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「いたたっ!」
ネッドが声をあげる。知らず知らずのうちに、ネッドの手を強く掴んでいたようだ。私はその手をゆっくり離した。
「何やってたの?」
眉を上げながら妹ちゃんが聞いてきたけれど、ネッドは質問に質問で答えている。
「フリス、ずいぶん早かったね。さっき城に呼び出しの使いを出したばかりだったのに。」
「え?そうなの?行き違いなんじゃない?使いには会ってないわよ?」
妹ちゃんの後からいつの間にかついてきていた家令が、
「フェリシティ様をお呼びだったので、問題ないかと思い、すぐさまお通ししましたが、よろしかったのでしょうか?」
ネッドが頷く。
「ああ、構わない。」
「なんでそんな普通の会話してるのよ!」
たまらず、私は思いっきり声を上げた。
三人の視線が私に集まる。
「貴方がちょっと腑抜けになってたからよ。戻ってきた?」
妹ちゃんは容赦ない。足を投げ出すように、ネッドの横に座る。ネッドといえば、家令に席を外すように指示している。
ああ、しっかりしなきゃ。両手で両方の頬を叩いた。
「どういう状況なの?」
「二日前に王都の南で死体が発見されたのよ。顔が完全に潰されてたし、下着だけで、身元のわかるようなものもなかったらしい。ただ連絡を受けて出向いた警備隊の捜査員が結構できる人たちで、労働したことないような手や体つきから、貴族である可能性もなきにしもあらず、ってことで、貴族院に連絡したらしいのよ。推定の年齢、頭髪の色から、行方不明になっているモーガン・イエーツの可能性ありってことで、イエーツ家に連絡が行ったんだけど、伯爵家は身元の確認を拒否したらしいのね。『娘じゃあるまいし、見てもわからん』って。それで、バスケスの関係者に連絡が入って、今日、ようやく死体がモーガンだと確認されたというわけ。」
ここでようやく妹ちゃんが息をついた。
「騒ぎに気がつかなかった。ごめん、情報入手が遅くなって。」
いや、十分早いと思うわ。
首をふりながら、再度確認する。
「ねえ、間違いないの?」
妹ちゃんが、
「死体の右手の掌の真ん中あたりに、小さな矢印の刺青があるから間違いないって。ちょうど握り込めるあたりにね。」
と、言いながら、自分の手を指さす。
モーガンが、結婚すると報告に来た時、振った掌にその刺青があったな。何を意味してるかわかったけれど、口にすることはなかった。だって人のものになるのだから。
「じゃあ、間違いないわ。」
ネッドにも妹ちゃんにもその意味はわかったのだろう。しばらく沈黙が続く。
「殺害されたのも確かなんだよね。撲殺?」
妹ちゃんが頷く。
「クリストフが警備隊に確認にいってくれた。警備隊の報告書によると、腹部にも殴った跡があるけれど、頭蓋骨の陥没があったから、それが死因らしい。死体は割と・・・新しかったから、多分、発見される前夜ぐらいに殺害されたんじゃないかってことらしい。」
ネッドが私をまっすぐに見つめた。
「最悪の事態に備えましょう。モーガンが殺害されたのは、セスが王都に戻ってからです。殺害の犯人ではないかという嫌疑がかけられても不思議ではないのでは?」
「ちょっと!そんな未練ないわよ!」
ネッドに抗議するけれど、首を横に振る。
「未練がないと証明するのも難しいでしょう。ずっとモーガンを探し回っていたし。」
「それは!」
「わかってます。ミーガンとミュリエルさんのためですよね。私たちはもちろん理解していますよ。でも、官憲がどう捉えるかは別です。毎日のように夜出かけていましたからアリバイもないでしょう?」
あっちゃ。
「イエーツ家の方が、有る事無い事、捜査員に吹き込んでるでしょうしね。」
妹ちゃんが無情に切り捨ててくれた。だけどこれが現実でしょうね。動きが取りにくくなるな。
三人で考え込んでいるところに、家令から、来客を告げられた。




