17 フェリシティ・ストラウス視点
私がなんでこんなことしてるのか、誰か説明してほしい。
私のふくれっ面に気がついたのか、クリストフが慰め顔で、
「なんか、ネッドの手足として動いてるって気分が高揚しない?探偵になったみたいだよね。」
と、言う。
まあ、嫌いじゃないし、こう言うことは下手でもないと思う。気配を消して、何気に人の話を拾うのは。そして、そのネタを元に、相手を脅・・・説得することには自信がある。貴族なら必要なスキルだ。
「いや、フリスの技術は、そんじょそこらの貴族院のメンバーのものを遥かに超えているよ。」
ネッドに煽てられて、ついつい探偵の真似をしてしまった。これもそれも、ネッドのせいだった。いや、ネッドを駆り立ててるのはセスか。あのあたりをどうにかしないと、別の意味でストラウスの次世代が望めなくなる。あの子の才が受け継がれないのは残念すぎる。
ネッドの隙のない計画は、うちの従僕たちに、数日前からイエーツ伯爵夫人の実家を見張らせることから始まった。
「イエーツ家を見張ってたって、誰がどの馬車で出てくるかわからないじゃない。夫人を捕まえるなら、夫人の実家だよ。」
と、ネッドが指示したからだ。
そして今日、夫人が訪れたという従僕の連絡を聞いて、私たちがおっとり刀で駆けつけたのだ。今は、夫人が出てくるのを待っているところだ。
ネッド曰く、イエーツ伯爵が、ミュリエルを絶縁することを決断したとしても、夫人は、完全には納得していないのではないはず、だそう。
養子を迎え入れるという大事な時期に、伯爵は勘当したミュリエルのために身代金を出すことを拒否するだろうし、そうなると、金にならないミュリエルの命は風前の灯だ。娘の命がかかっているのだ、夫人は金策に奔走するだろう、と、ネッドは読んでいる。
夫人には、イエーツ家では動かせるお金など全くないだろうから、金策にの先として行き着くのは実家に違いない。そう推理して、2、3日前からイエーツ夫人の実家を張らせていたそうだ。
ほんとかね、と半信半疑でいたら、従僕から連絡が来たから驚きだ。イエーツ夫人を捕まえるべく、私と(むりやりついてきた)クリストフが駆けつけたという訳だ。
「あれが夫人の乗った馬車ですぜ。門を出てきました。」
従僕のティムが声をかけた。
「ちょっ!」
クリストフの止める声を聞く前に体が動いていた。門から出てくるまだスピードの出ていない馬車の前に飛び出して、両手を大きく振る。
「止まって!」
「どう!どう!」
御者が慌てて馬車を止めた。これが平民だったら御者も私を怒鳴りつけたろうけど、おあいにく様、私は身なりも良い、王宮の女官様だ。
急いで馬車の横に回り込んで、ドアを開ける。
驚きのあまり目を見開いたままのイエーツ夫人に声をかけた。
「ご実家からお金出してもらえました?」
そのまま馬車に乗り込む。
後から追いかけてきたクリストフが、
「待ってよ!」
と文句を言ったけれど、クリストフには、
「御者台に行って、イエーツ夫人と話があるからちょっと待っててって伝えて!」
と、指示した。
イエーツ夫人はあわあわしている。その手にはハンカチが握りしめられ、見開かれた目は真っ赤に血走っている。
相当泣いたな。
「イエーツ夫人、身代金は準備できたんですか?」
それを聞いたとたん、夫人の体が震え始めた。あ、まずい、これじゃあ、犯人の一味だわ。
「いえ、私は犯人の使いじゃありません。大事な貴方のお孫さん、ミケランジェリーナをお預かりしているので・・・」
イエーツ夫人の体がずるっと滑った。腰が抜けたのかもしれない。何言っても犯人みたいに聞こえるのどうにかならないかしら。
落ち着け。
「私、ミュリエルの友人です。ミュリエルが家を出る前に、ミケランジェリーナちゃんを預けにきたんです。いいですか?わかりますか?」
イエーツ夫人がこくこくと頷いた。
「で、ミュリエルから連絡があったんです。『誘拐された、お金を持ってこないと殺される。』って。」
イエーツ夫人の両目から、まだ残っていたのかと言わんばかりの涙が流れ落ちてくる。
「私じゃお金用意できないし、お家の方に連絡しなきゃと思って・・・でも、イエーツ伯爵に取り次いでいただけなかったので、ここに押しかけました。ごめんなさい。驚かせて。」
嘘っぱちだけど、辻褄はあってるだろう。
「・・・主人は、主人はお金を出してくれなくて・・・」
涙の間に、途切れ途切れに言葉が続く。
「伯爵は身代金を出さないんですか?」
夫人が頷く。
「あの、いつまでに身代金を用意しろと言われてるんですか?」
「・・・おととい。」
おいっ!
私のもの言いたそうな表情に気がついて、夫人が続けた。
「おととい来た使いの人には私の手元にあった宝石をあるだけ渡したんです。主人には止められましたけど。あの宝石は私が持ってきたもので、主人のものではないので・・・『もう少し待ってくれ』とお願いしました。多分、待ってくれる・・・と・・・」
「で、今、ご実家に金策にいらっしゃったんですよね。ご実家はなんと?」
夫人が力なく首を横に振った。
「実家はすでに兄の代になっております。お願いしたのですが・・・」
イエーツ家が出さないものを、夫人の実家が出す義理はない、とでも言われたのだろう。
「じゃあ、どこからも身代金は出していただけないのですね?」
夫人はついに泣き伏してしまった。
私はドアを開けて、クリストフに叫ぶ。
「このまま、警備隊に向かって!」
ドアを閉めると、私の叫び声を聞いた夫人が顔をあげる。
「あの、『警備隊にいうな、いったらミュリエルを殺す』と・・・」
動き出した馬車の中で私は夫人を説得し始めた。
「お金が用意できなければ、どのみちミュリエルは殺されます。警備隊に救出してもらいましょう。それならまだミュリエルが助かる可能性があります。」




