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審訊

 出迎えてくれたのは清羅だった。

 ロキと話がしたいと告げると、少し困ったような微笑みを浮かべ、


「ロキ殿に聞いてみましょう」


 と、一旦室内へ戻っていった。

 いつもは廊下で待たされたりせず、すぐに迎え入れられるので、その対応に多少の不信感を持ったが、すぐに戻ってきた清羅に招き入れられた。

 ダイニングのほぼ中央に立っていたロキを見た時、一瞬、あれ、と思った。

 何かが違う。少女になってしまった状況に、まだ目が慣れていないせいだろう。

 一回り小さく、どこか儚げに見える。

 けれど、ロキらしい、照れたような笑みを浮かべてみせてくれた。


「大槻さん、今日は買い物に付き合ってくれてありがとうございました。

 それで、あの、微妙な空気にしちゃってすんませんっした」


「いや、いいんだ。気分はどうだ?」


「もう、大丈夫っす。で、話しって?」


 ほっとして、そうか、よかった、と頷くと、椅子をすすめてくれた。

 注意深く、ロキを見た。

 少し目の淵が赤いかもしれない。

 が、それも、意識してみているから気付く程度、普段なら見過ごしているだろう。

 言葉を止めて自分をじっと見ている大槻に、不思議そうに微笑んで首を傾げる。

 外見は少女だが、やはり、いつものロキだ。

 疑問や問題点は、一刻も早く解消しておく方がいい。


「今日の件なんだが、詳しい事を聞きたい」


「詳しい、こと?」


「私は、君が男に腕を掴まれたくらいで動揺するとは思えないんだ。

 まして、眷属たちに出迎えられて泣いてしまうなんて、何か、余程な事情でもあったんじゃないかと思って。

 ロキも、外見が変わったって中身は男のままだ、と言っていただろう?

 何か、他に理由があるんだったら、話してくれないか」


 ロキは軽く目を見開いて大槻を見て、すっと視線を落とした。

 無言のまま数秒、ちらりと大槻に視線を向け、何か言いかけて口を噤む。

 同じ事を二度繰り返し、はあ、と大きく息を吐いて肩を落とし、


「なんでもないです。特に、理由は、何も」


 と、吐き出すように言った。


「うーん、では、泣いてしまった理由は、腕を掴まれた事、という事でいいのかな?

 痛みからか? けれど、本部に戻るまでに時間が経ちすぎているし、眷属たちの姿を見て、というのも。

 幼い頃の事もあって、か?

 何か別の、もっとひどい事でもあったのか?

 必要とあれば、あの男を探し出して直接話を聞いてもいい。

 うまく説明できないようならすぐでなくてもいいんだが、この件は吉井さんを通して正式に報告するつもりだ。

 思い当たる事があったら言ってくれ」


 身を乗り出す大槻にちらりと視線を送って俯いてしまう。

 ロキが言葉を発するまで辛抱強く待とうと、そのまま見つめていると、かちゃり、と、目の前のテーブルの上に湯気を立てるカップが置かれた。

 カップに添えられたままの手から辿って見上げると、困ったようにわずかな笑みを浮かべたエンの視線とぶつかった。


「まあまあ、大槻ちゃん、その辺にしてやってよ」


 その辺に? 言葉の真意が読みとれず、僅かに眉を寄せると、エンは悲しそうな表情に変わってロキを見る。

 大槻もつられてロキを見てはっとした。

 への字に結んだ口元が震え、涙が幾筋か頬を伝って落ちていく。

 言葉をかける事もできずおろおろしていると、ロキは指先で涙を拭い、すっと席を立ち、小さく、すんませんとつぶやいて、ベッドの置いてある部屋へ入ってしまった。

 唖然としたまま後を追う事もできず、閉ざされたドアを見つめるしかできなかった。

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