買物(1)
翌日、ロキと薗田は、大槻の運転する車でショッピングモールへ向かった。
ロキは、服はこのままでいいと言うが、靴や下着はそう言っていられない。
吉井からも、
「今回の状況は、労災のようなものだ」
と、掛かった分を経費として請求するよう言われている。
「あまり、高額な物は選ばず、常識の範囲で、な」
と、釘を刺されてはいたが。
昼下がりの商業施設は、明るい日差しが採り入れられ、然程混雑もしておらず、穏やかに心地よい時間が流れていた。
大槻の前を歩くロキが、薗田に引きずられるように下着店に入っていく。
淡いピンクの壁、可愛らしい字体の装飾、ブラウンの木の床。
パステルの花が咲き乱れるような、オーガンジーとレースとシルク。
大槻は、さすがに、店内に入るのは気が引けた。買い物が終わったら電話してくれ、と声を掛け、通路を先に進んだ。
ショッピングモールを歩くのは、久しぶりだ。
最近は妖魔の襲撃も一時期ほどは激しくない。
六、七年前、大槻がまだ自らがジェーナホルダーだと知らず、一般の企業に勤めていた頃と比べれば、華やかに飾ってあった商品は減った。
けれども、必要な物が、足りる分くらいはある。
あの頃は、なんだったんだろう、と思う。
あそこまでたくさんの「モノ」は、本当に必要だったのだろうか。
そして、やがて時が来れば、溢れるように商品が並べられるようになるのだと、所狭しと並ぶ日が来るのだと、心のどこかで思っている自分の思考に思い至り、愕然とした。
いつか、そう遠くない未来に、あの頃の状態に戻れるのだ、今は非常事態で、不便に耐え、待つ時なのだ、と。
数年前、長蛇の列を作っていたコーヒーショップのチェーン店は、数席埋まっているだけで閑散としていた。
(コーヒー一杯、飲むくらいの時間はあるだろう)
腕時計に視線を落とし、ホットコーヒーをオーダーした。
薄暗い店内の、硬めの椅子に体重を預けてコーヒーの香りを吸い込むと、肩のあたりが痺れるような、強い感情が溢れてきた。
振り返らぬ様に無意識に過去にロックを掛け、前だけ見て走ってきた気がする。
ロキと出会う前、東京駅が襲撃され、多数の死傷者を出したあの事件以前から、大槻たちは妖魔と対峙してきた。
奴らは人を殺すために在った。
無数の、人の死に触れてきた。
木に張り付けられるように縛られ、切り裂かれた九歳の少年の死体。
虚ろに開いたままの眼、片方脱げた靴、その足元には、血が滴り、地面に溜まっていた。
呆然と立ち尽くす父親、半狂乱になって、子の名を叫ぶ母親の声が耳の奥に残る。




