痕跡
ロキが軽く首をかしげ、考えながら話し始めた。
「ああ、いや、謝んないで。ちょっと置いて行かれたけどさ。
んー、多分、そういう事、なんだろうなあ。
えっと、呪いの事ね。
俺は男なわけだけど、違う体験をして勉強しろ、って、そういう。
ね、清羅?」
話しを向けられた清羅は、ふわりと微笑みを浮かべて、さあ? と応えた。
ロキは椅子の背もたれに寄りかかり、少し寂しそうな目で右手のひらを見る。
「特に変化はなし、か。これが正解じゃないのかな」
大槻と薗田も、同情の表情でロキを見る。
「清羅は、真実を己のモノにする事がカギ、って言っただろ?
まだ時じゃないってだけかもしれない。
焦らずに、じっくり見極めていけばいいさ」
エンの言葉に、口をきゅっと結んで口角を上げ、うん、と頷くと、清羅が微笑ましげに、ふふ、と笑った。
と、ふいに奥のドアが勢いよく開き、バタバタと騒がしい空気と共に、そっくりな二人の少年が駆け込んできた。
「あー、薗田さん、こんばんは」
「大槻さんこんばんは」
「アキ君、フユ君、お風呂に入っていたの?」
「具合はどうだ?」
狛犬二人の登場に、一気に室内が明るくなったよう。
薗田と大槻も、笑みを浮かべ、ほこほこと湯気立つ彼らを迎えた。
「あのね、もう元気だよ。それで、お風呂入っていたの」
「そう。久しぶりのお風呂だったの。
清羅、ボクもピカリ飲みたい」
賑やかな雰囲気に眠気が飛んだのか、再び両手でコップを持ち、くっくんと音を立ててアルカリイオン飲料を飲むレヴィを見て、ボクも飲む、という彼らに、コップを持っていらっしゃい、と、清羅が席を立つ。
「それより、あなた達こそ早く下着をつけないと」
クスクス笑う清羅に、大きなバスタオルを被っただけで、全裸で濡れた髪を拭く二人がきょとんとした表情を向ける。
「ボク、まだパンツはかない」
「犬の姿の時は、服なんて着ないよ」
「ゴタクはいいから、プラプラさせてないでパンツくらいはけよ。
ハラ冷やすだろ」
ロキの言葉には、さすがに、どこか不平そうではあるが、はあいと返した。
その二人が、ほぼ同じ動きで、同じ場所に視線を止め、顔を見合わせて笑い出したので、他の全員が彼らを見た。
自分たちが注目されているのに気付いて、アキがレヴィの頬に指で触れる。
「レヴィ、ほっぺにまる」
「おでこにも」
全員の視線が、目をぱちくりさせる幼い少女に集まった。
確かに、頬と額に、強く押し付けられたコップの跡が、赤い線になってくっきり残っている。
あの、レヴィが。
笑っては、いけない。
アキフユ以外の全員が、そっと視線を逸らして肩を震わせて堪えた。
が、当のレヴィが真っ先に笑い出しては反則。
「お前が笑っちゃうのかよ」
エンの震える声と、ロキの、ぷーっと吹き出すのがほぼ同時。
笑いの連鎖は、しばらく収まらなかった。




