「がっ……!」
鍵を弾き飛ばされた男が、膝をつく。
ジョウは立ち尽くしたまま、深く息を吐いた。
ぶつけた肩が鈍く痛む。喉が、小さく鳴った。
「なんで……間合いを制していたのは、こっちのはずなのに…… 」
膝をついた男が、掠れた声で呟いた。ジョウは答えなかった。
答える言葉を、今は持っていなかった。見下ろした敗者に、かける言葉もない。ただ、その身体は、次の相手を探していた。
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ヨシの相手も、白シャツの男だった。迷いのない、最速の踏み込みで間合いを潰してくる。
白銀の鍵のリーチが長いと見越して、懐に入れば長物は死ぬ、という計算だ。
「懐に入られたら、終わりだと思ってる?」
ヨシが飄々と呟いた。相手には届かなかっただろう。届かせるつもりもなかった。
(なら、歓迎するよ)
間合いが潰れた瞬間、ヨシは白銀の鍵を逆手に持ち替えた。
柄を下に向け、床へ突き立てる。両手で握り、全体重を預けた。
鍵を軸に、身体が宙を舞った。
鞭のようにしなる右足が、弧を描いて相手の顎を真横から蹴り上げる。
「――え」
男の間抜けな声が、宙で途切れた。顎が跳ね上がり、身体が浮く。
ヨシは着地と同時に鍵を蹴り上げ、片手で掴み取った。
回転の残像をまとったまま、浮いた身体へ白銀を突き出す。
(そこ)
切っ先が、相手の鍵の核を空中で貫いた。
光が四散し、ガラスのように砕ける。
男が床に落ち、膝をついたまま、呆然と砕けた鍵を見下ろした。
ヨシは鍵を軽く回し、肩に担ぐ。
「……思ったより、決まったね」
飄々とした声だった。口角も、楽しげに上がっている。
けれど、着地の衝撃は右足の付け根にまだ熱を残していた。
その時。
「あれー、随分と物騒なことになってるねぇ」
呑気な声が、路地の入り口から響いた。




