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熱砂の採掘戦場から  作者: 小睦 博


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30/30

30 放たれる電磁投射砲

 高層建築物のある都市中心部を避けてストライカープリンセスが夜の市街地上空を進んでいく。重量のある採掘機は地表から50メートル浮き上がるのが精々なため、高い建物がある区域は避けなければならない。ありがたいことに、ドンカーツと同じくパスタデアールでも高層建築が許可されているエリアは限られていた。きちんと採掘機や大型輸送艇が進むための航路が確保してある。


『トカゲ型の進行速度が想定を上回っている。王国軍の作戦はすでに破綻したも同然。だから、あんな機体を用意していた』


 管制機で情報分析をしているアンリエッタから、ストライカープリンセスの操縦室へ通信が入ってきた。トカゲ型砂竜はトップスピードこそ時速100キロメートルを超えるものの、短い距離を移動してはいったん止まり、また移動してをくり返すため、平均すればそれほど速くはならない。王国軍は1時間に30キロを移動してくると見積もっていたけど、追いかけていた餌をバラバラにされて怒ったのか時速40キロでパスタデアールに接近しているという。モローニ博士の予言どおり防衛部隊による誘導は効果がなく、長距離砲撃はもちろん命中弾なし。呼び戻した採掘機の再配置は間に合いそうにないと、けしからん情報を隠していやがったとアンリエッタがブーブー不満を漏らす。


「頭の固い参謀士官にしてはずいぶん物分かりがよいと感じましたけど、そういう裏がございましたのね」


 自分たちの立案した作戦を信用ならんと言われているわけだから、司令官より参謀たちの方が頑なに反対してもおかしくない。積極的に司令官の説得にまわるなんて不自然だと感じていたけど、もう立派に散ってこいと命令するしかなかったのかとラーメナリーも頬を膨らませた。どうして素直に頭を下げてお願いしますって態度が取れないのかと憤慨している。王女という立場ゆえに手を貸してくれと言えなかった誰かさんも同じようなものではないかとコマチは思ったものの、ここで使い物にならなくなってしまっては困ると思い直し黙っていることにした。


「それで、こっちは間に合いそう?」

『フワティーの観測結果次第だけど、砂竜の10キロ手前に設置完了できる計算』


 ストライカープリンセスは間に合うのかとコマチが尋ねれば、設置完了した時点で砂竜までの距離は10キロだとアンリエッタは返してきた。同時に採掘機の設置座標が管制機から送信されてくる。


「それなら充分でございます。チャンバーへの液化絶縁ガス注入完了。アクチュエーター作動、チャンバー内圧力上昇開始。キャパシターの充填率44パーセント……」


 それだけ離れていれば余裕をもって急所を狙い撃てるとラーメナリーが電磁投射砲の発射準備を進めていく。圧力をかけられた液化絶縁ガスは発射の際にチャンバーから弾体を加速させる電機子の後方へ噴き出され、急激な減圧によって気化、膨張することで弾体に初速を与えると共に、電磁加速が始まった後はエネルギーの損失につながる放電を抑制し、発射後は砲身内に残った熱を外へ放出する冷媒と3つの役割をもつ。アクチュエーターで圧力を上げることと、プネマドライブの出力ではキャパシターに電力を蓄えるのに時間を要するため、採掘機の電磁投射砲は軍艦搭載型に比べて再発射までの間隔が大きい。仕留め損なっても次弾でフォローというわけにはいかないものの、ラーメナリーは1発で決めるから充分だと言い切った。


「市街地を抜けました。コクピットのバイザー下ろします」


 パスタデアールの北側まで到達すれば、その先は灯りひとつない岩場が続く。肉眼ではなんにも見えないので、発射の際に生じる衝撃波から操縦室を保護する前面装甲をコマチが下ろす。ぶ厚い装甲板が前面の窓を覆うように被さってきて、代わりに操手席の正面に大きなモニターが下からせり上がってきた。すぐに明るさを調整された暗視カメラの映像に地形データなどの情報が重ねて表示される。


『トカゲ型の姿を捉えたわ~。思った以上に速いかも~』


 同時にフワティーからトカゲ型を見つけたと通信が入り、サブモニターに表示されていたターゲットの座標が更新される。アンリエッタの予測よりも若干速いようだ。


『再計算した結果、トカゲ型が6キロまで接近した時点で設置が完了する予定』

「予定どおりでまいりましょう。変更したところで、条件がよくなるとは思えません」


 アンリエッタの予測は正面から迎え撃つ場合のもの。進路をズラして横から狙い撃つポジションをとることもできるものの、ラーメナリーは当初の予定どおりトカゲ型の進路に仁王立ちすると言い張った。横から撃った場合、頭を狙った砲弾が前脚や胴体へ先にあたってしまい、急所を外すおそれが高いという。


