2
「司令官として、この時点まで、帝国が黒龍によるリンデンへの攻撃計画を事前に察知できなかったことを詫びる。」
ヴァルがテーブルに着いている面々を見ながら、まず口火を切った。
テーブルは、私がオーダーした、かなり大きめの円卓だ。このテーブルに着席した者は、自由に意見を取り交わしてほしい、身分の上下は関係ない、というかつての歴史書から採用したもの。だが、テーブルを見たセスは、
「ええー、丸かろうと四角かろうと、イザドラの放言には関係ないでしょ。」
と、言い、テーブルの下で、イザドラに足を蹴られていた。ヴァル、ヴァルの副官でもあるセス、イザドラ、テオ、ベネディクト、フェリシティ、皆が「文官くん」と呼ぶクリストフ、それに私が主なメンバーだ。
私は、
「帝国での諜報活動は王都の責任。砦だけの問題ではない。それよりも、黒龍の威力を知りたい。」
といって、ベネディクトを見やった。ネッドが頷く。
「西国と帝国の間にある山岳地帯に数百年前から住み着いているという噂の黒龍のようです。であれば、体長約200メートル、翼を広げた幅も同じく200メートルの翼竜です。従って飛行もできます。ただ、身体が重く、飛行速度は時速20キロというところでしょう。体が重いのは、鱗のせいです。一枚一枚の強度が400度から700度です。これは、人の振る剣を通さないどころか、通常の矢も弾きます。」
ネッドがセスの方に視線を投げかけると、セスがネッドの言葉を引き継いだ。
「その強度に対応できるのは、足で引く一番大型の弓か、歯車式で引くクロスボーしかないわ。大型の弓は2機、クロスボーは先年開発されたばかりで、5機しか導入していないの。どちらも重すぎて機動力を失うし、戦場で兵士を相手に使うには適していないと判断したから。弓隊でも皆が使える技能を持っているわけではないし。なんにしろ連弾はできない。特に大型はね。」
ネッドが再び説明を始める。
「そもそもそれらの矢が全て当たったとしても、致命傷になるかどうか、疑問が残ります。一度で致命傷を与えられないのであれば、傷を負った黒龍に、そのまま蹴散らされる結果しか見えません。」
誰もが踏み潰される兵士たちの姿を想像していた。
「我々だけでは黒龍を殲滅するのは難しいということだな。支援部隊は?」
私が問いかけると、ヴァルが頷く。
「すでに、王都には連絡済みです。早急に第三師団が動くとの返事がありました。最初の支援部隊が早馬で到着するのが三日後。第三師団すべてが出揃うのは早くとも5日後となります。」
ネッドが続ける。
「第二、第四師団は、王都を固めます。弓部隊中心の防衛、しかも機動力のない武具を中心の戦いであれば、砦で黒龍を相手にすることになります。砦で待ち受けるのであれば、我々の部隊と第三師団で砦は満杯状態になります。」
ヴァルが、
「非戦闘員は全員退去させる。」
と、言いながら、フェリシティを見やる。
「既に荷物をまとめてるわ。今日中に出発できる。一旦街に向かい、官舎の兵士家族たちと合流する予定。」
私がフリスに指示を出す。
「近隣の街、村からの一般住民に緊急避難命令を出す。黒龍の動きが不安定だ。近隣の街が戦場にならないとも限らない。自警団と共に、王都に向かって退去するよう指導してくれ。」
フリスと文官のクリストフが頷いた。何か言おうとするフリスをヴァルが遮った。
「リオン殿下、フリスと共に、市民を率い、王都に向かってください。」
顔に血が上った。頬が熱いのに、指先と心が冷え込んだ。