思慕(3)
「エンのいう事は、もっともだ。
人は、見た目に騙されてしまう。
人というのは、もちろん、ロキも。
エンとレヴィ、清羅、アキとフユ、決して、君たちに差をつけているわけではないだろうと思う。
ロキの場合、生まれ育った環境も、ある意味特殊だ。
それで余計と、小さな子が暴力を振るわれて泣いているという状況に、我慢が出来なかったのだろう」
「そう、かな。そうなのかなあ。
飯炊き係なんて、格の低い者の役目だと思われるのが普通だし。
俺より、レヴィやアキフユの事が大事なのは、当然っちゃ、当然、なんだよ。
けど、さあ。
俺にとっては、あいつが、ロキが全てなんだよ」
エンの頬を、涙が伝って落ちた。
呪いを受け、女性の姿になっているエンの、細い肩が震える。
これも、錯覚だ。わかってはいても、目の前で女性が泣いているのを見ると胸が詰まる。
「エン、君は良くやっている。ロキだって、わかっていて、感謝しているはずだ。
ロキが、ついつらく当たるのも、ある意味、君に甘えているからなんじゃないのか? 私には、そうみえるよ」
エンは、大槻の言葉に、ふふ、と笑った。
「呪い受けてから、感情が、さ、やたら乱れて。
大槻ちゃん、ごめん、ちょっとだけ、貸してもらっていい?」
いいながら、そっと大槻の腕を取り、肩に額をつけて静かに泣き出した。
魔族の事は、わからないことだらけだ。が、きっと魔族から見たら、人間の方が不可解だという部分も多いのだろう。彼らの方が、ずっとシンプルに、理にかなった価値観を持っている、と感じる。
けれど、わかりあえるはずだ。
人同士でも、拭い難いいさかいの種はある。違う事を、批判し、同じに均すのではなく、認め、受け入れることで。少なくとも、彼ら魔族は、人を受け入れてくれている。
主であるロキを恋しがり、劣等感に泣くエンが、哀れで愛おしかった。
泣き続けるエンの髪に頬を寄せ、背中に手を廻してそっと撫でた。
ふいに、エンが身を固くし、はっと顔をあげた。
大槻がその視線の先をたどると、薄暗い廊下の先に、ロキが立っていた。
目を見開いて、エンと大槻をちらりと交互に見て、気まずげに踵を返し、駆けていく。廊下にその足音が響いた。
「大槻ちゃん、ごめん、ありがと。
俺、行くわ」
声をかける間もなく、泣きはらした目のまま、エンはロキを追って行った。
後ろめたいことはないはずなのだが、なにか、とても、とても気まずい。
その日の、ロキの日記。
『大槻さんとエンが抱き合っていた。
エンは泣いていて、大槻さんがなぐさめていたみたいだった。
二人は何を話していたのだろう。
エンは、なんで泣いていたのだろう。
大槻さんは、エンみたいな女の人が好きなのかな。
なんか、とても、悲しい感じがする。
いらいらして、悲しくて、胸がぎゅっとして苦しい。
最近、いっつもいらいらしているから、眷属たちに嫌な思いをさせていないか心配。いらいらがうつらないようにするのもつらい。
ちょっと疲れちゃったのかも。もう、寝よう。
明日は、一番お気に入りで、なんだかもったいなくてまだ着ていなかった青い下着にしよう。
薗田さんが言っていたことは、本当だ。ちょっとわくわくしてきた』




