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縋る人

クリスマスに投稿している時点で察して下さい(泣)。


 初日が終わった。

 第一次予選の全試合が終了し、俺は帰宅した。


 ベッドにダイブし枕に抱きつく。



 激しい虚無感だった。


 何かを間違えたような気がするのに、その間違いの理由が分からない。


 脳に反響する、彼女らの表情。仕草、悲しみの、感情。


 表情が歪む。

 心が痛むのが分かる。


 誰かに相談したい。

 誰かに泣きつきたい。

 誰かに、助けてほしい。



「美香……」


 美香が恋しい。

 メッセージを送る。返信は来ない。


 送って数秒なのだから当たり前なのだけど。


 携帯を軽く投げた。ベッドに優しく跳ね上げられ、ポフっとベッドの上に戻る。


 無駄だ。

 

 違う。


 こんなことがしたいんじゃない。



 俺は、美香が好きだ。

 俺が好きなのは美香だ。


 俺である以上、誠実で気さくで明るくなければならない。


 なのに、力が湧き出なかった。


 おかしいな。



 傷つけたんだろうか。

 あの二人を。……リリィとアンナを。


 

 それが、悲しいのだろうか。



 ……あの二人が傷ついた理由を考えたくない。



 その事実だけでいい。

 ああ、嫌だ。嫌なことから全部目を背けたい。


 重力の重さを感じる。

 疲労が抜け落ちない。体が重い。気怠くて、気分が悪い。頭痛が痛む。


「こういう時、どうすれば良いんだよ……」


 誰かに聞くわけではなく、自分で呟いてみる。


 答えは出ない。


 姉さんはいつ帰って来るだろうか。

 いや、そもそも姉が帰ってきたとしても自分が彼女に相談する事はないだろう。


 姉さんには弱音を吐きたくない。

 ……吐けない。


 どれだけ姉さんが優しく、「頼っても良いんだよ」と囁いても。彼女に泣き言を言える気がしなかった。


 信頼はしている。

 でも。どうしてか、出来る気がしなかった。


 

 どうすれば良いのだろう。



「…………母さん」



 母の顔を思い浮かべてしまった。

 見下ろす目。冷たい表情。凍りつくような視線。


 それでも。

 子供だった俺が泣き言を言った時、「うるさい」とひっぱ叩いて構ってくれたのは。


 あの、母親だけだった。

 記憶がある。感情が覚えている。


 どれほど痛くて悲しくて辛い記憶だったとしても。


 泣いた時に、相手をしてくれたのは母親だったという自覚が。



「………助けて、母さん」



 もうどこにいるかも分からない。

 何をしているのかも、最早自分を覚えているのかどうかさえも分からない。



 けれど。

 それでも。縋ってしまう。



 これが、呪縛なのだろうか。


 急に。

 吐き気がした。



 すぐにトイレに駆け込み、腹から上がってきた吐瀉物を吐き出した。

 胃酸の味と言いようの無い苦しさが残る。


 食べたものが全部吐き出された。

 何度も、何度も吐き気は絶え間なく襲って。息が出来ない。


 苦しい。苦しい。苦しい。



──ガチャ。


「ただいま〜」


 ドアノブが開けられ、ドアが開く音がする。玄関口の音だ。


 便器に突いていた手を使って体を起き上がらせて、口元をトイレットペーパーでふく。

 すぐに吐瀉物を流した。



 気分は悪いけど、吐き気はもうしない。


「あれ、トイレだった?」

「いや………。お帰り」

「今日の夕飯何かな〜?」

「クリームシチューだけど。良いでしょ?」

「おっけーおっけー。いつもありがとうね」


 姉の言葉に心が少し軽くなる。

 何気ない感謝に、嬉しくなった。


「体調悪いみたいだし、先にお風呂入って休みなよ」


 ……気付かれてたか。


「ありがとう」

「うん。ちゃんと休んでね」


 二人暮らしに慣れたせいだろうか。

 お互いに気を遣い合えることが多い。



 前の家にいた時は、たまに喧嘩したりもしたし、気なんて使い合わなかったのにな。


 

 明日は大会の二次予選なんだ。

 ちゃんと、しないといけない。


 そうだ。

 失敗は出来ない。


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