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勇者様と言うなかれ  作者: 大島周防
愛の狩人編
62/91

14

ミーガンを腕に抱き、オムツもろもろ入った鞄を抱えて、久しぶりの我が家へ向かう。この鞄が捜査員たちにいい印象を与えたのは否めないな、と思いつつ。


家につくと、早速ジャービスからお小言が来た。


「もう少し頻繁にお戻りになって、これからのご予定をお教え願えませんか、旦那様。こちらでも多少その赤子の服など用意いたしましたのに、お渡しすることもかないませんでしたよ。」


途中何度か、私の服をストラウス家に届けてくれていたけれど、ミーガンの服も用意はしていたらしい。


「ごめん。ちなみにこの赤ちゃんの名前は・・・」


「先ほどテオ様から伺いました。ミーガンというのですね。」


「そう。イザドラとテオは?」


「お二人ともお部屋でくつろいでいらっしゃいます。」


「もう一人は?」


「屋根裏の部屋でお休みです。もうそろそろおおこししようかと。お食事をされていませんし。」


「いつ来たの?」


「早朝です。匿うことで旦那様と話がついていると。イザドラ様の名前も出されたので、屋根裏にお通ししました。他の使用人には見られていないと思いますが、下男たちは念の為、休みをとらせて、自宅に待機させております。テオ様が、『それぐらいの仕事なら俺がやるよ。』とおっしゃってくださいましたので。」


だとしたら、我が家の使用人はあとは料理人ぐらいだ。台所に引っ込んだままの料理人に事情がバレることはないだろう。


「じゃあ、皆で食事を・・・」


「お客人は部屋を出ようとはされませんが。」


「皆で屋根裏で食事ができるよう手配して。それなら大丈夫でしょ?」


ジャービスが食事の用意に向かう。部屋に戻ると私の部屋着の横にちょこんとミーガンの着替えが置いてあった。


二人で体の汚れを落とし、着替えて屋根裏に向かう。


食事はすでに届いており、簡易なテーブルにはすでにテオとイザドラ、そして娼婦がついて・・・食べていた。


「待つっていう選択はなかったの?」


と、文句を言うと、


テオが、返事をした。


「いや、このお嬢さんが、昨日から何も食べてないって言うし、一人食べ始めちゃったら、俺たちが待っても仕方ないでしょ。」


まあ、その通りだけど。


イザドラが、お嬢さんの方を見ながら、


「名前ないと不便なんだけど、なんて呼べばいいの?」


と、聞いた。


黙々と食べながら、


「ローズ。」


と、答える。


イザドラは、


「そう。」


と、言うと、そのまま食事に集中し始めた。誰も何も話さない。時々、


「ぶーん。」


と言いながら、ミーガンの口にすりおろしたりんごを入れようとするテオの声が聞こえるだけだ。


しばらく食べていないというローズの食事を邪魔するのもかわいそうだ。私も食事を終わらせることだけに身を入れることにした。(ミーガンがいるとなかなか大変なのよ)


皆の食事が終了したところで、私が口火を切った。


「ずいぶん早く逃げてきたわね。決断するのにもう少しかかるかと思ってたわ。」


ローズが満足げに息をついた。


「ジョンに、売上全額取り上げられたのよ。」


ジョンが元締めだろう。


「わけ前は7―3のはずだった。3割もらえれば、少しずつお金をためて、足を洗えるんじゃないかと思ってたんだけど、食事と寝床の値段を吊り上げられて、銀貨丸ごと持っていかれた。甘かったわ。搾り取られるのは見え見えだったから、さっさと逃げることにしたのよ。」


搾り取られ、ぼろぼろになり、売り物にならなくなったら、道端に捨てられると。カスティーヨの定めだ。


イザドラはすでにテオから娼婦の話を聞いていたのだろう。口を挟むことなく、黙って聞いている。


ふと、思い出した。


「金貨は?」


あげた金貨はどうしたのだろう。


「あれは飲んだから大丈夫。とられてない。」


うわ。


「情報提供のお礼として、新しいのあげるから、取り戻すのはやめてよ。」


ローズはニヤッとしているけれど、返事はしない。絶対やめてよね。


「カスティーヨにはどのくらいいたの?」


情報の信頼性は、どれだけ周りのことがみえていたかにもよる。昨日今日きたばかりでは、あの通りの事情を知っているかわからない。ローズは比較的新鮮な犠牲者のような気がする。


「これでも2ヶ月、あの通りで生きてきたんだから。」


うーん、厳しいかな?2ヶ月であの通りを把握できるかな?考え込んでいると、ローズが改めてミーガンに目をやった。


「母親似ね、その子。」


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