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勇者様と言うなかれ  作者: 大島周防
愛の狩人編
57/91

9

やばい。本気でやばい。引っかかるかも。アダルティが苦手な方、ごめんなさい。

カスティーヨに来るのも三夜目。日が短くなり、だんだん冷え込んで来るし、ウロウロするのも限界よねぇ、と思っていたら、暗い小路の奥から声がかかった。


「騎士様、遊んでいかないかい?」


何度か同じようなことは起きていたけれど、今夜の声のアクセントに聞き覚えがあった。


「あら、帝国出身?」


そう言った途端、舌打ちがした。


「チッ、冷やかしかい。他所いっておくれ!こちとら遊んでる暇ないんだからね。」


暗闇に慣れると、思いの外イキの良さそうな女の顔が見えた。路地に立っている女にしては、って意味で。息も絶え絶え、立っているのがやっとっていう娼婦だっていないわけじゃない。


おまけに一人だ。自衛のために複数で立っている女の子が多いなかで。ラッキー!


「そんなに無下にしないでよ。」


笑いかけると、女が一歩踏み出してくる。


「探しもんは男だろ?あいつらは外に立たないよ。店へお行き!」


その辺のことが分かるということは、新米でもないってことよね。


「男探してるってわけでもないのよね。」


そう言うと、私は女を囲い込むように壁に手をついた。女の耳に顔を寄せ、


「探し物は情報よ。」


女は顔を顰める。


「ここじゃ見つからないよ。無駄話してると後で元締めに殴られるんだからね、さっさとどいてよ。」


トラブルを避けて、女も囁くように喋る。どっかの窓から元締めがのぞいているんだろう。


「嫌わないでよ。金にならないとは限らないでしょ?」


私は女の露出した胸の谷間に銀貨を滑り込ませた。


『冷た!!ちょっと!これっぽっち!?』


咄嗟に帝国語がでてる。


『やっぱり帝国?流れてキタノ?』


習い覚えたカタコトの帝国語で話しかけてみる。


「どうでもいいじゃないの、そんなこと。アンタはなんで帝国語喋れんのよ。」


「北の砦にいるからよ。」


砦の名前を上げたとたん、女の顔が歪んだ。


「あんたもあの難民キャンプにいたことあるの?」


返事はない。だけどこの反応はそうだろう。


「よくまあ、王都までたどりつけたわね。その根性は買うわ。とはいえ、この生活は本意じゃないでしょ?」


吐き出すように女が、


「ただでやられるより、金がもらえるだけましよ。」


と、言った。ああ、これは。


「ハリソン司教のことを言ってるのなら、奴は処刑されたわよ。北の生活はかなり向上してる。難民たちも、テントから脱出して、生活の目処が立ち始めてる。」


女の目が見開いた。


「しゃがみなさい。私の股間の前に頭がくるように!」


これ以上の無駄話は、元締めに疑われる。


女は言われた通り股間の前に顔を寄せ、私のズボンのボタンを外し始めた。


「フリだけでいいわよ。そこまでリアルにしなくても。」


この際だ、金がなくてこの辺で処理する最低野郎に成り済まそう。女がクスクス笑う。


「あたしで立つの?」


「無理。で、聞きたいことあるんだけど。」


女は顔を上げずに答えた。


「何?」


「ちょっと太めの一途な赤毛の貴族の女の子が、旦那を探してこの通りに乗り込んでこなかった?」


客で来るモーガンはこのカスティーヨでは目立たないだろうけれど、ミュリエルは違う。ミュリエルを中心に探した方がいい、というのは、ネッドの提案。


女の肩がビクッと動いた。しばらく返事はない。


女の頭がリズミカルに上下に動き出した。震える声で答える。


「その質問はやばい。答えてそのままこの通りにいられるとは思えない。」


機転が効くことといい、2ヶ国語を流暢に操ることといい、かなり教養のある子なんだろう。耳と目をしっかり開いているのに、口はきっちり閉じて生き残ってきたのは想像がつく。


「あんたに犠牲を強いるつもりはないわ。でもこの生活を続けたいわけでもなさそうよね。だったら隙を見て私の家に逃げ込みなさい。」


そのまま、自宅の住所を伝える。


「無事に逃げ切れたら、あんたの見てきたことを教えて。その代わりその後の生活の面倒は見る。王都から出れば安心でしょ?うちには、イザドラっていうのがいるから、相談して。ずっと難民の面倒みてるから、安全なところで生活が成り立つようにしてもらえる。」


返事はない。


全身から力が抜ける振りをした。溜まってたから早かったことにしてもらおう。


手をとって、女をたたせる。その手にあらためて、金貨を忍ばせた。


「ここにい続けれは、あんたはただの消耗品よ。いずれは体を壊して捨てられる。賭ける価値はあると思うけど?」


女は口を拭うフリをしながら、口に金貨を含む。いざとなったら飲み込むのだろう。


私はズボンを直すフリをしながら路地を後にした。



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