表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シュクリ・エルムの涙  作者: 朧 月夜
■第三章■ TO THE PRECIOUS(宝物へ)!
17/86

[17]光の正体? *

「ラヴェル! ラヴェル!!」


 ママのパパを探す声は、ずっと先の方でずっと続いていた。


 あたしは息を切らしながら走りに走った。しばらくして向かう方角から、沢山の人が慌てふためきドタバタと押し寄せてくる。きっと王宮に勤める従者や侍女達、宮殿近くの民家の人が、あの紅い光を見て逃げてきたのに違いない。


 あたしは人ごみを()けながら、それでも数人にぶつかりふらついては、ママの後を必死に追いかけた。でもさすがに暗闇の中、人を掻き分けてついて行くなんて無茶に決まっている。あっと言う間に見失って、何とか城門に辿り着いた時、紅い光が一気に強くなった気がした。


 垣根に隠れてパパとママを探しながら、逃げ惑う人が通り過ぎるのを待つ。赤々とした光源はどうやら炎ではないみたいだ。火事ではないのだとちょっとだけ安堵して、けれどそれが光る場所に思い当たり、あたしの心臓はドクンと一つ波打った。


 おばあちゃんの部屋の方向だ……!


 呼吸を落ち着かせ、目指して庭を突っ切った。やがて見えたのは、部屋のすぐ外で揺らめくおびただしい(くれない)の光と、その前に──光へ向け剣を構えるパパだった──!!


「サリファ……やはり生きていたのか……」

『おや……生きていると分かっていたから、来たのではないのかい? ウル……』


 パパの言葉に光の中心から悪意のある声が応えた。サリファって誰!? パパを本名「ラウル」の後半「ウル」と呼ぶ人は、あたしも一人だけ知っている──パパがママと旅した時にやっつけた、化け物を操っていた人──ウェスティ……パパの従兄(いとこ)で、先代王の息子だ。


『もちろんあんな結界の中では、ウェスティ亡き後さすがに肉体は消滅してしまったよ……が、二千六百年の執念とはおぞましいものさ……われに結界を破らせるほどの力を注いでくれた……』

「もう十分じゃないのか? 母親ならウェスティの供養に、静かに祈りを捧げるべきだ」


 母親? そうだ……ウェスティと共に、先代王によって地下の結界へ封じ込められたお妃!

 でも二千六百年の執念って一体何!?


『良くもそんな戯言(ざれごと)が言えたものだね……寄ってたかって息子をいたぶり殺したくせにっ! お前は気付いていたんじゃないのかい……? あの子がお前に「スティ」と呼ばせた訳を……なのにお前はあの子の想いに応えてやらなかった……ああ、愚かなるも愛しい息子であったと言うのに……』

「……愚かなのは貴女だ、サリファ。自分はその時そんな理由なんて知らなかった。ツパが教えてくれたのは、自分が目覚めた後だ」

『ノーム……』


 二人の会話の意味は全く分からなかった。ツパおばちゃんは何をパパに教えたんだろう? 悪いお妃(サリファ)は天を貫きそうな鋭い光の柱と化して、パパの前でユラユラと揺らめいていた。そして最後に低く呟かれた『ノーム……』という言葉……それはいつの間にかパパの背後に佇んでいた、ツパおばちゃんに発せられた気がした。


「ツパ! 来るな!!」

『ノーム……裏切り者よ……。今こうして現れたということは、われに仕える気になったのかの……?』

「私は裏切り者でも、貴女に仕える気もございません。どうか安らかにお眠りください……おば上」


 『ノーム』ってツパおばちゃんのことなの? 裏切り者って、仕えるって……それより「おば上」ってどういうこと!?


 パパは依然剣を光に突き付けたまま、ツパおばちゃんのことを心配しているみたいだった。サリファの光は益々強くなって、そのうち二人を呑み込んでしまいそうで怖かった。


『まぁ良い……強気なことを言っていられるのも今の内さ……われに『力と肉体』が戻れば、誰も逆らうことなど出来なくなる……。そしてそれももう少しだ……その『力と肉体』は……まさに今其処で、われを待ち構えておるのだから……!』


 サリファの自信に満ちた大きな声と、高らかな(わら)いが轟いた瞬間、光は大波のように上空に立ち昇って、一気に雪崩(なだ)れ込んできた! でも呑み込もうとしたのは、パパとツパおばちゃんではなくて──


「ルヴィ……!!」


 ──え!?


 視界の全てが真っ赤になったと思うや、誰かに突き飛ばされて真っ黒に変わった。気付けば芝生の上に横倒しになっていて、振り向いた先には──!


「……あ……あっ……マ、ママっ!!」


 真っ赤な光がまるで炎のように、苦しそうに立ちすくむママの全身を包んでいた!


「ユーシィ!!」


 パパが叫びながら駆け寄ってきた。光はママを中心にグルグルと回り、誰も寄せつけようとはしなかった。


『おぉや……母親とはどうしてこうも強いものかね……。お陰で的が外れてしまったが……まぁ、今はこの肉体でも構わないか……いや、むしろ好都合だ。ウル、シュクリの山頂でお前を待つ。ユスリハを返してほしくば、『ラヴェンダー・ジュエル』と変わりの肉体、出来れば若くて美しい娘を頼むよ……連れて来たら、お前の愛妻を無事解き放してやろう……これから陽が昇ってからの三日間猶予を与える。それまでユスリハには手出しはしないと誓ってあげるよ。飛行船で一気に来てくれても構わないが、変なことを考えているなら、こちらも容赦はしない……良いね? ウル、ノーム……それから「宝物に吊られてやって来た、可愛い孫のリルヴィ」……』

「……あっ……ああ……!」


 あたしがずっと会いたかったおばあちゃんは……結界に閉じ込められた悪いお妃の「成りすまし」だった……!


 ママは気を失ったように瞳を閉じ、光に(いだ)かれて宙に浮かんだ。

 

「サリファっ! 待て……ユーシィを──!!」

「ユスリハ!!」


 パパとツパおばちゃんの叫びが、紅く染まっていく夜空に(わび)しく響いた。


 どうしよう……どうしよう……! あたしのせいだ……あたしを(かば)ってママは──!!



挿絵(By みてみん)




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