強制(1)
和食器のコーナーを覗くと、小花をあしらった皿や、落ち着いた色合いの、持ちやすそうなご飯茶碗などが並んでいた。
ロキが今使っている食器は、本部から貸し与えられた、薄い、よくありがちな、真っ白な物がほとんどで、淵が欠けているものもある。
(こんなのでご飯食べたら、同じものでもおいしく感じるんだろうな)
カットの入ったガラスの器や、マグカップ、コースター。青磁の小鉢、撫子の柄の湯呑、変わった形の醤油差し。
みているだけで、時間が経つのも忘れるくらい楽しい。
棚の上に、手のひらに載るくらいの小さなクマのぬいぐるみが、どことなく困ったような顔をして、ちょこんと座って自分を見上げている。
(かわいい……)
手に取ると、今まで生きてきて触れた事がないくらい、ふわふわと柔らかくて軽い。
人差し指で額にそっと触れると、相変わらず、困ったような顔をしている。
思わず、クスリと笑みがこぼれた。
「可愛いね、それ」
いきなり背後から掛けられた声に、驚いて振り向く。
二十代前半くらいの男の顔がすぐ目の前にある。
(なんだ? こいつ)
「買ってあげよっか?」
眉を寄せて不審がるロキに構わず、さらに距離を詰めてくる。
嫌な感じがして、慌ててぬいぐるみを棚に戻した。
「いや、別に」
「遠慮しないでよ。今日、出会った記念に。
ね、遊びに行こうよ。ヒマしてるんでしょ?」
そういいながらにやりとした笑みを浮かべ、ロキの背に手を回した。
どくり、と、胸が締め付けられる。
触れられた場所から、腐敗していくような感覚。
(気持ち悪い。いやだ。近寄るな)
す、と、エンと清羅の気配を近く感じた。
(ロキ?)
(エン。大丈夫だから、ここで出るな)
眷属たちの気配に、冷静さを取り戻す事ができた。
あいつらが、いてくれる。いざとなれば、護ってくれる。
にやにやと顔を近づける男から身をよじって逃げようとしながら、必死に眷属たちを抑えた。
ロキが危害を加えられていると察し、警戒しているエンと清羅の、怒りの気配。
心臓が、ドクドクと強く脈打つ。