『そうね~。斜め前方から狙うのでない限り、そうなる可能性はありそうだわ~』

『砲手の判断を尊重する。コマチ、設置座標は予定どおり』

「あいあいさ~」


 ラーメナリーの話を聞いて、魚型と違い横に出っ張っている前脚が邪魔になりそうだと上空から観察しているフワティーが伝えてくる。ポジションは砲手の判断に任せようとアンリエッタが受け入れ、トカゲ型砂竜の真正面に立ち塞がることで決まった。


「まもなく指定座標に到達します」

「安全弁閉鎖、チャンバー内発射圧力まで上昇。キャパシター充填率120パーセント。いつでも発射可能でございます」


 市街地を抜け真っ暗な岩場を進むこと約20分、ストライカープリンセスが指定された設置座標へ到達するのにあわせて電磁投射砲も発射準備を終えた。アンカーアームを展開させたコマチが、反発式浮遊デバイスの出力を絞って機体を砂漠へと下ろしていく。


「照準器にターゲットを捉えました。距離測定……対象まで7,062メートル。こちらに気づいたみたいですわ。ゴツゴツした顔で気品に欠けますわね」


 アンカーアームの先端が砂地にもぐり始めたあたりでトカゲ型砂竜もストライカープリンセスを察知したようで、けしからん奴と判断したのか、はたまた食べ物と考えたのか向かってくるという。その方が頭を狙いやすいと舌なめずりするラーメナリー。顔がキモイとおっさんが言われたら泣き崩れてしまいそうな感想を口にする。


「反発式浮遊デバイス停止。接地圧なし。振動掘削装置を作動させます」


 ズブズブと自重でもぐり込んでいたアンカーアームが途中で止まったものの、振動を加えられたことで砂地が緩み再びストライカープリンセスが沈みだす。


「最終セーフティロックかい――何がございましたのっ?」


 ターゲットとの距離はおよそ6キロ。連合法国の候補生はここまで正確に計算してみせるかと舌を巻いたラーメナリーが砂竜の眉間へ狙いをつけ、電磁投射砲の安全装置を解除しようとした瞬間、ストライカープリンセスがつんのめるように左前方へと傾いた。同時にそれまでなかった振動が操縦席へ伝わってくる。


「砂の中に岩盤があったようです。反発式浮遊デバイス再起動、オートバランシングをカット」


 右後方のアンカーアームが隠れていた岩盤に引っかかったと反発力を復帰させるコマチ。その途端、操縦室に伝わってくる振動が大きくなった。これは機体が姿勢を水平に戻そうとしているためと判断し、自動的に働く姿勢制御機能を停止させる。


「どどっ、どういたしますのっ? もう、このままっ?」

「引っかかったのが1本だけってことは、板みたいな岩盤じゃありません。出っ張った峰にたまたま当たっただけです」


 砂竜は5キロの地点まで接近してきている。もうイチかバチかこのままの姿勢で発射するしかないと慌てたラーメナリーが最終セーフティを解除するスイッチへ指をかけるものの、傾いた方向から察するに右後方のアンカーアームが出っ張りにあたっただけ。向きを変えれば外せるとコマチは緊急用のロケットスラスターまで使ってストライカープリンセスを旋回させ始めた。


「あああっ、あと3キロでございますわよっ」


 照準器の映像を見ているラーメナリーが、もう牙の本数を数えられるところまで近づいてきた。まだか、まだなのかとコマチを急かす。


「大丈夫、間に合いますっ。外れましたっ」


 ジワジワとストライカープリンセスが向きを変えていけば、あるところで操縦室へ伝わってきていた振動がパタリと消え去った。引っかかっていたアンカーアームが外れた証拠だとコマチが機体のバランシング機能をオンにする。


「姿勢、復帰します。照準急いでっ」

「もう2キロをきりましたわぁぁぁ――――っ」


 姿勢を水平に戻したストライカープリンセスが再びジワジワと沈み始める。ラーメナリーが最終セーフティロックを解除し、近すぎるせいでトカゲの頭部しか映っていない照準器映像の中で眉間を照準し直す。


「まだですのっ? もう撃ちますわよっ」

「底部接地圧でました。あとひと呼吸待ってください」


 砂竜はもう800メートルのところまで近づいてきているぞと、急かすように足をパタパタ鳴らすラーメナリー。撃つぞ、撃っちゃうぞと興奮して目を血走らせている砲手を、あと数秒だとコマチが落ち着かせる。


「あど300メートルでずわよぉぉぉ――――っ」

「接地圧規定値へ。振動掘削装置カット。固定完了、撃てますっ」


 緊張のあまり激しい貧乏ゆすりにみまわれながら、今にも砂竜の喉ちんこが見えそうだとラーメナリーが涙声で叫ぶ。同時に接地圧の表示が規定圧に達したことを示す緑色に切り替わった。振動掘削装置を停止させたコマチが撃っていいぞと合図を出す。


