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エピローグ

 アーリアがトレビドーナへ戻ったあと正式にリベルトとの婚約が発表された。

 それと同時に始まったのは花嫁教育。

 リベルトとの結婚は最短でも一年半後。

 長い道のりだとリベルトは不満そうだ。


 属国の王女との婚約ということで、少なからず意見が上がったらしいが、コゼント王国は一応は独立国。

 また、海への足掛かりとなるコゼントの地理的重要性を鑑みれば、アーリアを王妃に据えることに声高に反論する声も小さくなっていった。


 アーリアとリベルトの婚約披露の夜会。

 アーリアはこの日の夜会でリベルトと共に大広間に現れて、一曲目を彼と踊る。

 念願かなった舞踏会に、愛しい人と一緒に出席することができてアーリアは緊張もするけれど上機嫌だ。


「よかったな。念願の舞踏会」

 リベルトもそんな風に言ってくれる。

「ええ。あなたと踊れて幸せ」

 アーリアはにっこりと微笑んだ。

「緊張していないようだな」

「あら、わたしだって繊細なんですからね。昨日はガタガタしたものよ」

「繊細なやつは自分でそう言わないんだよ」


 踊りの最中にそんな風に言われてアーリアはぷうっとむくれた。

 じとっと睨みつければリベルトが幸せそうに相好を崩したから、なんだか照れてしまってアーリアも結局は噴き出した。


 最近リベルトは、アーリアが何をしても最終的には幸せそうに笑う。なんだか気恥ずかしいし、そういう顔をつくることができるのはアーリアだけだといいななんて思ってしまって、そんな自分の考えに頬を赤らめてしまう。


 リベルトにリードされて、ドレスの裾をかろやかに翻してアーリアは舞った。

「でも、ビルヒニアったら来てくれなかったわね」

 婚約披露の会なのだから絶対に来てね、引きこもったらだめよ、と念を押したのに会場にはビルヒニアの姿が見当たらない。

 アーリアが嘆息するとリベルトがなにやら愉快気に口の端を持ち上げた。


「あいつなら来ているよ」

「ほんとう?」

「ああ」

 リベルトはなぜだか楽しそうだ。


 曲が終わり、二人は手を離してお辞儀をする。

 そしてリベルトは再びアーリアに手を差し出した。

 アーリアはその手を取る。すると、彼はアーリアを会場の端へと案内する。

 途中挨拶をしたそうな貴族の何某らには目もくれずに、大広間の隅へとアーリアを連れて行った。

 窓辺にはテオドールがグラスを片手に立っていた。


 彼はアーリアとリベルトに気が付くと笑みを浮かべた。

「アーリア姫。婚約おめでとう。とと……とってもきれいだよ」

「ありがとう、テオドール様」

 アーリアはにこりとお礼を返す。

「それで、テオドール様はどうしてこんな隅っこに?」

「うん。彼女の護衛をしているんだ」

「彼女?」


 アーリアは首をかしげた。

 テオドールがたたずんでいるのは窓辺で、窓には重厚なカーテンがかかっている。

 一人でその場にいるのに、誰の護衛なのだろう。


「おまえその髪だとほんとに性格変わるな」

 リベルトがカーテンに向かって話しかける。いつものぞんざいな口調だ。

「リベルトったら。どこに向かって話しかけているのよ」

「姫……実は……」

 テオドールが苦笑いを浮かべる。

「ビルヒニア、いい加減出ておいでよ」

 と、これはいつの間にかアーリアの背後に出現していたセレスティーノだ。


「あ、セレスティーノ。こんばんは」

「こんばんはアーリア姫。婚約おめでとう。これからはアーリア姫じゃなくて王太子妃殿下と呼んだ方がいいのかな」

「やだなあ、妃殿下だなんて」

 気の早い呼び方にアーリアが身をよじらせる。リベルトのお嫁さんになって初めて王太子妃なのだ。


「じゃくて! いまビルヒニアって言った?」

「うん。そうだよ」

「ここに隠れているんだ」


 セレスティーノとテオドールが口々に言う。

 アーリアは目を凝らした。

 カーテンは、ほんの少しだけ膨らんでいるようにも……思える。分厚いし窓とカーテンの間に隙間があるから表から見ても他のところと大して変わらないのだが、確かに人一人ぐらいなら入ることができる……のかもしれない。


