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シュクリ・エルムの涙  作者: 朧 月夜
■第四章■ TO THE CHOUCRE(シュクリ山へ)!
31/86

[31]真っ赤の原因?

 多分、きっと、朝までたっぷり眠った筈……!


 だって眠気なんてちっとも感じないもの! 眠った覚えなんて……まったくないけど!!

 身体は昨日の疲れを背負ったまま、それでもあたしは問われたくなくて、キビキビと先頭を歩いていた。


 何をって~!?

 もちろん昨夜のことだってば!!


 べ、べ、別に~ただの「おやすみのキス」だってことは分かってるよ! あんなに唇に近かったのも、あたしが立ち上がる途中でされたから、アッシュの手元ならぬ口元が、きっと狂っただけなんだ!!

 なのにどうしてだか、あたしはアッシュの顔が見られないまんまで……そんな動揺を隠したいと思ったせいか、ルクの顔も見られなかった。


「アシュリー、ルクアルノ。悪いのですが昨晩のように、お先に昼食を取りやすい場所を見つけて、準備を進めておいていただけませんか?」


 気持ちの落ち着かないザワザワした背中の後ろで、ツパおばちゃんの淡々としたお願いが聞こえた。その声に驚いて、急いで足を止め振り返る。了解したアッシュはあたしの横を通り過ぎながら、「それじゃ、ゆっくりおいでね」と声を掛けて、ルクと共に目の前のけもの道を登っていった。


「どうして? ツパおばちゃん。あたしなら、まだまだ大丈夫よ!」


 歩み寄るおばちゃんへ、あたしは元気をアピールしようと一層大きな声を出した。でもおばちゃんは(いぶか)しそうな表情を変えず、首を(かし)げ、


「本当ですか? ではどうしてそんなに顔が赤いのです? 熱があるのを我慢しているのではないですか?」

「え……」

 

 と、相変わらずの真っ赤な瞳で、あたしの「きっと同じように赤い」ほっぺを凝視した。

 ん? 同じように赤い……??


「ねぇ、おばちゃん。おばちゃんこそ、昨日どうしてあんなにほっぺを赤くしたの? えーと……確か、弓のお師匠様のお話になった時!」

「……え?」


 途端おばちゃんのほっぺも、昨日のように赤みを取り戻す。まるで質問を逸らしたいように、サッと(おもて)を逸らして先を歩き出した。


「あ、あ、赤くなどなっておりません!」


 いや~明らかにまっかっかだってばー。

 あたしは慌てて後を追い、おばちゃんに並んで横顔を見た。

 あれ? でも、この状況ってなんか……あたしの動揺に似てる??


「ツパおばちゃんも弓のお師匠様と何かあったの?」

「……? それはどういう意味ですか? 私「も」とは?? ……リルヴィに何かあったということですか?」

「──えっ! あ……いや~……」


 思わぬ逆襲に口ごもってしまった。やっぱり自分のことを話さないで、おばちゃんの話を探るのは難しいなぁ。


「おばちゃんはどうやってお師匠様と知り合ったの? 誰かからの紹介??」


 益々スピードを速めるおばちゃんに、前方を注視しながら必死について行く。時々向けられるあたしの視線に、数回揺らぐ眼差しを合わせたのち、おばちゃんはついに観念と口を開いた。


「師と出逢ったのは偶然です。二年前、アイガーとこの森を散策していた折に遭遇しました。あちらは狩りの最中で……師の猟犬とアイガーが仲良くなったことが始まりでした」

「え? アイガーが!?」


 おもむろにあたし達の前を歩くアイガーを見やる。自分が話題に上ったことに気付いたのか、アイガーは嬉しそうに尻尾を振った。


「アイガーがその猟犬を大層気に入ったこともあり、お会いする機会は増えていきました。それを機に、弓をお教え願いたいと申し出たのです。初めは承諾いただけませんでしたが、事情を伝えて何とか……」

「事情って? サリファのこと!?」

「……はい」


 おばちゃんの返答は更に重苦しくなった。やっぱり自分の叔母があの大虐殺の首謀者という過去は、ツパおばちゃんをずっと縛りつけてきたのだ。あたしはそう確信して、独り無言で頷いた。


「タラの家でそんな話になりましたか? ……本来なら、ウェスティが二度目の事件を起こす前に、私はラヴェルの背中を押すべきであったのです。結界内に閉じ込めていた叔母と従弟(いとこ)を葬ること……ですが私がその機を(うかが)っている内に、ウェスティは蓄積した力を放出してしまった。そして今回も……全ての責は私にあるのです」

「そんなこと……ツパおばちゃんのせいじゃないよ! パパだってきっとそんな風に思ってない……だからパパはおばちゃんに、首相になることを勧めたんだよ!!」

「リルヴィ……」


 いつの間にか叫んでしまったあたしに、ツパおばちゃんは戸惑う(まなこ)を見開かせた。二人して歩くのを止め、向かい合わせになり、アイガーも少し先で振り向いた。


「違うのです、リルヴィ……私は──」


 その時──突如アイガーが吠え立てた。サッと寄せたあたしとツパおばちゃんの視界の遠く木々の奥、繁みがガサガサと音を放ち揺さぶられる。刹那アイガーが戦闘態勢に入るかの如く、前身を下げ腰を上げ、低い唸り声を上げた!


「な、何……?」

「リルヴィ、下がってください……アイガーも下がりなさい! 貴方はもう十匹の子犬の父親なのですよ!!」

「えええっ!?」


 アイガーったら、いつの間にパパに!?


 ツパおばちゃんの大声に、繁みから白い影が飛び出した!

 それは大きく飛び跳ね、同時に飛び掛かったアイガーの上を飛び越し……あたし達目掛けて襲ってきた──!!




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