「んおどっぴえぇぇぇ――――っ!」


 もう何を言っているのかわからない雄叫びを上げてラーメナリーが電磁投射砲のトリガーを引いた。高圧のかけられたチャンバーと砲身を隔てていたバルブが開かれ、液化絶縁ガスが猛烈な勢いで気化しながら装填された徹甲弾の後方へ流れ込む。圧力で砲弾が押し出され、弾体後部にある電機子が砲身に沿って取り付けられた電極へ接触し加速回路が形成された。キャパシターに蓄えられていた電力が一気に流れ込んで、重い徹甲弾を音速の7倍近くにまで加速してぶっ放す。


 超至近距離で放たれた徹甲弾はトカゲ型砂竜の大きく開かれた口腔から飛び込み、衝撃波で脳組織をバラバラに引き裂きながら後頭部へ貫通。風の音だけが鳴り渡る夜の砂漠へと飛び去っていった。砂竜の巨体が力を失って砂地へ崩れ落ちる。


「あっ、ああっ……やりましたの? ははっ……んんっ? はへぇ~」


 モニターに映し出された砂竜が動かなくなったのを確認し、ラーメナリーが口元を綻ばせる。だけど、悪寒でも感じたかのように背筋を反り返らせ体をプルプル震わせると、唐突に脱力してため息を吐き出した。その様子を眺めていたコマチは、緊張の糸が切れた拍子に弛んじゃってもオムツだから大丈夫だろうと通信回線を開く。


「指定座標の地中に岩盤があったせいで、ラーメナリーさんが粗相しちゃったじゃないですか」

『王国軍のデータに不足があったせい。それで王女様が漏らしたとしても、悪いのは私じゃない』


 ラーメナリーが恥ずかしい過去を背負わされたのは管制機の指示が悪かったせいだと頬を膨らませるコマチ。砂の下にある岩盤層のデータまで揃えていない王国軍が悪いとアンリエッタが開き直る。


『まぁまぁ、アンリエッタもさっきまで締められたタコみたいに顔色をなくしてたから、そんなに言わないであげなよ』

『余計なことを喋るようなら脱がす』

『ひゃあぁぁぁ……なんてことすんのっ?』


 もっとも、デイジーによれば砂竜が動かなくなるまで顔面蒼白で神様に祈りを捧げていたという。ならば許そうとコマチが息をついたところで、やめて許してとデイジーの悲鳴が聞こえてきた。パーティー会場から直行したため、ふたりはもちろんオムツバニーの格好である。どうやら、怒ったアンリエッタがバニースーツに手をかけたらしい。


『こっちまで粗相しちゃう寸前だったもの~。王女様がお漏らししても仕方ないわ~』

「誰が聞いているかわからない通信でお漏らし、お漏らし言わないでくださいっ!」


 上空から見ていて気が気でなかった。決壊させる一歩手前だったとフワティーが伝えてきて、我に返ったラーメナリーがいったいなんの話をしていると怒りを爆発させる。そこへ王国軍基地の司令本部から通信が入ってきた。


『メンデヤンス候補生。無事……ではなかったかもしれないが、よくやってくれた』

「無事でございますっ。何が無事でないとおっしゃられるのですかっ?」

「オムツが大変なことになって……」

「あなたは黙ってらっしゃいっ」


 トカゲ型砂竜の様子は司令本部でもモニターしていたようで、ご苦労だったと司令官が労いの言葉を伝えてきた。なおヒラメ型の対処も済んで、今は再び動き出すことがないか様子をうかがっているところだという。こちらに被害はないと言い張るラーメナリーに、オムツが尊い犠牲になったとコマチが指摘したものの、余計な茶々を入れるなと殺意に満ちた目で睨みつけられる。


『確実に息絶えていることの確認と死骸の保全は防衛部隊に引き継がせる。君たちは帰投してくれたまえ』


 これだけの巨大生物とあって、一見死んだように見えて息を吹き返さないとも限らない。夜の間は監視を続け、明るくなってから改めて絶命していることを確認する。再び動き出した場合の対処は再配置のため北へ移動中の採掘機にさせるということで、ストライカープリンセスは基地へ戻るよう命じられた。ささやかながら、取調室にかつ丼が用意してあるという。


『採掘機をそのまま積める船なんて主力空母くらいだ。逃げても行くところはないぞ。事情聴取で勘弁してやるから、さっさと戻ってくるように』


 採掘機クラスの機体になると、パーツごとに分解して運び現地で組み立てることになる。飛行甲板が使えなくなること覚悟で空母に乗せることはできるかもしれないけど、艦載機を運用できなくなった空母なんて爆撃訓練の的でしかない。機体を持ち去ることはできないのだから観念して事情聴取に応じるよう勧められ、コマチはため息を吐き出しながら反発式浮遊デバイスを再稼働させた。


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