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第16話 社会の目

 少女は走り、隣町までやってきた。しかし、ここにも彼女が人殺しであることが伝わっていた。


「……人殺しといえば、そうだけどさ。けど、違うよな」


 エロスが不服そうに言う。


「仕方ないわ。彼らは社会の目で私を見た。仕方ないのよ」

「……その社会の目ってのは、厳しいな」


 少女が人々から身を隠しながら歩いて行くと、学校の横を通りかかった。金網越しに、グラウンドが見える。体操着姿の少年少女が、無機質な放送の指示に従って動いていた。


「手を挙げて、降ろして、屈んで、立って、一歩後ろへ、二歩前へ」


 電子音声の通りに、少年少女は動く。慣れた動きだ。


「跳んで、跳んで、一回転、隣の人に抱きついて」


 男女構わず、言うとおりにしがみつく。


「キス」


 接吻が行われる。エロスが歓声を挙げたので、少女は彼を軽くはたいた。


「離れて、屈んで、跳んで、殴って」


 放送の通りに乱闘が始まる。パンチを諸に受けた少年がフラフラとよろめいた。彼らは本気で殴っているようだ。


 放送は続けて殴れと命じた。


 出血しながらも殴り合う彼ら。少女は金網に顔を近付ける。

 そのとき、乱闘の中、一人が、大声を張り上げた。


「俺は、こんなの嫌だ!」


 他の全員の動きが止まり、放送の指示も止まった。


「おい、おかしいだろ? なんで俺達は、こんなロボットの言うことをいちいち素直に聞いてるんだよ? 走れと言われたら走って、跳べと言われたら跳んで、キスしろって言われたら好きじゃない奴ともキスしなきゃならないなんて、おかしいと思わないのか!? それに今日はもっと酷いだろ? 殴り合いなんて! 俺たちいつも仲良くしてたじゃないか! なのに指示通りに傷付けあうなんて……!」


 静寂が訪れた。少女は静かにその状況をみつめる。


「……分かってくれたか? 分かったら、皆でこの放送を止めよう。こんな時間、必要ない。な?」


 少年は汗を流しながら、必死に声を張り上げている。

 もう一度静寂が場に立ちこめたが、やがて放送が再開された。


「そいつを殺せ」


 しかし放送が聞こえる前にはもう、全員が拳を固めて、声を上げた少年に飛びかかっていた。

 その光景と言えば、惨憺たるものだった。


 少女は目を瞑り、その場から離れた。


「まるで、あの少年は私だ。私も、ああなってしまうのだろうか」


 エロスが驚いたように、


「お前が不安がるなんて……」

「……不安がってはいない。万一の可能性を考えただけよ」


 それ以降しばらく、少女は口を開かなかった。


 それを不安がってるっていうんだぞ、とエロスは小さく呟く。

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