「ほら、出て来い」

 しびれを切らしたリベルトがカーテンをはらう。

「や……」


 小さな悲鳴が聞こえた。

 本当に小さな声だった。


 カーテンから出てきたのは、金色の髪をした少女だった。

 緑色の瞳を伏し目がちにして、すぐにカーテンの陰に隠れようとするが、すぐにセレスティーノがそれを阻む。

「セレスのいじ……わる……」

 蚊の鳴くような心細い声は、なんとなく聞き覚えがあるような。


 それに、緑色の瞳。

「って、あなたビルヒニア! え、だって髪。髪の色が違う。いつも黒い髪じゃ……」

 アーリアは思い切りビルヒニアらしき令嬢を指さした。


 金色の髪をゆるく結い上げ、薔薇の花を挿している。ドレスは薄若草色で、腰には金の鎖飾りが巻かれている。先端につけられているのはビルヒニアの瞳に合わせた緑水晶だ。たっぷりと開いた袖口からは目の細かいレエスが見え隠れしている。


「あ、あれは……」

「ビルヒニアはとっても人見知りでね。あれはね、なんていうか彼女にとっての戦闘服。黒髪のかつらをつけているときだけ性格がいつもより積極的になるんだ」

 ビルヒニアに変わって説明をしたのはセレスティーノだ。


 トレビドーナの王子たちに加えて、属領の王子王女たちが集まっているものだから、招待された貴族たちは何事だと、遠巻きに若い世代の王族たちを眺めている。

「ちがう……。わたし、こここの姿の時は魔力……封印されていて……。くく黒髪のとき……が、本来の……姿……なの」

 ビルヒニアが一生懸命に訂正する。

「そのこじらせ病をいい加減どうにかしろ」

 リベルトはあきれ顔を作る。


 アーリアは考えた。

 要するに、金色の髪が本来のビルヒニアの髪色なのだ。


「今日は正式な会だから、ビルヒニアの侍女たちが朝から大騒ぎをして黒髪かつらを取り上げたんだよね」

 セレスティーノがまるで、その場面を見てきたかのように補足する。

「ええと……、なんだか色々と大変みたいだけれど……」

 アーリアはとりあえずそんなことを言った。

 目の前のビルヒニアも黒髪の時の彼女も要するに同一人物なわけで。


 アーリアは泣きそうな顔で下を向くビルヒニアの前に足を踏み出した。

「こっちの姿でもよろしくね。金色の髪とってもきれいね。いいなあ、おひさまの光を集めたみたい」


 にこっと笑ったアーリアはビルヒニアに向かって手を出した。

 ビルヒニアはアーリアを恐る恐る見て、それから視線を落として差し出された手のひらをみた。その行為を繰り返すこと数回。

 ビルヒニアはリベルトとテオドール、セレスティーノが見守る中、ゆっくりとした動作でアーリアの手を握り返したのだった。



皆さまご愛読ありがとうございました。


おとぎ話のような、それでいて人魚姫の出てくる話が書きたいから生まれた本作です。

魔法の定義だとか人魚だとか世界を作るのが難しかったですが、ファンタジーを書くよい経験になりました。


あと三角関係も。

とはいえ、本当にゆるい三角関係でしたが。


今回の作品、実は3回ほどリテイクをしておりまして、最初リベルトはもっと手の早いつっこみ気質な王子さまでした。

ええ、それはもう手が早かった。

これはまずい・・・となり少しは硬派にしたつもりですが。。。

いかがでしたでしょうか。


話の大筋は決まっていたのですが、色々なシーンを前後させたり展開を変えてみたり。

なかなかこれ!っていう道筋が見えずにリテイクを繰り返す繰り返す。

そんなこともよい思い出です。


そんな作品ですが、読者様が楽しんでいただければ幸いです。



さて、今年はなぜだか現代もののコンテストが流行ってますね。

巷で出版ラッシュなライト文芸。

せっかくなのでコンテストに応募してみようかなと思い、しばらくは現代ものを中心に新作を書いていこうと思ってます。

異世界ものが好きだという読者の方、すみません。

異世界もの、しばらくは婚約破棄と男装令嬢の小話集のみの更新となりそうです。


次回作、何を書こうと考えていたのですが。

やっぱり自分の書きたいものだな、と思いまして。

ずっと書きたかったワーキングホリデーをテーマに書こうと思ってます。

イギリスにワーホリに行ってきたわたしの実体験も含めた(実体験ばかりだとひたすらにしょっぱい思い出話になるのでそこはきらきらさせますよ!全力で)作品にできればと思います。


せっかくのイギリス!そしてワーホリとシェアハウス。

そこはやっぱりかっこいいイギリス人男性とのシェアとかさせたいですよね。

ちなみに現実は世知辛く、わたしはインド系南アフリカ人のマダムのフラットに居候させてもらってました。(またの名を下宿といいます)


それではまたの機会に!



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