37 捜索
ところどころ赤く染まった瓦礫の上を、魔物たちが悲惨な顔で行き交っている。
6割方崩れている。
それでも、間近に見上げるヒュッポース要塞は大きかった。
「負傷した魔物が多いな。これほどの損害なら明日の攻撃はないかもしれない」
ルシウス君の声が3メートルくらい横から聞こえた。
さすがの顔面発光イケメンも透明化魔法で姿は見えない。
「あと20分くらいで魔法の効果が切れると思う。それまでにツネッコを見つけ出して撤収するよ」
「わかった。なら、ここからは手分けして捜すほうがいいね」
「わたくし、ルシウスと離れ離れなど絶対に嫌ですのことよ! どこですの、わたくしの愛しいルシウわひッ!?」
アホが転んだ音がした。
ほんとアホだな。
私はBランクギフト【騒乱犬/砂漠荒野用】を召喚した。
見た目は、犬型のロボ。
ケツの赤いボタンをポチッと押すと、
「ヴぅわん! ヴぅわん! ヴヴわぅわん!」
神経を逆なでする大音声で鳴きながら、派手に砂ぼこりを上げて爆走し始めた。
要塞からどんどん離れていく。
ポチに気づいた歩哨のゴブリンが甲高い声を上げ、生き残った半人半馬の魔物たちが目の色を変えて追いかけていく。
これで多少だが要塞が手薄になる。
「姿は消せても、音と匂いは消せない。今から全員オナラ禁止ってことで」
私はルシウス君たちがいると思われる場所にそう声をかける。
「シーナさんなら心配無用だと思うけど、どうか気をつけて。必ずみんなで無事に再会しよう」
「まあ、ルシウス! わたくしのことは気にしてくださらないの!? ルシウスったら、どこですの!? わたくしのルシウス!?」
どうやらもう1匹、ポチがいるらしいな。
女神のギフトよりよっぽどうるせえ。
魔物の皆さん、あのへんに透明な駄犬がいるんで、しばいちゃってください。
「そんじゃ突入!」
「ニャーン!」
透明なアルニャンを頭に乗せて、私は要塞に踏み入った。
が、すぐに足が止まった。
地獄絵図が広がっていた。
死屍累々。
砕けた石材と一緒に持ち主不明の手足が無数に転がっている。
瓦礫の山からは湧き水みたいに血が流れ出ている。
砲弾を逃れて物陰に集まり、崩れてきた石壁にまとめて潰された。
そんなところだろう。
同情はしねえからな?
ああなっていたのはリトマスの領民たちだったかもしれない。
私は開いている扉から建物の中に忍び込んだ。
「瓦礫のほうは捜さないのかニャ?」
「時間かかるからね。無事な前提で、崩れてないところを捜す」
ツネッコの安否と位置がわかる便利ギフトがあればよかったんだけど、ないものは仕方ない。
「アルニャン、嗅覚で捜してくれ。犬ならできるぞ? まさか言わないよね? 犬にもできることができませんなんて」
「言わ……ないニャ」
「どう? 今すげえ嫌味な言い方だっただろ? 腹立つか? ねえ、どんぐらい腹立つ?」
「筆舌に尽くしがたいニャ。結果で見返すニャ」
すんすん……。
すんすんすん……。
透明な何かが匂いを嗅いでいる気配がする。
「……ニャっ! こっちニャ!」
「いや、どっちだよ。わかんねーよ……」
「こっちニャン!」
ぷにぷにぷに……。
爆風で通路に積もった砂。
そこに肉球スタンプが押されていく。
「可愛い道案内だな」
「もっと褒めるニャ!」
「アカン! 超カワイイ! 後で食べよ!」
「ニャ……」
ぷにぷに、ぺたぺた。
肉球スタンプを追いかける。
薄暗い通路。
何度か角を曲がり、何度も魔物をやり過ごし、足跡は地下へと通じる階段のところで止まった。
手探りでアルニャンを回収。
肩に乗っける。
「この奥から匂うニャ。シーナの髪と同じ匂いニャ」
「ツネッコと同じシャンプーを使っているからね」
Cランクギフトのノーブランド品だけど、まさかの大活躍だ。
いや、大活躍はアルニャンだな。
犬よりすごい(誉め言葉)!
「やっぱりツネッコ、ここに来ていたんだね」
階段を下りる。
一段ごとに蒸し暑さが増し、動物園のような臭いが少しずつ強くなる。
腐乱臭も……。
最悪の想像が頭をよぎった。
「……」
一番下まで下りて、少しホッとする。
鉄格子が並んでいた。
地下牢だ。
閉じ込めるってことは生きているってことだ。
さいわい、看守はいない。
でも、罪人らしき魔物が投獄されている。
自分の糞にまみれて力なく横たわっている。
素敵なお部屋ですねー。
「……っ」
とある牢の前で私は足を止めた。
小さな黒い影が鉄格子の向こうで丸くなっている。
頭を抱えて震えている。
ぺたん、とたたまれた三角の耳には見覚えがあった。
「ツネッコ!」
私はZ字に剣を走らせた。
鉄格子をぶった斬る。
牢に飛び込んで小さな肩に触れると、あどけない顔がよく見えた。
ベソかいているけど、怪我とかはなさそうだ。
「よかったよ! 無事で!」
「っ!?」
大きな目が点になる。
あ、すまそ。
透明人間やってること忘れてた。
「私私。ほら、あんたの姉御で、パワーがえぐい女いるじゃん。美人の。私だって、私」
「ボクもいるニャン!」
「シーナの姉御……。アルニャンの兄貴?」
ちょうどよく透明化魔法が切れた。
泣きべそ顔にパーッと笑顔が浮かぶ。
「姉御おおおお……! オレ、怖かったよおおお!」
がばっ。
抱きつかれた。
よしよし、怖かったな。
魔物いっぱいだもんな。
「どかんどかん、すごい音がしてオレ死ぬかと思った……!」
んだよ。
怖かったのそっちかよ……。
「勝手に出ていってごめん、姉御」
「無事ならいいさ。後で一緒にあの渦巻きぶっ飛ばそうな?」
そのためにも、まずはここから脱出だ。
――パカラ。
不意に背後からひづめのような音がした。
シャ、と金属が滑るような音も。
この音は知っている。
剣を抜く音だ。
私は振り向きざまに剣を走らせた。
山勘的中!
がぎん、と剣同士がぶつかり合う。
私の10倍パワーが相手の剣をへし折った。
その直後、脇から伸びてきた別の剣が、私の剣を弾き飛ばしていた。




