チョコの渡し方
今日はバレンタインデー。
平日なので、いつもどおり教師としての職務を果たす。
いつもどおりの俺のはずなのだが、いつから俺はこんなにモテるようになったのだろうか?
まず2時間目の授業前。
「はい武田! これ超本命だから!」
「おー。良く出来てるな」
「見た目じゃわかんないでしょ!」
教室に入るなり、待ってましたとばかりに天野が駆け寄ってきて、俺に平たい長方形の箱を渡してきた。
きっと料理上手な天野のことだから、手の込んだものなんだろうな。
「いや、箱を褒めたんだけど」
「綺麗な箱でしょ? って違うわい! 褒めるならチョコを褒めてよ!」
「今食べるわけにはいかないから、箱を褒めるしかないだろ」
「あ、それもそうか」
さすが天野。適当なことを言っても丸め込めてしまう。単純なやつだ。
「とりあえずありがと。家帰ってから食べるよ」
「んふふふ」
満足な笑みを浮かべると、鼻歌を歌いながら自分の席へと戻っていった。
まぁ目の前だから、すぐそこでニコニコしてるんだけどね。
そして天野にニコニコされながらの授業が終わって、教室を出た時だった。
「武田」
「ん?」
振り向くとそこには中村がいた。
「これやるよ。義理だからな」
「ありがと。ってなんで2個?」
「瑠璃ちゃんの分だよ。家帰って1人で食べるのも寂しいだろ?」
「お気遣いありがとうございます」
中村はニシシと笑った。
中村だが、何やら吹っ切れたらしく、あれから毎日学校に来るようになった。
天野ともうまくやれているようだしよかったよかった。
「か、香恵? もしかして・・・抜け駆け?」
中村を探しに来たのか、廊下に出てきた天野が『ヤダ。私の年収・・・』というような顔をしていた。
チラリと中村を見ると、とても悪そうなことを考えてる顔をしていた。
「なんだ? 恭子はこの料理下手なあたしに負けるようなチョコでも渡したのか?」
「わ、私の方が美味しいチョコだもん! 超生チョコだもん!」
それ溶けてるんじゃないか?
「冗談だって! あたしが恭子以外を好きになるわけないだろー。ましてや武田なんかに」
「それはそれで酷いな」
「・・・だよねー! いやービックリしちゃったよー!」
「でも恭子、本気で泣きそうになってなかったか?」
「なってないよ!」
「あはは。恭子は可愛いなぁ」
この2人は前よりも仲良くなっているようだった。よかったよかった。
次は放課後の職員室にて。
「武田先生」
「はい?」
「これ、いつもお世話になってますので」
「あ、わざわざありがとうございま、す」
なんかケーキ入ってそうな箱なんだけど。
「お返しとかを期待してるわけじゃないので気にしないでくださいね? ほんの気持ちです」
「そ、そうですか。ちなみにこれ、中身はなんですか?」
「ブッシュドノエルです」
Oh・・・ガチじゃん。
「ではお疲れ様でした」
「は、はい。お疲れ様でした」
パタパタと小走りで去っていく高津先生。
そして後ろから小突かれる俺。
「義理っていうのはこういうのを言うんだ」
振り返って見せられたのは、チョコを溶かして型にはめただけのようなチョコだった。一応シャレた袋には入っているが、ブッシュドノエルと比べると小物臭しかしない。
この秋山先生のチョコがコンビニで売っているワインだとしたら、俺がもらったブッシュドノエルはビンテージもののワインだった。
秋山先生の猛攻をかわしながら仕事を終わらせ、いつもどおりに家へと帰った。
「ただいまー」
中に入ると、瑠璃ちゃんがいつものようにテーブルで勉強をしていた。
「おかえりなさい」
「ただいま。チョコあげれた?」
「はい」
「そっか。良かったねー」
「・・・それはなんですか?」
「これ? 同じ学校の先生にもらったんだ。ブッシュドノエルだって」
「ブッシュドノエル?」
「ん。なんか名前しか知らないけど、凄そうだよね。そうそう。あとこれ中村から」
中村からのチョコを瑠璃ちゃんに渡した。
しかし瑠璃ちゃんは、ちょっと不機嫌そうだ。
「瑠璃ちゃん?」
「みんなにチョコもらったんですね」
「あー。天野からももらったから、今年は3つももらえたよ」
「ふーん」
「どうしたのさ」
瑠璃ちゃんは無言で立ち上がると、冷蔵庫の中から箱を取り出して、俺に差し出してきた。
「これあげます」
「ん? なにこれ? 開けていい?」
瑠璃ちゃんは首を縦に振った。
許可ももらったことだし、早速開けてみた。
中身は、大量のトリュフチョコだった。
「こ、これは・・・」
「まさちかさんには、とてもおせわになってるから、お礼にって思ったんですが、そんなチョコよりも」
「うっそっ!! 俺にくれるの!? マジで!? 超嬉しいんだけど!」
「え?」
「瑠璃ちゃんからもらえないって思ってたから、すごい嬉しいよ! ありがとう!」
マジで嬉しいわ。今ここで『ステーンバーイ・・・・・・ビューティホー』されたとしても悔いはない。笑顔で倒れる自信がある。
俺の喜びっぷりに、瑠璃ちゃんも若干引いているように見えた。だって嬉しいんだから仕方ないじゃん。
「飾っておいてもいい!?」
「・・・ふふ。食べてください」
そんないつもとは違うバレンタインデーだった。
そして食後、例のブッシュドノエルを開けてみた。
「これはすごい・・・」
「・・・・・・」
思わず言葉を失うぐらいの衝撃だった。
こんなん義理で作ったんだとしたら、ケーキ屋を始めたほうがいいと思うレベル。
「来年は負けません」
どうやら瑠璃ちゃんの闘志に火がついたようだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いてもいいんですよ?
激しく喜びます。
今回はネタが多いです。我慢できませんでした。
それより本命チョコってあるんですかね?
あれって都市伝説でしょ?
次回もお楽しみに!




