EX01 勇者の鼓動
今回は外伝というか、なんというか……短めです。
それにしても、毎度のこととはいえ心苦しいことこの上ない。
俺にこんな役回りをふってくれたアイツには、恨み言の1つでも言ってやらなければ気がすまなかった。
「……まだ見つからないのね、朝倉君」
「響子さん……」
多くの生徒から羨望や好意を向けられる明るく爽やかな人気者の姿はどこへやら、今村響子は見るからに肩を落としていた。
その傍で、彼女より頭1つ分ほど身長で劣る英嶋美里が心配そうに様子を窺っている。
昼休みの学校の屋上、我が校の男子生徒の中でも人気のある2人の美少女が共に悲しげな表情をしている。
そのすぐ傍に立つ俺としては、どうにも気まずかった。
我が高校の3年生で俺のクラスメイト、朝倉隆雄が突如として行方不明になってしまったのは、まだほんの2週間前のことである。
2週間前の月曜日、早朝。
自室で寝ているはずの朝倉隆雄の姿が見当たらないことに、まず最初に気づいたのは彼の母親だった。
休み明けのこと、遅刻するギリギリの間際の時間まで寝ているつもりなのだろうと彼の部屋まで起こしに行って、発見したのである。
何もかもが前日の通りの部屋の中で、息子の姿だけがぽっかりと無くなっているのを。
ひょっとして息子は無断で友人の家にでも外泊しているのではないか、最初はそう思ったらしい。
だが、携帯電話や財布といった貴重品が机の上にそのままにされていることを発見してしまい、いよいよ母親は事態がおかしいことに気づいたらしい。
警察へ捜索願いが出されたのは、その翌日になってからのことだった。
それからは、いろいろあった。
本当にいろいろありすぎて、事態は目まぐるしく変化し、そして今となっては―――停滞してしまっている。
あいつは突然、文字通り姿を消してしまった。古風な言い方をすれば、神隠しとでも言うべきなのだろうか。
俺の名前は、上野雄介。
同級生で、親友という表現が正しいのかどうかは分からないが、隆雄とは中学生の頃からの付き合いである。
そして、俺の目の前で今にも泣き出しそうな顔をしている今村響子は、隆雄とは幼馴染の関係にあたる。家も隣同士なのだそうだ。
整った顔立ちと吸い込まれそうな黒瞳、腰まで届きそうな長い黒髪は流れるように艶やかである。可憐、その一言で形容するには十分だ。
隆雄と今村響子がどういう関係にあるのか――否、どういう関係にあったかは、明白である。
当人達に聞けばただの友達であると答えるが、毎日一緒に登下校し、休日も頻繁に会って、時には一緒に出掛けているというのだから、分かりやすいというほかない。
ただ単にその内にある思いを互いに言葉にしていないだけ。友達以上、恋人未満、そういう言葉がよく似合う。まったく、じれったくて仕方のない2人――だった。
そんな2人の片方が突如として失踪した。行方はいまだ杳として掴めていない。
今村は人前でこそ気丈に振舞っているようだが、俺や英嶋美里のような極親しい間柄にある人間の前では、明らかに不安と悲愴に苛まれている様子が手に取るように分かった。
「元気出してください、響子さん……。きっと、すぐに見つかりますよ」
現状では、どう言いつくろっても気休めにしかならない言葉を、英嶋美里が口にする。
柔らかな黒髪を肩口あたりで切り揃え、同年代に比べて小柄な彼女は、今村響子の仲の良い女友達である。今村とは同学年ながら、頻繁に彼女の傍をちょこちょことついてまわるその姿はまるで彼女の妹のようだった。
しかし、そんな彼女の気休めでも、今村はその痛々しい表情を変化させることはない。
こんな美人の彼女を悲しませるとは、どうしようもない馬鹿野郎だ。
まったく、隆雄のやつめ……。
―――この時の俺たちは考えもしていなかったのだ。
―――隆雄が、俺たちの想像を遥かに超える、とんでもない事態に巻き込まれていたことを。
―――そして、俺たちもまたそのとんでもない事態に足を踏み込んでしまうということを……。






